1995年5月25日発売
六本木の中心に劇場を構える劇団・演劇座。硬直化した状況の大掃除役として脚本家・河野圭子に白羽の矢が立つ。ゲーテの「ファウスト」を旧友の団員・熊田のメフィストで、上演しよう。圭子の想いは深まる。が、熊田は現われない。俳優の基本は肉体。俳優に必要なものは華。演劇の原点を問い直す圭子の格闘の日々が始まった。
夫の癌との闘病時に回復した関係がいままたあやふやになっている五十代の夫婦のある種の喪失感を伴った日常を軸に描くそれぞれの惑い。忍び寄る老いを感じつつも、なお恋の妄執にとらわれつづける男や女たち。
江戸幕藩体制の危機管理はいかにしてなされたか。一揆、大火災、反乱、殺人…、数々の危機に、深慮と英断をもって対処した名君、会津藩主保科正之の実像に迫る、直木賞作家の傑作時代小説。
リュウ・アーチャーやフィリップ・マーロウやマイク・ハマーや、とにかく、その種の探偵小説を読んでいると、そこに自分の願望と人生の理想がうっとりするほど投影されているのだった。長い間夢に見てきた日々が、木野塚佐平氏の六十年の人生において、ついに現実のものとなりつつある。…新宿に『木野塚探偵事務所』を開き、電話を引き、秘書の募集広告をした。そして、応募してきた秘書は、華奢な首と、丸いとぼけたような大きい目を持ち、女子高生のアルバイトとみまがう痩せた女の子だった。木野塚氏はこの梅谷桃世と難問にとりくむことになる。
ロゼッタ石に刻されたエジプト文字の研究に打ち込むシャンポリオンを主人公に、解読という行為に憑かれたひとりの人間の運命を描きだす。ボルヘスの短篇を思わせる不思議な筆致によって浮かび上がるのは、書物に埋もれたエジプト学者ではなく、いわば古代エジプト人の最後の生き残りなのである。
容姿端麗、頭脳明晰-とにかくすこぶるつきのいい男。なのに性格は意地悪で皮肉屋で人の三倍くらいヘソ曲がりで…。その名をシャルル・アジャンというこの男、ルポライターとは世を忍ぶ仮の姿。じつはコードネーム〈白虎〉こと某国諜報部員なのである。そして、俺…ハルキ・カゲヤマ、19歳。一介の学生だったのに、なんの因果かこのシャルルの奴に見初められ、情けないことにメロメロにされたあげく部下にさせられちまった…。
世界中から美男美女を吸い寄せ、彼らの人生をメチャメチャにしてしまう華麗な魔界、ハリウッド。そこに君臨するスーパー・スターは、スーパー下衆男だった。過去を捨て、名前を変えて、ハリウッドに出るジョゼフィンを待っていたものは…孤独な中でついに出会ったひと組の男女の運命を、天上の星たちは“吉”と定めるか“凶”と書くか。殺人は事故になるか。宿命の男女を乗せて、豪華客船がいま出帆する。