2002年6月発売
夜更けの留置場に現れた、その不思議な老人は六尺四方にしか聞こえないという夜盗の声音「闇がたり」で、遙かな昔を物語り始めたー。時は大正ロマン華やかなりし頃、帝都に名を馳せた義賊「目細の安吉」一家。盗られて困らぬ天下のお宝だけを狙い、貧しい人々には救いの手をさしのべる。義理と人情に命を賭けた、粋でいなせな怪盗たちの胸のすく大活躍を描く傑作悪漢小説シリーズ第一弾。
父の自殺、学校での苛め、母には徹底的に拒まれて…。N.Y.大学の学生、篠崎真冬は心に深い傷を抱えて生きてきた。恋人、ラリーの幼い息子ティムも、実の母親から虐待を受けて育った子供だった。自分の居場所を求めて模索し幸せを掴みかけたその時、真冬にさらなる過酷な運命が襲いかかる。舞台は広大なアリゾナの地へ。傷ついた魂は再び羽ばたくことができるのか。自由と再生を求める感動長編。
仙台の家に引っ越してから、姉の繊細な神経はますますその度合いを増していくようだった。見えないものを見、聞こえない音を聞く。それは死者の気配。(表題作「命日」より)生きているものたちの後ろにひっそりとある異界のものたちの存在。かれらは何を伝えようとしているのか。恐怖より哀しみ、不思議より美、幻想に満ちたあやしの交流を、流麗な筆致で描く恐怖短篇集。
昭和三一年春、妻子を富山に置いた松坂熊吾は、中古車事業発足のため大阪へ戻った。踊り子西条あけみに再会した一夜、彼に生気が蘇る。そして事業も盛運を迎えるかにみえたが…。苦闘する父母の情愛を一身に受け、九歳になった息子伸仁にも新たな試練の日々が訪れ、高度経済成長期に入った日本の光と闇が交叉する中、波瀾のドラマは新たな胎動を始める。戦後の時代相を背景に、作者自らの“父と子”を描くライフワーク第四部、富山・放浪編。
1951年、一本のホームランが天高く舞い上がる。ニューヨーク・ジャイアンツの優勝を決める劇的なホームランが生まれたその日、球場で試合を観戦していたFBI長官フーヴァーの元には、遙かソ連から核実験成功の報が入っていた…歴史的ホームランと核の時代の始まりを重ね合わせ、そこから紡がれゆくボールの行方を巡る物語とパラノイアの連鎖。冷戦時代とは、20世紀とは何だったのかを壮大なスケールで問い直す、現代アメリカ文学最大の作家による最高傑作、ついに邦訳刊行。
月光零りそそぐ春の宵の刻、幽明の界の舞台に降り立つディオニュソス。コロスが歌い、花が咲き、小鳥が囀る。自らの生涯を舞い歌う舞踏神。やがて、神の肉体より流れ出す黄金の生に、万物は至福へと極まりゆく…。「私は常磐に瀝るだろう」生の神ディオニュソス誕生の舞踏小説。
家政婦兼便利屋紹介所で働く橋本サト・28歳。都会で働き、誰かと恋をして、家族になっていく…どこにでもいる彼女が見つめる、永遠のテーマ。新鋭が瑞々しい文章で綴る、書き下ろし長篇小説。
昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの”“神様のボートにのってしまったから”-恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遙かな旅の物語。
9歳のさきちゃんと作家のお母さんは二人暮し。毎日を、とても大事に、楽しく積み重ねています。お母さんはふと思います。いつか大きくなった時、今日のことを思い出すかなー。どんな時もあなたの味方、といってくれる眼差しに見守られてすごす幸福。かつて自分が通った道をすこやかに歩いてくる娘と、共に生きる喜び、切なさ。やさしく美しいイラストで贈る、少女とお母さんの12の物語。
第二次世界大戦下。ナチスに占領されたチェコの美しい小さな町、青年ダヴィトをかくまうヨゼフとマリエの夫婦…。ファシズムの嵐吹きあれる極限状況を、解放の日まで、愛と勇気と知恵で生き抜く人間たちを、ブラックな笑いとヒューマンな感動で描く。「過去の歴史」とは言えない「戦争」のなかの恐怖。にもかかわらず人間の尊厳をまもる勇気・寛容・誠実さ・おかしさに誰もが胸をうたれ、涙があふれる。実話をもとに描く人間ドラマの傑作。映画「この素晴らしき世界」原作。