1998年発売
友情…という言葉が蘭子の口から出たことに、小夜子はとまどった。友人、親友、悪友、同志…いろいろな言葉をあてはめて、蘭子と話したことがあったが、いまその言葉を向けられると、やはりどう受け止めてよいのか分らなかった。それに、蘭子と自分の関係には、漠然ともてあそんでいた“悪友”という形容が、もっともふさわしいのではなかろうかと、小夜子は思い始めていたのだ。
あの、すみません。ちょっと道をお尋ねしたいんですが。ダブ(エ)ストンって、どっちですか?実は恋人が迷い込んじゃって…。世界中の図書館で調べても、よく分からないんです。どうも謎の土地らしくて。彼女、ひどい夢遊病だから、早くなんとかしないと。え?この本に書いてある?!あ、申し遅れました、私、ケンといいます。後の詳しい事情は本を読んどいてください。それじゃ、サンキュ、グラッチェ、謝々。「今、行くよ、タニヤ!」。キッチュでポップな迷宮譚。第8回メフィスト賞受賞。
天才ボクサー藪一也と世界チャンピオンのアルマンド・ケニーの一戦が決定してから、藪のトレーナーを馘になった倉本祐司の独り言が始まった。「これで、終わりだ、藪も、おれも」-この世界戦は時期尚早、ジム会長藤倉の金儲け主義の産物だ。KO率九割を誇るケニーの強打に、藪は壊されてしまう。おれは藪を世界最高の芸術品に仕上げるのだ。そのためには、ボクシングの指導だけではなく、何でもやった。別れさせるために、藪の恋人奈緒を犯しもした。ケニーや藤倉にもおれの夢は潰させない…。『大場政夫の生涯』『拳闘王辰吉丈一郎』の著者が放つ傑作長篇ミステリー。
佐賀県多久市の山中で横浜在住の画家・井坂俊介が絞殺体で発見された。死亡時刻の二日前までともに写生旅行を楽しんでいたはずの妻・レイは死んだ井坂に対し、なぜか冷ややかな憎悪をみせる。二日前、夫婦に何が?だが、容疑者としてマークされたレイには、死亡時刻、完璧なアリバイが…。佐賀県警の“落としの達人”水木警部補はレイと対決、彼女の心に潜む闇を感じるが、アリバイの壁をくずせない。さらに井坂がレイと別れた後に生じた「空白の二日間」に不審な人物が浮かぶ!完全無欠のアリバイに挑む、水木の苦悶!時代が生んだ新たなる恐怖を描く、警察推理傑作、好評第4弾。
時代は十九世紀。公爵冢令嬢エリザベートは、その美しさゆえ黄泉の帝王トートに魅入られてしまう。皇妃エリザベートの生涯を幻想的に描き、ウィーンと宝塚でヒットとなった舞台の小説化。
朝丘花。29歳独身です。恋人はボストンに研修留学中。ほんの数カ月前までは、地元の中学校で国語を教えていました。いまは、亡くなった父がつくった家を改築して、プチレストラン『花家』をやっています。素朴な橡の木の大きなテーブルがあるささやかなお店ですが、ひとりで切り盛りしています。メニューはあまり多くはありません。その日ごとに素材を絞って調理します。お店をはじめたきっかけは、ひとりで食事をするのが、とても寂しくなったから…。小説すばる新人賞受賞後三作目となる書き下ろし。
天才分子デザイナーでテロリストのボーアが作った違法な分子機械ボーア・メイカーは、適応性人工知能をもち、宿主の肉体まで自由に改変できる。使い方しだいでは、連邦の存在さえ危うくしかねない驚異の極微機械だ。このボーア・メイカーが盗みだされ、偶然のことからスラム街の女性フォージタのものになるが…究極のナノテクがもたらす未来世界の驚異を描く、ローカス賞処女長篇賞受賞作。
女性考古学者ヒルディがスコットランドで発掘した遺跡には、ヴァイキングの大型船が完璧な形で保存されていた。だが、保存されていたのは船や財宝だけではなかった。なんとヴァイキングの英雄たちも完璧に保存されていたのだ!彼らは、邪悪な魔法使いの王の魔手から世界を守るため、一千年にわたる長き眠りからいま目覚めたのだという…古代の英雄たちが巻き起こす奇想天外の大騒動を描く傑作ユーモア・ファンタジイ。
今日はなんだか変な気分。気がつくと、ジョン・トムはなんと青ガニに変身していた!まもなく元に戻れたものの、魔界全体にさまざまな異変が広がっていた。どうやら、宇宙を自由に漂う“無”が何者かによって閉じこめられたのが原因らしい。ジョン・トムは、エスカレートしていくやっかいな現象に手こずりながら、師匠の魔法使いクロサハンプらと共に異常事態の打開に乗り出した!抱腹絶倒のユーモア・シリーズ第5弾。
双子の姉と暮らすミス・オイスター・ブラウンは、五十歳を迎える現在までいつも汚れなき生活を心がけてきた。ところが、姉の留守中に犯したささやかな犯罪をきっかけにオイスターは思いもかけない窮地に立たされることに…模範的市民の中年女性に降りかかった皮肉な運命を描く表題作をはじめ、ブラック・ユーモアや洒落た味わいなど短篇巧者ラヴゼイの魅力が堪能できる18篇を収録。『煙草屋の密室』に続く第二短篇集。
ある秋の晩、ロンドンのスティーン診療所の地下室で、事務長のボーラムの死体が発見された。彼女は心臓をノミで一突きされ、木彫りの人形を胸に乗せて横たわっていた。ダルグリッシュ警視が調べると、死亡推定時に、建物に出入りした者はなく、容疑者は内部の者に限定された。尋問の結果、ダルグリッシュはある人物の犯行と確信するが、事件は意外な展開を…現代ミステリ界の頂点に立つ著者の初期の意欲作。
女はバークの手を借りたがっていた。彼女の名はボンディー。職業はヌードダンサーだ。しかし、ダンサーとはいっても、彼女が踊るのは酒場のステージではない。場所は高級アパートメントの一室。そこには、ハイテク装置を駆使した専用ステージが配置されている。観客はただひとり、向かいのビルの窓から彼女のプレイを覗き見る、変態野郎だけだ。ボンディーの依頼は、その変態野郎に一泡吹かせてやることだった。男はボンディーのプレイをひとり愉しんでいるのではなく、友人と一緒に眺めながら、嘲笑っていたというのだ。やつに復讐してやりたいの-それがボンディーの願いだった。バークはファミリイとともにボンディーの背景を調べはじめる。やがて彼女の背後に、オレンジ色の目の女ボディーガードを従えた、謎の弁護士カイトの存在が浮かび上がる。ボンディーはカイトがバークに放った餌に過ぎなかったのだ。やがてカイトは、莫大な金を積み、バークにある「調査」を依頼するが…現代社会に巣喰う唾棄すべき悪をアウトロー探偵バークが断つ、シリーズ堂々の第九弾。