1997年11月発売
気がつけば、おれは石川五右衛門だった…。神出鬼没に時空を飛ぶ作家一家。読者を物語のブラックホールに突き落とし、ねじれた迷宮へと誘う表題作。被害者の遺族が死刑囚の刑を執行するという狂気の設定で、獄中で執筆し続けた囚人作家の断末魔を描く『天の一角』。長年の忍従に暴発した作家夫人の怒濤の糾弾を活写する法廷劇『妻の惑星』等、表現への熱い慟哭が刻まれた傑作7編。
青森港に降り立ったのは老若男女とりまぜて二十人ばかりの朝鮮人だった。ついこの前まで日本人としてカラフトに暮した彼らが、今は日本への不法入国者として故国へ強制送還されようとしていた。敗戦の日本を縦断する押送列車の一つ車輛の中で、しかし彼らの思いは決して一つではなかった…。混乱の時代の体験を基に、人間の諸相を根源から見つめ尽す記念碑的大作。野間文芸賞受賞。
大正中期、四国の隔絶された漁村に異国船が現れた。目的な高価な桃色珊瑚。乱獲の結果、珊瑚は採れなくなって久しかったが、イタリア人エンゾはあきらめずに海に潜り続ける。そんな彼に惹かれていく海女のりんを幼なじみの健士郎は複雑な気持で見つめていた。やがて採れないはずの珊瑚が発見されたことから、欲望にとり憑かれた若者たちが暴走し始め…。直木賞作家の傑作伝奇小説。
サンタ・フェの中年弁護士ウィルは、辣腕ながら、自らの素行ゆえに公私共に窮地に陥っていた。パートナーからは三行半、二度目の結婚は破綻、最愛の娘は近々遠くに行ってしまう。そこへ街を震撼させた異常殺人事件の弁護の依頼。第一級謀殺容疑を受けたのは、凶悪な嫌われ者、暴走族4人組。だがウィルは無実を直感する。圧倒的な劣勢の下、自身の復活をもかけて挑むウィルに勝機はあるのか。
ウィルには十分な勝算があったのだ。検察側の重要証人は頼りなく、一方バイカー達のアリバイは完璧で、弁護チームは最強。だが結果は有罪、第一級謀殺罪で被告の死刑は確定する。失意のウィルに、さらに刑務所での暴動勃発の知らせが。リーダーはバイカー達で交渉役に彼を指名した。
TV局記者のメガンは、取材先の病院で自分そっくりな女性と遭遇した。通り魔の被害者で間もなく死亡したが、その夜メガンは「あれは間違いだった」という不気味なファックスを受け取る…。体外受精で実績を誇るこの病院では不祥事が続き、胎芽を扱う医師の身分詐称も判明した。彼女の身元保証は、メガンの父の会社が行なっており、父は帰宅途中の事故で、行方不明のままだー。
美貌の富豪ビリーを義母に、映画プロデューサーのヴィトーを父親にもつジジは、セクシーな細身の身体と自由奔放な魅力に溢れた23歳。高級ファッション・カタログの仕事を成功させた腕を見込まれ、ロサンジェルスの広告代理店に引き抜かれた。コピーライターの仕事の面白さを理解してくれない映画監督の恋人ザックと喧嘩別れした彼女の前には、次々に新しい男性が現れるのだが…。
ジジの新しい恋は自家用ジェット機で連れて行かれたヴェニスで始まった。誰もが羨む理想の恋人、大富豪のベン。でも彼を心から愛しているかまだ確信が持てない。ザックとのつらい経験から結婚には慎重になっているのだ。やりがいのある仕事も、暖かな家庭も求めるジジは、誰と結婚すれば幸せになれるの?ロスでパリでヴェニスで燃え上がる、恋人たちのロマンスをゴージャスに描く。
突如、ケンドルを見舞った交通事故。おさな子を抱いて這い出した彼女は、死に瀕した同乗の「男」を病院へ運ぶ。記憶喪失に陥った男を夫と偽った彼女は、3人で絶望的な逃亡を開始する。忌まわしい町で目撃してしまった、見てはいけないこと。そして、次第に育まれてゆく、してはいけない恋ー。恐るべき秘密同盟の盟約とは?記憶を失った男の正体は?5000万読者を魅了した著者の会心作。
朝鮮加耶国の王子スサノオは、国を追われて出雲に流れ着くが、土着の豪族を次々と斬り従がえて出雲、大和を平定し、いよいよ卑弥呼が君臨する九州の大国邪馬台国征服に大遠征軍をもよおす。奇しき不思議な縁で結びついたスサノオと卑弥呼。古代社会を揺るがせた大動乱の真相を描く。
「シュルレアリスム」という言葉を発明し、「エスプリ・ヌーヴォー」(新精神)という用語を先駆的に使った「若き二十世紀」の旗手アポリネールが、秘密出版した小説。愛欲とユーモアに満ち、才気に溢れたラブレー的世界を彷彿とさせる本書は、デスノスやアラゴンの絶賛を浴び、わが国では渋沢龍彦がエロティック文学の最高峰のひとつに推薦している傑作である。
銀座の資産家・森辺多賀市の後妻となった美月香は、念願のブティック経営者となり、事業拡大に野心を燃やす。夫の部下や取引先を色仕掛けで手なずけ、有利な取引も成功させる。だが好事魔多し。多賀市と愛人が事件に巻き込まれ、美月香の周りにも暗雲が漂う。巨大な資産と官能に群がる、男と女の欲望の結末は。
風呂敷はワイドスクリーン・バロックより大きく、集積度はサイバーパンクより高く。貞本義行のキャラに士郎正宗の蘊蓄をぶちこんで、ポスト・エヴァンゲリオン時代のラディカル・ハードSFが誕生した。戦闘総質量十万トンのデビュー作。2135年、シファリアス級女性型戦艦、進空!第五次大戦勃発か。
大学生のシンヤは、通学定期をひろってくれた美しい女子高生、穂坂恵にひとめ惚れをしてしまう。内気なシンヤは告白できないまま恵の後を追い回し、朝の通学路、学校のトイレ、そして自宅の浴室まで、ナマの日常を次々とカメラに収めていく。通学途中、恵の親友である陽子に注意を受けたことから、シンヤの怒りが爆発し、凶暴なタクヤと冷酷なトウヤの別人格が出現。タクヤたちは陽子を凌辱し、恵を守ろうとする女の子たちを次々と襲う。次第に追い詰められていく恵。分裂した人格が求める、ゆがんだ愛の行方は…。人気ソフト会社「にくきゅう」が放つサスペンスADVの小説化。
悪の坩堝のような50年代のロサンジェルス市警に生きる三人の警官ー幼時のトラウマから女に対する暴力を異常に憎むホワイト、辣腕警視だった父をもち、屈折した上昇志向の権化エクスリー、麻薬課勤務をいいことに芸能界や三流ジャーナリズムに食指を伸ばすヴィンセンズ。そこへ彼らの人生を大きく左右する三つの大事件が…。
事件その1、“血塗られたクリスマス”。署内のパーティで酔った刑事たちが勾留中の容疑者に集団暴行!事件その2、コーヒー・ショップ“ナイト・アウル”で虐殺事件発生!事件その3、複数の余罪を暗示する、あまりにもどぎつい変態ポルノ写真の犯濫!事件1、2で明暗をわけた三人は、それぞれのやり方で悪の中枢へと近づいてゆく。