2008年発売
生温い水のようなホーチミンの男。乾いた風のようなソウルの男。夜のネオンのような東京の男。三つの都市で私を待つ、三人の愛人。それぞれに異なる性愛の味。果てしない快楽の三重奏に溺れていく私。そして、可愛がられることに慣れた男たちが、もっと多くを望むようになってー。男という触媒によって高まる、灼けるような欲望と甘やかな母性。女のエロスの表裏を濃密に描く官能小説。
金と力のある男の欲望を受け止めてやるのは、若く美しい女の義務なのだ。私はそれに忠実だっただけー。「地上げの帝王」と呼ばれた不動産会社社長の愛人を経て、女優を妻に持つ有名レストランの御曹司を虜にし、狂乱のバブル期の伝説となった女性、アッコ。彼女は本当に「魔性の女」だったのか。時代を大胆に謳歌し、また時代に翻弄された女性を描く、煌びやかで蠱惑的な恋愛長編。
永遠に私の前から姿を消してしまった洋一のことを、結婚を控えた今、しきりに思い出すのはなぜだろう。大学時代、決定的な関係を避けて、あやふやに別れた彼との木漏れ日のように温かな記憶(「ドイツイエロー」)。孤独な魂が響き合い、その一夜だけを共にした男が私に刻印した言葉の響き(「いつか、マヨール広場で」)。今でも忘れられない追憶の中で、密やかな調べを奏でる四つの恋愛短編。
亜美は3人姉妹の長女。高校時代両親が離婚、妹は自殺し父は堕落していく。そんな境遇の中、亜美は絵画の制作に一筋の光を見いだすが…。愛と居場所を求めつつも、いつしか母を恨んで、その憎しみから、母や、愛した男に対しても亜美は背信行為にはしる。絶望的な最期を遂げる亜美だが、一筋の光を生み、残す。愛と骨肉の物語。
元盛岡藩南部家の剣術師範、十時平蔵。深川にある道場の主におさまっているが、若殿に嫌われ、藩から追われた苦い過去があった。困った人を見ると、せっこ(お節介)を焼かずにはいられない平蔵は、今日も自ら事件に首を突っ込んでいく。中西派一刀流の秘技「おぼろ返し」を揮う剣の達人でもある心優しき道場主と、平蔵を取り巻く人々がおりなす、江戸下町の人情あふれる時代劇。
「わたしは光に照らされる感覚は好きではない。それはひっそりと隠れている安全な感覚をわたしから奪い取り、肉体のあらゆる器官がさらけ出されるような思いを強いる。わたしは慌てて、すぐ皮膚の毛穴の一つ一つに歩哨をたてる。光にわたしをのぞき見られないように。しかし世間には太陽が多すぎる。…わたしはよくわかっているのだ。どんな種類の光であっても、それに覆われてしまう生活は、虚飾と嘘に満ちたものだということを」。女性の官能の美と自分の存在とは何か?を「肉体の言語」で描き、世紀末の中国に新しいアイデンティティの可能性を示唆した長編小説。
献残屋を営む箕之助は、好人物で評判の町医者が敵持ちで市井に潜む身の上であることを知る。そして、町医者の身辺を窺う浪人風体が、押込みと辻斬りの犯人でもあることをつきとめる。箕之助は、用心棒日向寅治郎らとその浪人を始末し、老町医者の過去を消そうと奔走する(「秘めた刃」)。また、商家で先妻が後妻に“うわなり打ち”を仕掛ける事件が発生、そこに謀の疑いを持った箕之助たちがみごとに非道を暴く(「女騒動」)など、好評シリーズ第5弾。
