2006年4月7日発売
一族の面汚しとして死んだ放蕩者の兄のため、理不尽ともいえる仇討ちを甥に挑む又蔵。鮮烈かつ哀切極まる決闘場面の感動が語り継がれる表題作の他、島帰りの男と彼を慕う娘との束の間の幸せを描いた「割れた月」など「主人公たちは、いずれも暗い宿命のようなものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ」と作者が語った初期の名品集。
三巻からなる「柳生武芸帳」。この行方を追い求める大目付の柳生但馬守宗矩を筆頭とする江戸柳生の門弟たち。そして柳生とは長年対立していた陰流・山田浮月斎一派が同じく武芸帳を追う。佐賀の竜造寺家再興を企てる夕姫たちも複雑に絡んでいく。一体、武芸帳に記されている秘密とは?五味康祐の最高傑作が遂に文春文庫に登場。
武芸帳に隠された秘密とは、どうやら、宮中に於ける某重大事件に係わるものらしい。事が公になれば柳生宗矩の破滅はむろんのこと、徳川幕府も無傷ではない。次々と仆れる柳生の高弟たち。大久保彦左衛門や松平伊豆守信綱も加わり、複雑怪奇の様相を帯びてくる。そして遂に宗矩と浮月斎の直接対決を迎える…。
トラウマ、秘密、恋に潜む「罪」は、時に人の心を狂わせてしまう。秘密を守るため、年老いた母親がひとり娘に託したある周到な計画。高級ブランドバッグの万引犯とそれを追う店員が結んだ女同士のある協約。父への復讐を企む女が、恋人に残した「真実」の手紙。罪深いからこそ生まれる妖しさを描く、恐ろしくも美しい六篇の物語。
食べることは色っぽい。味わうという言葉も、口に合わないという言い方も、考えてみれば男と女の味がする…。湯豆腐、苺ジャム、蕎麦、桃、とろろ芋、お汁粉、煮凝、ビスケット、無花果、おでん。食べもののある風景からたちのぼる、遠い日の女たちの記憶。ひたむきで、みだらで、どこか切ない19の掌篇集。
六本木のディスコで黒服のバイトをしながら満ち足りぬ日々を送っていた彰洋は、偶然出会った幼馴染の麻美に不動産屋の美千隆を紹介される。時はバブル真っ盛りの八〇年代後半。おれはおれの王国を作りたいんだー若くして成り上がった彼の言葉に魅せられた彰洋は、二十歳そこそこで大金を動かす快感に酔いしれていく。
土地の値上がりは続く。限りなく体温が上昇する感覚に中毒した彰洋らは、嘘を塗り重ねてマネーゲームに奔走するとともに、コカインにも溺れていく。「嘘をついてはいかん。人を騙してはいかん。人の物を盗んではいかん」という熱心なクリスチャンだった祖父の教えに唾をかけて…。もう後戻りはできなかった。
三度笠、縞の合羽に柳の葛篭、百両の大金を懐にー。今戸の貸元、恵比須の芳三郎の名代として成田、佐原へ旅する音次郎。待ち受ける試練と、器量ある大人たちが、世の中に疎い未熟者を磨き上げる。仁義もろくにきれなかった若者が、旅を重ねて一人前の男へと成長してゆく姿をさわやかに描いた股旅ものの新境地。
室町時代の末。近江の湖北地方。隣村との土地をめぐる争いに公事(裁判)で決着をつけるべく京に上った月ノ浦惣庄の村民たち。領主や山門に足繁く通い、袖の下に銭をばらまき、勝訴に持ち込んだはずが思わぬ横やりが。背後には幼くして村を逐われた男の怨念が渦巻いていたー第十回松本清張賞受賞作。
先頃、業者の紹介で「かわせみ」にやって来た女中のおつまは二十五歳、無口だが気がきき、勤めぶりにかげひなたがなかった。盆休みに故郷へ帰ったはずのおつまだったが、浅草界隈で男と一緒のところを目撃されてしまう。流されるように生きていく女の哀感を江戸の風物詩とともに描いた表題作ほか全八編。不朽の人気シリーズ。
人間界に紛れ込んだフクロウの化身に出会ったら、同じ鳴き真似を返さないといけないー“都市伝説”に憑かれた男の狂気を描いたオール讀物推理小説新人賞受賞作「フクロウ男」をはじめ、親友を事故で失った少年が時間を巻き戻そうとする「昨日公園」など、人間の心の怖さ、哀しさを描いた著者のデビュー作。
転入生の瀬戸加奈は、クラス全員の冷たい視線を感じた。加奈が座ったのは“呪いの席”だったのだ。かつて、その席にいた生徒たちは、自殺したり、ノイローゼになったという。やがて始まった無言電話と、毎日送りつけられる不気味な写真。さらに、被害は加奈の妹にまで及んだ。激しさを増す嫌がらせの果てに、加奈が辿り着いた狂気の犯人とは。