1996年9月発売
明治33年、15歳の菊地加根は九州から東京の森の学園・日本女学院に入学した。恋愛、友情、嫉妬ー「新しい女性」の理想を掲げた自由な校風の下、加根を取りまく女学生たちの青春の姿が細やかに描きだされ、明治の群像が瑞々しく蘇る。女性たちの自立への歩みであると同時に、幕末から明治30年代に至る文化史でもある豊潤なロマネスク小説。近代日本の百年を生きた著者の畢生の大作。
幕末期、勤皇派の薩摩藩士の企てを上意によって阻止せんとした寺田屋の変。辛うじて生き残った志士たちが、長州との勢力争いのため、迎えることを余儀なくされた無残な最期とは(「遺恨の譜」)。詰め腹を切らされた父の無念を晴らすべく、主君の死に際してご法度となっていた追腹を願い出た武士の心情を綴った、著者のデビュー作(「高柳父子」)。哀感あふれる名作九編を収録。
文化元年、幕府は対露政策の一環として蝦夷地に官寺建立を決定。命を受けた文翁、智弁らは、アイヌ教化のためにアッケシに赴任した。文翁の布教は困難を窮め、若い智弁はアイヌを虐待する和人に慣りを募らせていく、やがて、文翁は幕命を果せぬまま横死、智弁は苛烈な運命に呑まれてゆく。二つの文化の間で苦悩する二人の僧を通して歴史の暗闇に光を当てる新田次郎賞受賞の巨編。
19世紀なかば、漂着した孤島で豊富なダイヤモンド資源を発見した一組の男女。その子孫であるアーサー・ドーセットはオーストラリアのダイヤ王として、富をほしいままにしていた。だが、その採鉱は膨大な生命を奪う危険な技術を活用するものだった。ドーセットの娘で海洋生物学者のメーブ・フレッチャーを南極で偶然救出したピットは、彼女と協力してこの阻止を図るが…。
息子たちを人質に取られたメーブとともに、ピットとジョルディーノはグラディエーター島へと救出に向かった。だが、ドーセットの罠にはまり、三人は絶海を漂流する運命に。彼らが自然の猛威と絶望的な苦闘をつづける一方で、ドーセット鉱山のもたらす衝撃波は、ハワイの200万近い人命を奪おうとしていた…。音速で迫り来る危機に瀕したNUMAの面々の機知と格闘を描く問題作。
湾岸戦争で戦死した女性大尉が「名誉勲章」の受章候補者となり、その戦死状況の調査が開始される。調査を命じられたサーリング中佐には、戦闘中に味方の戦車を誤射し部下を殺してしまうという、苦い経験があったー。戦場の極限状況下における「勇気」とは何なのか?全世界にテレビ中継されたあの戦争を初めて戦闘員の目からリアルに描いた、話題のヒューマン・ストーリー。
江戸中期、彗星の如く現われた巨人が相撲をかえた。魔物のように全力で相手に躍りかかるその姿に悪政と飢饉にあえぐ民衆は自らの運命を託すー壮大なスケールで稀代の相撲人・雷電為右衛門の運命とその時代を描き出した巨篇。
雪に閉ざされた山荘。そこは当然、交通が遮断され、電気も電話も通じていない世界。集まるのはUFO研究家など一癖も二癖もある人物達。突如、発生する殺人事件。そして、「スターウォッチャー」星園詩郎の華麗なる推理。あくまでもフェアに、真正面から「本格」に挑んだ本作、読者は犯人を指摘する事が出来るか。
“アレキサンダー大王の黄金の冠、シーザーの剣、チベットのラマの錫杖を手にした者は、無敵の力を得る”世界制覇の野望に燃えるヒトラーは、錬金術師の残した言葉に導かれて冠を入手、密かに「ラマの錫杖」奪取を命じた…。一方、陸軍スパイ竜造寺大介は、大戦前夜のインドで反英派煽動工作の後、日本民族チベット起源説を唱えて首都ラサに住む老学者斎藤五郎の下に身を寄せた。チベットでは、錫杖を持つダライ・ラマ一四世が幼少なため、列強諸外国の思惑を受けた貴族たちが対立していた。竜造寺はドイツの学術探検隊に出会うが、彼らはやがて不審な動きを見せ始めた!探検隊の正体と謀略とは?そして「錫杖」の行方は?10年の歳月をかけ、歴史の謎を追う白熱の冒険ロマン誕生。
