2006年9月発売
母ひとり子ひとりの家庭に、ある日、謎のちょんまげ姿の男があらわれた。名は、木島安兵衛。聞けば、180年前の世界からやってきたお侍だという。男は家事に目覚め、お菓子づくりに励み、気がつけばテレビの人気者になっていた-。炊事、洗濯、掃除に、子育て、すべて完璧。こんな男、一家に一人ぜひほしい!?理想のモテ男はお侍でした。まったく新しいスーパー主夫エンタテインメント。
上質の阿片が海外に出回り、その産地として、日本をはじめ諸外国から槍玉に挙げられた江戸国。老中から探索を命じられたのはご存知「金春屋ゴメス」こと長崎奉行馬込播磨守。ゴメスは、異人たちの住む麻衣椰村に目をつけるが…。辰次郎、NY出身の時代劇オタク・松吉、海外旅行マニア・奈美といった面々はもちろん、女剣士朱緒をはじめ新メンバーも登場し、ますますパワーアップした異色時代小説。
ため息をひとつつく。哀愁ってやつだー私が“出会った”青い自転車が盗まれた。呆然自失の中、私の自転車を探す日々が始まる。父は単身赴任、母は家事放棄の“粗大ゴミ”。私と姉と母、女三人の日常は、どこか不穏ながらも、永遠に続くかに見えたのだが…。第40回文藝賞受賞作。
誰もがため息をつくような美貌。仕事はトップセールスを誇り、恋人はエリート医師…。“営業部の花”と呼ばれる沙和子に憧れる真澄は、彼女を観察するようになる。すると、その秘密主義、完璧主義は、常軌を逸しているように見えた。転職、転居を繰り返す、沙和子の素顔に隠された奇妙な過去とは?完璧を目指す女。その裏側に潜む社会病理を描いた傑作。
“竜門猟犬探偵舎”に奇妙な依頼が舞いこんだ。動物プロダクションから傷ついた一頭のトナカイとともに一人の少年が失踪、その行方を追ってほしいというものだった。竜門卓は相棒の猟犬ジョーを連れ、その臭跡を辿りながら有馬の山中へと分け入るが…(「トカチン、カラチン」)。心優しきアウトローたち。自らの信念に従い行動する男の美学。感動の連作短編集。
血管の中を虫が走り、小さな大名行列が見えるーアル中のタクシー運転手は客を乗せたまま破滅街道をまっしぐら。ラジオ局の経理課長は、労組のストで無理矢理マイクを持たされ、放送事故続出の怪番組で大暴走。悪夢のような不条理と極限状況に壊れてゆく人々、その姿を笑うあなたの心もいつしか崩壊の一途を…。精神の強靱でない方は決して読まないでください。新発掘短篇「人類よさらば」も収録。
今日一日をかけて、私は何を失ってゆくのだろうー。高校三年の初秋、ピアスの穴を開けようとする私に、恋人がささやいた一言ー大切なものを失くしてしまうよ。あれから九年を経て、私は決まりきった退屈きわまりない毎日を過ごしていた…(「八月の傾斜」)。憂鬱にとらえられ、かじかんでしまった女性の心を映しだし、灰色の日常に柔らかな光をそそぎこむ奇跡の小説全五篇。明日への小さな一歩を後押しする珠玉の作品集。
四世代の大家族の中で天真爛漫に育つ花岡写真館の娘・町子は好物の芋料理「なんばさつま」と同じくらい小説好きの文学少女。太平洋戦争で日本の勝利を信じながらも敗戦を迎えた町子は生まれ変わった時代の中で新たな価値観を見出し、小説家になるという夢を実現する。その一方で、ひょんなことから出会った町医者・徳永健次郎と大人の恋を育んでいたが、やがて結婚へと発展。嫁いだ先はなんと舅・姑・小姑・五人の子供のいる九人家族の大所帯だった。家事、育児、作家活動という目まぐるしい生活の中、次々と起こるハプニング。しかし、明るいキャラクターとみなぎるパワーを持つ町子はへこたれることなくそれら一つ一つに全身全霊でぶつかっていく。食べること呑むこと書くこと、そして人を愛することが何よりも好きな、楽天女性の波乱万丈に満ちた一代記。
