1995年発売
『白鯨』に続く、詩人原光氏の入魂熟成の新訳第二弾。ほぼ全中短篇を含む。細部と全体の結像力は強く鋭く精妙である。各篇は審美的に完結しながら含蓄深く、人間実存の秘奥の測深かつ啓示である。黒人バボは哂し首にされても奴隷主の白骨を幻視し、取付いた凝視で白人船長を殺す。その眼光の意味は何か。
堅い会社勤めでひとり暮らし、居心地のいい生活を送っていた深文。凪いだ空気が、一人の新人女性の登場でゆっくりと波を立て始めた。深文の思いはハワイに暮らす月子のもとへと飛ぶが。心に染み通る長編小説。
苦闘の末、倒幕はかなった。だが恩賞と官位の亡者が跋扈する建武の新政に、明日があるとは思えなかった。乱があるー播磨に帰った円心は、悪党の誇りを胸にじっと待つ。そして再び、おのが手で天下を決する時はきた。足利尊氏を追って播磨に殺到する新田の大軍を、わずかな手勢でくい止めるのだ。赤松円心則村を通して描く渾身の太平記。
ジンギスカンの秘宝が、中国北辺に流れついた男たちの暗い野望を煽る。新伝奇の名作として知られる表題作、天明期、シベリア探険を試みた日本人の異常凄絶な最期、中国紅軍に参加したドイツ人の酸鼻を極めた体験奇譚など、虚実ないまぜ、異境での人間の孤独な夢と暗い情熱を描く七編は、妖しいまでの魔力で読者を異次元世界へ誘う。幻想と幽闇の彼方に燦然と屹立する小栗伝奇ワールドの巨峰。
北多摩署刑事・相馬は、ある事件で知り合った少女・坪山千江と三年後の再会を約束していた。だが、三年後、相馬と対面したのは、全裸の死体となった千江だった。殺害されるまでの一年半の間、なぜか、千江は所在不明。懸命に千江の交友関係を追う相馬は、不審な動きを見せる組織の存在に気づく。さらに、その組織に失踪者が続出していることを知った相馬は、失踪者と過去の千江の足跡を求め、伊豆、そして福島へ。そこで相馬を待ち受けていたのは、驚愕の怪事件であった。
小森由紀江は、一夜の不倫を顔見知りの男に目撃されたことから強請られ、悩んだあげく赤垣美晴を訪ねた。男の目的は金か、それとも彼女の肉体か…。だが、男は約束の場所に現われず、やがて死体で発見された。特別秘密捜査官である美晴は、複雑に絡みあう事件の渦中に身を投じ、真相に迫る。
昭和20年、B29迎撃に飛び立った紫電改4機が、現代にタイムスリップした。新たな敵は、SVLF(南沙義勇解放軍)だ。アジアの火種・スプラトリー諸島を舞台に描かれる迫真の戦闘シーン。世界の政治・軍事情勢に精通した著者が,“今”を冷静に分析し、大胆にシミュレート。
和平交渉もととのい、秀吉は上機嫌で明国の使節を迎えた。だが、思いがけぬ障害で決裂、ふたたび出兵の決断を下した。しかし、国内には不満も多く、石田三成と徳川家康との間には、次第に溝が深まっていく。こうした内外の重苦しい空気を一掃すべく、秀吉は醍醐寺に多くの桜を植え、豪華な花見の宴を催す。その最中、秀吉は異様な音声とともに倒れた。
一代の英雄・秀吉が倒れた。彼の死後、家康と三成の確執が表面化し、関ケ原の決戦へ。絶対有利の西軍が敗れ、東軍の大勝利に終わる。秀頼は摂津・河内・和泉三カ国の領主に転落。家康の孫娘千姫が秀頼のもとに輿入れしたものの、家康と淀君・秀頼母子との対立は、天下を二分し、冬の陣へと突き進む。秀吉と彼をめぐる女たちの運命を描いた歴史巨編ついに完結。
「スーパー丸美屋」の社長・吉永真一郎は、中背で身体つきがほっそりしていて髪の豊かな人妻が好みだ。密会をつづけていた秋葉彩に高杉水絵を紹介された。約束の電話をいれたら、水絵とテレホンセックスが始まってしまった。それから三時間後、二人はホテルで落ち合った。三十二歳の人妻の手指は、吉永のこわばりをさすりたてた。「しゃぶってくれるか」吉永は、水絵のふくらみ勃った乳首の実を、指で揉みころがした。「しゃぶらせて-」水絵は切羽詰まったように湿った声を絞り出した。
カナダの多民族が抱える悩みは、教育や文化に及んで、社会と深く関わる。それらの事柄が文学によって、それぞれの作家の目で語られる。本書は、現代カナダの深奥を知るための重要な資料であり、著者16年に亘る研究の集大成である。
こんな都会に妖精郷が存在する。ジャッキーだって最初は信じていなかった。でもあの晩、暴走族に追い回されていた人影は人間にしては小さすぎた。小男は目前で轢かれ、あとに残るは灰と赤い帽子のみ。そこで彼女が恐る恐るかぶってみると…見慣れていたはずの町は妖精たちで一杯。おまけにその別世界で巨人退治の大役を命ぜられてしまうなんて。元気な現代ファンタジィ。キャスパー賞受賞作。