2001年4月発売
公園の隅に置かれた男の死体をめぐる話「帰郷」、慰安婦ゴゼイと徴兵を拒否した昭正の切ない愛に生者と死者の声がかさなる「群蝶の木」、日常生活を反転させる不安をえがく「剥離」「署名」など、『魂込め』で川端賞・木山賞を受賞した著者があらたに到達した四つの小世界。
「死ぬなら戦場で死にたい」と、函館五稜郭で討幕軍に討たれた土方歳三。幕府の崩壊と共に消えた新選組の鬼副長として活躍した彼は、局長・近藤勇が官軍に投降した後も、新選組の指揮をとり、最後の最後まで戦い続けたー。頼みとする会津も敗れ、仙台で榎本武揚軍に加わる。そして、函館での凄絶な闘死。冷徹無比と言われた男の美しい生きざまとその魅力を浮き彫りにする力篇。
遠間憲太郎は長年連れ添った妻とも離婚し、五十歳になりさらに満たされぬ人生への思いを募らせていた。富樫重蔵は大不況に悪戦苦闘する経営者だが、愛人に灯油を浴びせられるという事件を発端に、それを助けた憲太郎と親友の契りを結ぶ。真摯に生きてきたつもりのふたりだが…。人間の使命とは?答えを求めるふたりが始めた鮮やかな大冒険。
憲太郎が恋心を寄せる篠原貴志子。両親に捨てられた五歳の圭輔。行き場のない思いを抱えた人間たちが、不思議な縁で憲太郎と結ばれてゆく。しだいにこの国への怒りと絶望を深める憲太郎は、富樫と壮大な人生再生への旅を企てる。すべてを捨て、やり直すに価する新たな人生はみつかるのか?ひとりひとりの人生に熱く応える感動の大長篇。
一九三〇年頃、大阪の蒲鉾工場で働く金俊平は、その巨漢と凶暴さで極道からも恐れられていた。女郎の八重を身請けした金俊平は彼女に逃げられ、自棄になり、職場もかわる。さらに飲み屋を営む子連れの英姫を凌辱し、強引に結婚し…。実在の父親をモデルにしたひとりの業深き男の激烈な死闘と数奇な運命を描く衝激のベストセラー。山本周五郎賞受賞作。
敗戦後の混乱の中、食俊平は自らの蒲鉾工場を立ち上げ、大成功した。妾も作るが、半年間の闘病生活を強いられ、工場を閉鎖し、高利貸しに転身する。金俊平は容赦ない取り立てでさらに大金を得るが、それは絶頂にして、奈落への疾走の始まりだった…。身体性と神話性の復活を告げ、全選考委員の圧倒的な支持を得た山本周五郎賞受賞作。
夏目漱石の「吾輩は猫である」は、飼い猫の目を通しての人間像を描いた文化論的小説だったが、この作品は、花子という飼い猫を中心としたちいさな猫社会を反射鏡として、現代の人間社会をするどく映している。
お前は俺のものだ。持ち物の分際で逆らうな-女性が羨むほどの美貌を持ったショーンは、法律事務所のオーナーで同居人でもあるレナードのもの。彼を所有物として扱うレナードは、何事にも本気にならないプレイボーイ。彼が行きずりの相手・四季という少年を同居させ、ショーンの目の前で抱くようになったことで、2人の関係は微妙に変わっていく。レナードの横暴さに反発しながらも彼の魅力に惹かれていく四季と、レナードの真意が分からず翻弄されるショーン。それぞれの想いの行方は…アダルトハードなラヴロマンス。
「堕天使、占星術、魔術、騙し絵、迷宮、愛死、弦楽」各部屋に悪魔的な意匠をちりばめた館で奏でられる殺人組曲。屋根裏部屋から世界は覗かれ、倫理の欠片もない探偵や殺人鬼が暗躍する。館を支配する昏い旋律が止むとき、世界を揺るがす真相が明らかに。鬼才が技巧の限りをつくして描きあげた騙し絵ミステリー。
東京駅で射殺されたミス岡山の女子大生、楠ゆかり。彼女は半年前、竹久夢二が描いたと思われる幻のスケッチブックを発見、公表し、注目を集めたことがあった。この発見と事件にはどんな関係が?狂おしいまでに夢二を愛する人たちによって綾なされる複雑な人間模様。ラストには、全ての人への永遠の問が待つ。
ボスニア・ヘルツェゴビナの内戦で行われた民族浄化、それにともなう虐殺・拷問を裁く表題作をはじめ、ロンドン警視庁から特命を受けたベテラン刑事が、民間機で金塊強奪犯を護送するさなか、狂信的なテロ組織にハイジャックされる「手錠」、深夜の南フランスの国道で、元傭兵のクリーシィが傷だらけの美女に出会い、一夜をともにする「愛馬グラディエーター」など、冒険小説の巨匠クィネルの魅力が凝縮された初の短編集。全7編を収録。世界に先駆けて、日本から刊行。
柱の陰に誰かいる-フォギーことジャズ・ピアニスト池永希梨子は演奏中奇妙な感覚に襲われる。愛弟子佐知子は、姿も見たという。オリジナル曲フォギーズ・ムードを弾くと、今度は希梨子の前にもはっきりと黒い服の女が現れた。あなた、オルフェウスの音階を知っているとは驚いたわ。謎の女は自分は霧子だと名乗り、そう告げた。混乱した希梨子は、音楽留学でヨーロッパに渡り、1944年にベルリンで行方不明となった祖母・曾根崎霧子ではないかと思い当たる。そしてフォギーは魂の旅へ-。光る猫パパゲーノ、土蔵で鳴り響くオルゴールに導かれて、ナチス支配真っ只中のドイツ神霊音楽協会へとワープする。
坂下薫平19歳。大学の廃寮問題に揺れる一方で、仲間たちのストーカー事件、恋愛騒動等が巻き起こり…。団塊の世代との対立と交流を通し、失われた父親的存在を探す、団塊ジュニアを描く青春長編小説。吉川英治文学新人賞受賞第一作。
父の認知を得られず母子家庭で育った青年にとって、女子大生との同棲は夢のような毎日だった。しかし、ひょんなことから浮上した恋人の援助交際疑惑。悲劇の発端は真相を追及する青年に、恋人が偶然放った一言だった。逆上して恋人を絞殺した青年は、何かに引き寄せられるように駒ヶ岳に向かうが、そこには更なる悲劇が待ち受けていた。母でさえ「鬼畜」と呼ぶ男の遺伝子に翻弄される青年。その悲しみの魂が求めた安住の地とは。
羌という遊牧の民の幼い集団が殺戮をのがれて生きのびた。年かさの少年は炎の中で、父と一族の復讐をちかう。商王を殺すー。それはこの時代、だれひとり思念にさえうかばぬ企てであった。少年の名は「望」、のちに商王朝を廃滅にみちびいた男である。中国古代にあって不滅の光芒をはなつこの人物を描きだす歴史叙事詩の傑作。