1996年6月発売
日美子と夫の二階堂が招待を受けた広田教授宅で、夜中に三女の美夏が誘拐された。犯人は三億円を要求。日美子は警察に連絡することを勧めるが、奇妙なことに、誰も届け出ようとしない。さらに長女の朱雀までが行方知れずとなり、やがて、二人は密室内で惨殺死体となって発見された。奈良を舞台にくり広げられる猟奇的犯罪に日美子が挑む、長編推理力作。
彼女の死体は香しく可憐な小舟のように流れに浮いていた。それがパールだった。天使にして妖しい精の少女が、地獄ゆえに楽園である最終戦争後の物語を照らし出していく…リアルでファンタジックな書き下ろし近未来小説。
両親が離婚し、母親と二人きりで暮らす少年リー・ボッツの心の成長過程を、憧れの作家ヘンショーさんへの手紙と日記という手法で描き、「ニューベリー児童文学賞」に輝いた、涙と笑いの心温まる感動の作品。長距離トラックを運転する父親と愛犬バンディットに寄せる思い。転校先で直面する数々の出来事。子どもをとりまくさまざまな問題を、子ども自身の視点からとらえた意欲作として、高い評価を受けている。翻訳家による解説、注釈つき。
電話のアダルト・パーティー・ラインで知り合った、東海岸に住む独身OLのアビィと、西海岸に住むやはり独身の会社員ジム。そんなごく普通の男女が、電話で何時間も止めどないことばの遊戯をくりひろげ、最後に同時にオーガズムに達して電話を切るまでがリアルタイムで描かれる。全編が男女二人の会話だけで構成され、N・ベイカーの緻密でユニークな描写が光る、大ベストセラーの異色テレフォン小説。翻訳家による解説、注釈つき。
夏が過ぎた、季節はずれのジュネーブ湖畔のホテル。大衆小説で有名な作家イーディス・ホウプは、独りそのホテルを訪れた。裕福だがもう若くない彼女は、男性社会の典型的な優等生であったがために、愛のない結婚をしようとし、それから逃れてここへ来たのだった。本当の愛のかたちを探し求めようとする孤独な女性の姿を、透明で硬質な筆致でみごとに描き「ブッカー賞」に輝いた話題作。翻訳家による解説、注釈つき。
あの時代に限ったことではない。金や地位や見栄を求めれば、それがどんな社会であろうと、順応しなければならないのである。それがいやな者は、社会から冷遇されて当然である。そう思っても順応できない。そういう者は、どうすればいいのだ。死ねればそれにこしたことはないのだが…(「真吾の恋人」より)。珠玉の九篇。
警視庁捜査一課の女性警部・大江沙織は、新進刑事・吉村健治とコンビを組む。一月中旬、吉村は、恋人の美樹とその友人・燿子夫婦と奥志賀にスキーに行った。その夜、燿子がナイトスキーから帰らず、翌朝、凍死体で発見された。死体の胸には、至福千年(ミレニアム)という文字が刻まれた氷の十字架が…。さらに一月下旬には、築地の冷凍倉庫から、女性二人の凍死体が、同じ氷の十字架を抱いて、発見された。事件を追う大江と吉村の前に立ちはだかる邪悪な集団。一見、幸福な家族の裏側に潜む戦慄の真実。悲劇の恋愛の果てに狂った男の驚愕の犯罪とは。寡作の著者が、沈黙を破って書き下ろしたサイコ・ミステリー傑作。
バタイユの思想の総決算、「聖なる神」の無削除完訳。「私は哲学者ではない、狂人か、それとも聖者だ」二十世紀世界を震撼させた破天荒の思想家ジョルジュ・バタイユ。バタイユは爆弾を投下しながら書く。この爆撃のあとに無傷で立ち直れる者、それは…「創造主」(神)を除いて他にはいない。
ランジェリーメーカーのドジ社員、近藤静也-実は暴力団「新鮮組」三代目総長でもあった。筋金入りの極道の家に生まれながら、なぜか争いを好まない“静かなるドン”。週刊漫画サンデーの大ヒットコミックのノベライズ。
1928年、28歳のヘミングウェイは、キー・ウエストに居を移した。戦争と革命と大恐慌の’30年代、陽光降り注ぐこの小島に腰を据え、気鋭の小説家は時代と人間を冷徹に捉えた数数の名作を放ってゆく。本書は、経験と思考の全てを注ぎ込んだ珠玉短編集『勝者に報酬はない』、短編小説史に聳える名編「キリマンジャロの雪」など17編を収録。絶賛を浴びた、新訳による全短編シリーズ第2巻。
豪胆細心、あっと驚く妙計奇策。若様侍、抜け荷にからんだ悪党退治。痛快時代小説。5年振りに江戸に戻った若様右京之介は、悪党退治で危難の連続。暗闘の渦中で若様を救ける女は人妻、それは忘れ得ぬいとしい多美殿…。
クオイルは無器用な三十男。大学を中退、三流新聞に拾われるが解雇されてしまう。初めて出会った女に夢中になり結婚するが、浮気をし放題の性悪女で挙句に事故で死んでしまう。父と母も借金を抱え自殺。残されたのは二人の娘だけ。彼は人生をやり直すために娘達と唯一の血縁の叔母を伴い、父祖の地ニューファンドランドへ渡る。そこには一族の名前が付いた岬があり、叔母が数十年前に捨てた家があった。クオイルは地元の新聞に船の情報-港湾ニュースを書く記者として雇われ、島の生活を始める…。全米図書賞&ピュリッツァー賞をW受賞。ハートランド賞、アイリッシュタイムズ賞など各賞を総ナメし、PW誌1位に輝いた感動の小説。
生と死をめぐる情熱の日々と濃密な時間。「私」を「先生(ソンセン)ニム」と呼んで走り寄り、抱きついてきた若い女性のヤンヒ。急逝したそのヤンヒを追憶しながら、語り手の「私」は、今でも信じられず、納得しがたい彼女の死-この作品は一人の人間が一人の人間の死を悼む最高の形式としての「文学」というものを私たちにもう一度、想起させてくれる。
スティーヴとサンドラ、ヘイルとヴィヴィアンの二組の夫婦は、かたい絆で結ばれた親友同士だった。数週間前、凄惨な殺人事件が突如四人の身に降りかかるまでは…。私立探偵ジョン・カディは、恋人の検事補ナンシーからメイン州で二組の夫婦の三人がクロスボウで射殺され、残された一人が容疑者として逮捕された事件の調査を依頼された。容疑者のスティーヴは一貫して犯行を否認しており、事件には不自然な点も多かった。調べを始めたカディは、四人が別荘地にやってきては地元民から顰蹙を買っていた事実を知る。さらにスティーヴが勤める会社の商売敵の陰謀説や、四人に利害関係を有する肉親の存在も浮かび上がってきた。残忍な手口の背後にはいったいどんな動機が。友情の裏に隠された歪んだ人間関係に迫るカディ。