東京は異常な街に変貌していた。ヒートアイランド現象によって熱帯と化し、スコールが降りそそぐ。外国人が急増し、彼らに対する排斥運動も激化していた。そんな街に戻ってきた青年トウタと中学生ヒツジコ。ふたりは幼いころ海難事故に遭い、漂着した無人島の過酷な環境を生き延びてきたのだった。激変した東京で、ふたりが出会ったものとはー。疾走する言葉で紡がれる、新世代の青春小説。
かつて母親に殺されそうになり、継母からも拒絶されたヒツジコは、世界を滅ぼそうと誓う。見た者の欲望を暴走させるダンスを身につけた彼女は、自身の通う女子高で、戦闘集団「ガールズ」を組織するー。一方トウタは、友人レニの復讐を手伝うため、東京の地下に住む民族「傾斜人」の殲滅を決意した。トウタとヒツジコの衝動が向かう先とは…。崩壊へと加速する東京を描いた、衝撃の長編小説。
神田祭の宵宮、金沢町の小町娘お春が殺された。神輿の賑わいに紛れた下手人を追う銭形平次捕物控「赤い紐」。越後屋の娘と人気役者路三郎が消え、駆け落ちかと思われた矢先、さる屋敷蔵から路三郎の助けを呼ぶ声が…。退屈する若さまが、鮮やかに謎を解く若さま侍捕物手帖「お色屋敷」他。藤沢周平、坂口安吾、村上元三など実力派六人の捕物帳、豪華競演!選者池波正太郎が創作秘話を語る対談解説収録。
秋野智之は、部下の森村茜が担当する顧客に謝罪するために彼女とともに先方を訪ねた。その帰りみち、智之は彼女に、頑張ったねと声をかけるだけでなく、そっと抱きしめてあげたくなった。自分がもっと若くて、きらきらと輝いていたあのころの自分だったら…。人生の予定が狂うほどの恋などするつもりはなかった。秋野智之44歳、城南銀行五反田支店次長、妻と3人の子あり。リアリズムの名手が、理性では抗えない人間・人生の不可思議を描く。
地獄を覗かされ、日本を捨てた国際犯罪者・仙田。外国人犯罪を撲滅するため、限界を超えようとするエリート警官・香田。どん底からすべてを手に入れようとする不法滞在の中国人女性・明蘭。自ら退路を断ち突き進む男女の思惑と野望が一気に発火点に到達した時、孤高の刑事・鮫島が選ばざるを得ない「究極の決断」とは?理想と現実、信念と絶望、個人と社会、正義の意味、そしてこの国のありようが、骨太かつスピーディな物語に溶解していく。ターニングポイントとなるシリーズ最大の問題傑作、光文社初のハードカバーで登場。
1930年代なかばのスイス・ジュネーヴ。国際連盟事務次長の要職にあるギリシア・ケファリニア島生まれのユダヤ人ソラルと、大貴族ドーブル家の血筋を引く完璧な美女アリアーヌ。抜群の政治センスと類稀なる美貌とでその地位を築いたソラルは、社交界の貴婦人たちを虜にする現代のドン・ファンであり、ブラジルのレセプションで見初めたアリアーヌにも危険な恋を仕掛ける。「一つ賭をしませんか。もし三時間以内にあなたが恋に落ちなかったら、あなたのご主人を部長に任命しましょう」。ホロコーストの暗雲忍び寄るヨーロッパで、死の予感を秘めながら繰り広げられる反時代的な恋愛劇。人間の愛と欲を赤裸々に描いたその物語を縦糸に、アリアーヌの夫アドリアン・ドゥームが国際連盟で過ごす怠惰な一日、アドリアンの養母アントワネットのスノビスム、ドゥーム家の人々がソラルを招待するディナーの準備、国際連盟情報部長が開くカクテル・パーティー、女中マリエットのモノローグ、ソラルの故郷からきた5人の親類の狂騒など、魅力的なエピソードが織り込まれ、二人の恋は運命の深みへとはまっていく…。アカデミー・フランセーズ小説大賞受賞の恋愛大河小説。
これまでの幾年月を表向きは平凡な独り者で通してきたその男、実は往年夜の巷の猛者として鳴らしたもう一つの顔を持っていた。かくて昔なじみの娼家の女主人が取り持った14歳の少女との成り行きは…。悲しくも心温まる波乱の恋の物語。2004年発表。