2002年10月発売
日本人は外圧(ガイアツ)の中で何を考えてきたか 日露戦争の勝利は日米開戦の序章でもあった。太平洋を挟んでの対抗意識が芽生え、両国で数々の「日米未来戦記」が発表されている。現実的な戦力分析によるシミュレーション、自国の堕落を憂いながら奮起を促す精神論からSF的発想のドラマティックなものまで、日本人の精神に多大な影響を与えている。中でもヨーロッパまで出向き、第一次世界大戦の戦禍を目の当たりにした水野広徳の『次の一戦』は、きわめて的確な内容で、開戦の無謀さを警告するものであったが、開戦=勝利への期待から、重視されなかった。軍部の独走だけがクローズアップされるが、国民の間にこそ、戦争を望む気運があったのではとの示唆は、日本人の精神史を辿る上でも興味深い。
精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者/サイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー「DCミニ」をめぐる争奪戦が刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する。
ドタバタとは手足がケイレンし、血液が逆流し、脳が耳からこぼれるほど笑ってしまう芸術表現のことである。健康ファシズムが暴走し、喫煙者が国家的弾圧を受けるようになっても、おれは喫い続ける。地上最後のスモーカーとなった小説家の闘い「最後の喫煙者」。究極のエロ・グロ・ナンセンスが炸裂するスプラッター・コメディ「問題外科」。ツツイ中毒必至の自選爆笑傑作集第一弾。
時代の最先端を見据えながら、併しそこから距離を取って、時代の最後尾、びりッ尻を「蝸牛の歩み」で歩いて行こうと思うた。迷いの逆渦の中に吸い込まれた青年の「宿縁」はどこにあるのか-「骨身に沁みたことを骨身に沁みた言葉」で書きあげた420枚。
フランス革命から6年を経た1795年のロンドン。街中では、王制復活をめざす貴族やその運動を阻止しようとする共和国のスパイが暗躍していた。そんななかで、赤毛の娼婦ばかりを狙った絞殺事件が相次ぐ。内務省の役人ジョナサンは、その手口から、犯人が1年前に愛娘エリーを殺したのと同一人物だと確信し、とり憑かれたように一人調査に没頭していた。その一方で、革命後のフランスからイギリスに入り込んだスパイの監視という本務においても、フランスの天文学者団体を隠れ蓑にして共和国政府との秘密文書がやりとりされているという情報を入手。真相を探るために、天文学者である異父兄のアレグザンダーを利用することを思いつく。ジョナサンは、さっそくフランスからの逃亡貴族で天文学を研究する美しい姉弟の豪邸に彼を差し向けてみるが、どうやら、屋敷に出入りする人物のなかに、共和国政府側のスパイや連続殺人鬼がひそんでいることが判明する…。娼婦殺し、天文学、暗号解読-絢爛たる物語世界が展開する、衒学的サスペンスの逸品。
最凶のドラッグ、偽地域通貨、連続ホームレス襲撃…壊れゆくストリートを抜群の切れで駆け抜ける、新世代青春ミステリー。I/W/G/Pシリーズ第三弾。
小高い丘の上に建つ一軒の屋敷。そこに住む者は、エジプト生まれのミイラのおばあちゃん、心を自由に飛ばす魔女セシー、鏡に映らない夫婦、そしてたったひとりの人間の子ティモシー。世界各地に散らばる、魔力をもつ一族がその屋敷へ一堂に会する“集会”が、いまはじまる。そして、何かが変わる日もまた近い…アメリカを代表する幻想作家ブラッドベリが55年間あたためつづけた、愛すべき“一族”の物語。刊行後たちまち全米で大評判を巻き起こした、特別な人々と特別な思い出を封じこめた特別な本。
日本人だけが地球に居残り、膨大な化学物質や産業廃棄物の処理に従事する近未来。それを指導するエリートへの近道は、「大東京学園」の卒業総代になることであった。しかし、苛酷な入学試験レースをくぐりぬけたアキラとシゲルを待ち受けていたのは、前世紀サブカルチャーの歪んだ遺物と、閉ざされた未来への絶望が支配するキャンパスだった。やがて、学園からの脱走に命を燃やす「新宿」クラスと接触したアキラは、学園のさらなる秘密を目の当たりにする…。ノスタルジーの作家・恩田陸が、郷愁と狂騒の20世紀に捧げるオマージュ。
かつて古代ローマ帝国は、人工衛星を打ち上げるほどの高度な科学文明を享受していた。だが、その没落から数百年、13世紀暗黒時代の西欧では、物質の力を行使する科学を悪とし、人間の魂は生涯に積んだ功徳によって天に召されるという信仰が支配していた。南仏トゥールーズ市の若き医師ファビアンは、放浪の科学者アルフォンスに出会ったことにより、みずからの信仰に疑問を抱く。それは、やがてコンスタンティノポリスから中央アジアへといたる、生涯を賭けた探求の始まりであった…異形の中世を舞台に、信仰と科学の狭間に世界の真実を求める者たちを描く、壮大なる叙事詩。
妻子ある歯科開業医の合田祥一は、学生時代から偽の職業と名前をかたって女性を口説き、その場限りの情交を結んできた。しかも保身のため「三度は会わない」「どんなにいい女でも情を通わせない」を自分の約束事にしていた。由利とも当然、その場限りの関係と思っていた合田だったが、偶然再会してしまい、甘美な肉体を味わううち、合田の心にスリルを楽しむ気持が芽生えてくる。だが、由利が客を装って歯科医院に現れたり、昼食時に待ち伏せされたり、車の中にわざとピアスを忘れられたりするうち、合田の心は…。
愛していながら、自分の愛を隠さねばならない者の切なさのために。愛していながら、いま、愛を交わすことができない者の悲しさのために。愛する者を逝かせなければならない者の痛さのために。愛する者がこの世で息をし、生きてさえいれば、と願うその痛切な想いのために。そのすべてのために…やがて、真実の愛のために。「秋の童話」BS日テレで放映中。