元与力、井上孫四郎は、新たに始めた捜し屋稼業がようやく軌道に乗り始め、ひと息ついたところ。そんな孫四郎夫婦に舞い込んできたのは、七人の捨て子の親探しと世話の依頼だった。育ち盛りの子どもたちの底なしの食欲に圧倒される孫四郎と妻のお福。だが、孫四郎は捜し屋稼業で江戸の闇に足を踏み入れた結果、人身売買であくどく儲ける極悪人に命を狙われるようになっていた。預かった子どもたちのために買い出しに出た孫四郎を尾行する不審な人影が!?書下ろし時代小説。
故郷の小さな町から大都会へ逃げ出したスプー。しかしそこには人間の黒い想念が渦巻いていた。スプーは、精霊と共生する地下の人々との暮すうちにモンスターの正体を見極め、魔術師の役割を悟る。イラストと日記で綴る“ピクチャー・ノベル”「スプーの日記」シリーズ完結編。
本の目利き二人の議論沸騰し、迷い、悩み、選び抜かれたとっておきのお薦め短篇12篇。半村良「となりの宇宙人」、黒井千次「冷たい仕事」、小松左京「むかしばなし」、城山三郎「隠し芸の男」、吉村昭「少女架刑」、吉行淳之介「あしたの夕刊」、山口瞳「穴」、多岐川恭「網」、戸板康二「少年探偵」など、意外な作家の意外な逸品、胸に残る名作をお楽しみ下さい。文庫オリジナル。
フランクザッパ・ストリート再び!動物と人間たちが暮らすファンキー&ポップな街の物語。待望の続編。ニューキャラ、占い師のムイちゃんと、二人の男の子の恋の行方は?ペンギンのグレース・ケリーが生んだ卵の父親は誰?スーパーモデルのパンダのワイワイは、実はサンタクロースだった?…ここでは、誰もがひたすらに愛を信じて生きている。そうすれば、ほらね。行き着く先は、きっと、とびっきりの幸福。
愛している-深く、限られた支持の中で作家は書き続けた。愛している-叩かれるために世に出た作家は死ななかった。愛している-滅びた神の声を聞いて彼女は「金毘羅」になった。愛している-さらなる危機が来た、祈りを失い、そして。愛している-内なる他者に出会う。生きる力は、消えない。判らなくてもいい、唱えてみればいい。言葉の力によって、生きようとする人と再生しようとする人のための愛の呪文。
作家としての輝きのピークにあって、病に倒れたカーヴァー。生前に発表された最後の一篇であり、壮絶さと、淡々とした風情が胸を打つ「使い走り」ほか、秀作全七篇を収録した最晩年の短篇集。ライブラリー版のために改訳。
離婚や息子との死別を乗り越え、老いても自分の夢にかけた大正生まれのお草。知的で小粋な彼女が、街の噂や事件の先に見た人生の“真実”とはー。オール讀物推理小説新人賞受賞作を含む連作短編集。
「あげな女子と話ができたらなんぼええべねす」…東北一の名門校の落ちこぼれである稔、ユッヘ、デコ、ジャナリの四人組と、東京からの転校生、俊介がまき起こす珍事件の数々。戦後まもない頃、恋に悩み、権力に抗い、伸びやかに芽吹く高校生たちの青春を生き生きと描く。ユーモアと反骨精神に満ちた青春文学の傑作。
菊池寛先生の秘書になった「わたし」。流行のモガ・ファッションで社長室に行くと、先生はいつも帯をずり落としそうにしてます。創刊された「モダン日本」編集部では、朝鮮から来た美青年・馬海松さんが、またわたしをからかうのー。昭和初年、日本の社会が大変貌をとげる中で、菊池が唱えた「王国」とは何だったのか。
最近、都で名を馳せる薬師、平大成・中成兄弟は頬に一つずつ瘤がある。秋も深まってきたある日、薬草を採りに山へ入る。大成は道に迷い、鬼達の百鬼遊宴に遭遇してしまう。命がけで舞い踊った大成に鬼達は大喜び、ほうびに瘤を取ってやる。半日後、今度は中成が瘤を取ってもらおうと山へ向かうが…。シリーズ初の絵本登場。