2006年6月発売
異国の森の小さな家で、幼子と二人きり、妻を待つ。森から声が聞こえる、奇妙な住人が訪れる、妻は戻らない…三島由紀夫賞受賞作『にぎやかな湾に背負われた船』から四年、小説の新たな可能性を切り拓く傑作短編小説集。
お父さんが初めてビートルズを聴いたのは、今のおまえと同じ歳ー十四歳、中学二年生の時だった。いつも爪を噛み、顔はにきびだらけで、わかったふりをするおとなが許せなかった。どうしてそれを忘れていたのだろう。お父さんがやるべきこと、やってはならないことの答えは、こんなに身近にあったのに…心を閉ざした息子に語りかける表題作ほか、「家族」と「父親」を問う全六篇。
失恋の痛みと、都会の疲れをいやすべく、ふるさとに舞い戻ったほたる。大きな川の流れるその町で、これまでに失ったもの、忘れていた大切な何かを、彼女は取り戻せるだろうか…。赤いダウンジャケットの青年との出会い。冷えた手をあたためた小さな手袋。人と人との不思議な縁にみちびかれ、次第によみがえる記憶ー。ほっこりと、ふわりと言葉にくるまれる魔法のような物語。
夕暮れどきの宿で、彼がつけた明かりに驚いたかのように椅子の下へ跳び込んだそれは、かぼそい息づかいと黄楊の匂いを感じさせる奇妙な“黒い玉”。その正体を探ろうと、そこを覗き込んだ彼を待ち受けるのは、底知れぬ恐怖とおぞましい運命だったー。ベルギーの幻想派作家トーマス・オーウェンが描く、ありふれた日常に潜む深い闇。怖い話、気味の悪い話など十四の物語を収録。
依頼主の家に住み込み、服を仕立てる「流しのお縫い子」として生きる、テルミーこと照美。生まれ育った島をあとにして歌舞伎町を目指したのは十五歳のとき。彼女はそこで、女装の歌手・シナイちゃんに恋をするー。叶わぬ恋とともに生きる、自由な魂を描いた芥川賞候補作の表題作。アルバイトをして「ひと夏の経験」を買う小学五年生、小松君のとぼけた夏休みをつづる『ABARE・DAICO』収録。
挫折、苦悩、修羅場-。それでも男たちは愛と友情を信じた。生きる目的死ぬ目的を、それぞれの胸に秘めて…核を超えた究極の最終兵器「オメガ」とは?壮大なスケールで描く書き下ろしエンターテインメント・ロマン。