2009年11月発売
物語は、著者自身の分身とおぼしき小説家・古田信次が、郷里岐阜に住む詩人・篠田賢作に自分の年譜の作成を頼むことから始まる。二人の会話を主軸に、美濃に関係の深い人物たちが、複雑に絡み合い、蜿蜒と繰り広げる人間模様。愛する故郷の自然、風土、方言、歴史を取り込み、ルーツを探りながら、客観的に「私」を見つめる。伝統的な小説作法、小説形式を廃した、独特の饒舌体による新機軸の長篇小説。
女優の夢破れ、ニューヨークを去ろうとするジュリエット。一年前に妻に自殺され、深い心の傷を負った医師、サム。マンハッタンで偶然に出会った二人は恋に落ちるが、それぞれがついた小さな嘘のため、一歩を踏み出す決心がつかぬまま、ジュリエットはパリ行きの飛行機に乗る。しかしそれは二人の嵐のような運命の始まりにすぎなかった。ジェットコースターのように急展開する謎やサスペンス。大きな感動と癒しが待ち受けるラストシーンまで、物語はノンストップで走り抜ける。フランス小説界の新星が贈る極上のエンターテインメント。
ノーベル賞作家である父アクセル・ラグナーフェルトは、脳疾患で全身麻痺となり施設に入っている。息子ヤン=エリックはその威光で尊敬を集めて生活しているが、家庭は崩壊し浮気三昧の日々だった。物語は、高齢で死んだ老女の身元確認から始まる。彼女はかつてラグナーフェルト家で家政婦をしていた。葬儀のために探し物をすることになったヤン=エリックは、事故死と聞かされてきた妹の死因に不審を抱く。やがて彼は、高潔なはずの父が何かをひた隠しにしていることを知る…。人は、ここまで堕ちることができるのかー生きることの絶望と希望に迫る問題作。
享保七年(一七二二)、江戸幕府は財政の困窮を理由に、諸大名へ一万石につき百石の割合で米を差し出すよう命じた。世に言う「上米の制」である。八代将軍徳川吉宗の治世が揺らぐなか、当代一の蒔絵師と悪名高い検校が相次いで殺害された。事件の背後には、未曾有の不況に対する市民の憤懣に乗じて幕府転覆を狙う者の姿が見え隠れする。御用取次・加納久通より、「目安箱改め方」に任じられた想身流柔術の使い手・竜巻誠十郎は、二つの殺害事件の真相とクーデター計画の黒幕を探る。政で救えぬ人々のため、天涯孤独の侍が江戸を奔る。大好評シリーズ第三弾。
夏樹は二十七歳、独身。都内の書店で働くようになってから五年たつが、いまだにアルバイトのままだ。彼女は十七歳のときに援助交際の経験があり、いまでも人間関係がうまく築けないでいた。寂しさを紛らわすため、既婚者や出版社の営業の男性と付き合うが、心の隙間は埋まらない。ある日、夏樹は店で中年女性の万引きを目撃する。大学教授の妻である彼女の家を訪れた夏樹は、高校生の息子・光治と出会う。学校でのいじめに耐えながら、気丈に崩壊家庭を立て直そうとする光治に、夏樹は強く心を惹かれる。著者が監督した同名映画の原作小説。
英国の牧歌的な風景と伝統的な風俗風習を背景に展開する、米国ロマン派の巨匠W・アーヴィング(一七八三ー一八五九)の傑作。ブレイスブリッジ邸での婚儀に招かれた語り手が、邸に集う人びとのさまざまな姿や悲喜こもごもの出来事を丹念に見聞きして語る。本邦初訳。
『モモ』『はてしない物語』など数々の名作児童文学で知られるミヒャエル・エンデが、自らの人生、作品、思索について、翻訳者で友人の田村都志夫氏に亡くなる直前まで語った談話。作品の構想のもととなった、現代の物質文明の行きつく先を見通し、精神世界の重要性を訴えたエンデの深い思想が、語りを通して伝わってくる。各章冒頭、巻末に田村都志夫氏の解説付き。
奇妙奇天烈な地下の館、迷路館。招かれた4人の作家たちは莫大な“賞金”をかけて、この館を舞台にした推理小説の競作を始めるが、それは恐るべき連続殺人劇の開幕でもあった! 周到な企みと徹底的な遊び心でミステリファンを驚喜させたシリーズ第3作、待望の新装改訂版。初期「新本格」を象徴する傑作! 密室と化した地下迷宮で繰り広げられる連続「見立て殺人」!
