1996年6月発売
正義感と人情に厚い岡っ引、騒々しい子分の八五郎を供に、窮地は名人芸の投げ銭で切り抜ける、ご存じ銭形平次。若い娘が化粧品屋で次々と消える『金色の処女』、与力一家に崇る化物の怪『復讐鬼の姿』、輿入れ途上の花嫁が相次いで誘拐される『七人の花嫁』など、江戸情緒たっぷりの妖奇と謎。初文庫化作品を中心とした初期傑作十編。恋女房となるお静とはまだ許嫁の仲。全編にみなぎる若き平次の魅力。
太平洋戦争中、フィリピンの山中でアメリカ兵を目前にした私が「射たなかった」のはなぜだったのか。自らの体験を精緻で徹底的な自己検証で追う『捉まるまで』。死んだ戦友の靴をはかざるをえない事実を見すえる表題作『靴の話』など6編を収録。戦争の中での個人とは何か。戦場における人間の可能性を問う戦争小説集。
飢饉にあえぐ天明年間、すべての厄を払う超人の出現を願う庶民の前に、忽然と現れた力人-。史上最強の実力を誇りながら、抱え主松平不昧侯や相撲会所の思惑に絡め捕られ、辛酸をなめる雷電が、苦悩のすえに抱いた大望とは…。伝説の力士雷電の、数奇な生涯の物語。
日美子と夫の二階堂が招待を受けた広田教授宅で、夜中に三女の美夏が誘拐された。犯人は三億円を要求。日美子は警察に連絡することを勧めるが、奇妙なことに、誰も届け出ようとしない。さらに長女の朱雀までが行方知れずとなり、やがて、二人は密室内で惨殺死体となって発見された。奈良を舞台にくり広げられる猟奇的犯罪に日美子が挑む、長編推理力作。
彼女の死体は香しく可憐な小舟のように流れに浮いていた。それがパールだった。天使にして妖しい精の少女が、地獄ゆえに楽園である最終戦争後の物語を照らし出していく…リアルでファンタジックな書き下ろし近未来小説。
両親が離婚し、母親と二人きりで暮らす少年リー・ボッツの心の成長過程を、憧れの作家ヘンショーさんへの手紙と日記という手法で描き、「ニューベリー児童文学賞」に輝いた、涙と笑いの心温まる感動の作品。長距離トラックを運転する父親と愛犬バンディットに寄せる思い。転校先で直面する数々の出来事。子どもをとりまくさまざまな問題を、子ども自身の視点からとらえた意欲作として、高い評価を受けている。翻訳家による解説、注釈つき。
電話のアダルト・パーティー・ラインで知り合った、東海岸に住む独身OLのアビィと、西海岸に住むやはり独身の会社員ジム。そんなごく普通の男女が、電話で何時間も止めどないことばの遊戯をくりひろげ、最後に同時にオーガズムに達して電話を切るまでがリアルタイムで描かれる。全編が男女二人の会話だけで構成され、N・ベイカーの緻密でユニークな描写が光る、大ベストセラーの異色テレフォン小説。翻訳家による解説、注釈つき。
夏が過ぎた、季節はずれのジュネーブ湖畔のホテル。大衆小説で有名な作家イーディス・ホウプは、独りそのホテルを訪れた。裕福だがもう若くない彼女は、男性社会の典型的な優等生であったがために、愛のない結婚をしようとし、それから逃れてここへ来たのだった。本当の愛のかたちを探し求めようとする孤独な女性の姿を、透明で硬質な筆致でみごとに描き「ブッカー賞」に輝いた話題作。翻訳家による解説、注釈つき。
スコットランドの長閑な田舎町で嫌われ者の画家の死体が発見された。画業に夢中になって崖から転落したとおぼしき状況だったが、ピーター卿はこれが巧妙な擬装殺人であることを看破する。怪しげな六人の容疑者から貴族探偵が名指すのは誰? 大家の風格を帯び始めたミステリの女王が縦横無尽に紡ぎ出す本格探偵小説の醍醐味。後期の劈頭をなす、英国黄金時代の薫り豊かな第六弾!
あの時代に限ったことではない。金や地位や見栄を求めれば、それがどんな社会であろうと、順応しなければならないのである。それがいやな者は、社会から冷遇されて当然である。そう思っても順応できない。そういう者は、どうすればいいのだ。死ねればそれにこしたことはないのだが…(「真吾の恋人」より)。珠玉の九篇。
警視庁捜査一課の女性警部・大江沙織は、新進刑事・吉村健治とコンビを組む。一月中旬、吉村は、恋人の美樹とその友人・燿子夫婦と奥志賀にスキーに行った。その夜、燿子がナイトスキーから帰らず、翌朝、凍死体で発見された。死体の胸には、至福千年(ミレニアム)という文字が刻まれた氷の十字架が…。さらに一月下旬には、築地の冷凍倉庫から、女性二人の凍死体が、同じ氷の十字架を抱いて、発見された。事件を追う大江と吉村の前に立ちはだかる邪悪な集団。一見、幸福な家族の裏側に潜む戦慄の真実。悲劇の恋愛の果てに狂った男の驚愕の犯罪とは。寡作の著者が、沈黙を破って書き下ろしたサイコ・ミステリー傑作。
バタイユの思想の総決算、「聖なる神」の無削除完訳。「私は哲学者ではない、狂人か、それとも聖者だ」二十世紀世界を震撼させた破天荒の思想家ジョルジュ・バタイユ。バタイユは爆弾を投下しながら書く。この爆撃のあとに無傷で立ち直れる者、それは…「創造主」(神)を除いて他にはいない。
ランジェリーメーカーのドジ社員、近藤静也-実は暴力団「新鮮組」三代目総長でもあった。筋金入りの極道の家に生まれながら、なぜか争いを好まない“静かなるドン”。週刊漫画サンデーの大ヒットコミックのノベライズ。