石田三成は秀吉の政治・経済・外交政策の忠実な継承者であり、また豊臣政権の文治派官僚のトップとして、政策立案、遂行に存分の偉才を発揮した。秀吉が目ざした国際化、重農主義と合わせて重商主義、それを実現するために経営感覚・経済感覚のすぐれた武士の登用など…それらの条件を満たした近江出身の石田三成を著者独自の視点で描いた渾身の書き下ろし長編。
クラスを二分する人気者の二人。演劇部の秀才・北山英治と水泳部のエース・南城健介。会話を交わすこともない二人だったが、ある日英治は、自分を見つめる健介の視線を感じる。そして、お互いに自分と同質のものを感じ合った二人は、次第に引きよせられていく。誰も知らない二人の秘密。彼しか知らない自分-。
総力を挙げてレイテ湾突入を計る連合艦隊。その作戦をストップさせた第1戦隊の宇垣中将は、第2艦隊の栗田中将に故山本五十六元連合艦隊司令長官の遺書を見せた。そこには海軍として、この戦争をどう終決させるかというメッセージが記されていた…。この山本五十六の零号作戦にそい、連合艦隊は大決戦を挑むべく全艦出撃した。
基地空母として、零戦の空輸作戦を行っていた巨大空母大和に、バミューダ派遣が命ぜられた。ハワイから喜望峰を回ってバミューダまで、大和の長い航海が始まる。学徒出陣の予備士官も、3人が初めての母艦パイロットとして乗り組んでいた。16000浬の彼方で彼らを待っていたのは、いかなる作戦であったのか。そしてヨーロッパでは、ヒトラーが英本土上陸作戦を敢行しようと準備を進めていた。装甲空母大和は前進基地として、大西洋を東へ西へ駆け巡る。
芸妓村上八重と著者との三十年にも及ぶ恋愛を題材に小説家牧と芸者三重次とが互いの人生の浮き沈みを越えて真摯な心を通わせ合った長い歳月の愛を独得の語りくちで描いた戦後の代表作・読売文学賞受賞「思い川」、なじみの質屋の蔵の中で質種の着物の虫干しをしながら着物に纒わる女たちの思い出に耽る男の話・出世作「蔵の中」、他に「枯木のある風景」の三篇を収録。
重い血の記憶がよどむ南紀の風土のなかで原始的な本性に衝き動かされるままに荒々しい生をいとなむ男の姿を、緊迫感溢れる文体で描く短篇集。若い女との気ままで怠惰な生活をなじられ、衝動的に両親を殺すに到る表題作の他、「荒くれ」「水の家」「路地」「雲山」「荒神」の六篇を収録。
摩周島は八丈島から船で2時間あまり、伊豆諸島の絶海の孤島である。人口は243名、ゆえに島民はみな知り合いという、平和な土地だった。ゴールデンウイークを恋人・多貴の暮らすこの島で過ごすために敬史朗はやってきた。だが、彼の到着直後、人々から御神木と呼ばれる桜の古木が何者かによって傷つけられる事件が発生。そして、次々と残酷な事件が!島民の間に不穏な空気が広がる。その矛先はなぜか、鋭敏な感受性と複雑な出生の事情を持つ夕貴の姪・明日香に向けられていた。
ハイミスおばさんにせまられまくる優柔不断な青年、浮気な年下男を思い切れない三十女、キャリアウーマンがたまたま第一回目の見合い相手に出会うがまたもやケンカが始まり…。うまくいきそうでいかない、駄目に見えてそうでもない男女の仲を描いて冴えわたる、著者会心のナニワのラブ・ストーリー六篇。
意外なきっかけで知り合った男は画家だった。繊細な指、しゃれた服装、そして胃を病んでいる。丈夫で平凡なサラリーマンの夫とは何から何まで違っていた。魅力的な男の出現に揺れる微妙な女心を描いた表題作の他、温かくてちょっとホロ苦い向田ドラマの秀作「びっくり箱」「母上様・赤沢良雄」を収録。