爆弾を仕掛けられたバスは死に向かって疾走する。 Gシリーズ、緊迫の第4作。 山吹早月と加部谷恵美が乗り込んだ中部国際空港行きの高速バスが、ジャックされてしまった。犯人グループからは都市部とバスに爆弾をしかけたという声明が出される。乗客名簿にあった「ε(イプシロン)に誓って」という団体客名は、「φ(ファイ)は壊れたね」から続く事件と関係があるのか。西之園たちが見守る中、バスは疾走する。 プロローグ 第1章 悲しみの始まり 第2章 悲しみの連なり 第3章 悲しみの広がり 第4章 悲しみの高まり 第5章 悲しみの静まり エピローグ
江戸中を震撼させた連続辻斬り事件の探索で、中山道倉賀野宿へと出張った逸馬は、『阿弥陀湯』の三助巳代吉に疑いを抱く。あえて大火傷を負い顔を変えて逃げ続けた巳代吉は、真犯人の顔を見たと訴え出る。一方で信三郎と真琴は、事件の背後にある八州廻り畠山と両替商絡みの不正をつかむ。
かりん、という琺瑯の響き。温泉につかったあと、すっぴん風に描く眉。立ち飲みで味わう「今日のサービス珈琲」。 48歳、既婚者で「中途半端」な私が夢中になった深い愛ーー。さりげない日常、男と女の心のふれあいやすれ違いなど、著者独自の空気が穏やかに立ち上がる。虚と実のあわいを描いた掌篇小説集。
山の民ー。特殊防諜班・真田は、誇り高きその血を受け継いでいた。雷光教団を急速に掌握した、二代目夢妙斎と名乗る男を探る真田は、彼の技に同族の印を見出す。一方、モサドのザミルは中東戦争阻止に忙殺。だが芳賀一族抹殺の新たな陰謀がまた動き出していた。
谷中感応寺。江戸の三富のひとつが行われている最中に、男が殺された。身元不明である。かたや、どこかの藩の船が忽然と消えてしまったという。この二つの事件、どうやら過去の北前船の出来事に関わりがあるらしい…探っていく新八郎だったが、なんと女中・お鯉がさらわれてしまう。人気シリーズ第四作。
江戸から明治へ。時代の節目に、男が変わる、女が変わる…。「牡丹燈籠」や「真景累ヶ淵」などの怪談噺をはじめ、「文七元結」「塩原多助」など数々の創作落語を残し、近代落語の祖と言われる落語界のスーパースター、三遊亭円朝。江戸から明治へ、幕府の崩壊によりすべての価値観が揺らいだ歴史の転換期に生きた大名人と、彼を愛した五人の女たちの物語。
戦闘準備を整えたギアリー大佐ひきいるアライアンス艦隊は、ふたたびラコタ星系に突入した。ギアリーの思惑どおり、敵は戦闘能力を保持する全艦船を追撃艦隊につぎこんだため、そこに残っていたのはスターゲートを警備する小艦隊だけで、あとはおびただしい損傷艦とそれを修理する民間船だけであった。敵損傷艦の撃破、味方捕虜の救出、補給物資の強奪など、ギアリーの立案した作戦はことごとく成功するかに思えたが…。
バーネットは抗癌性物質を分泌する体質の持ち主。彼は、自分の細胞を無断で売った大学と買い手のBioGen社を相手に、訴訟を起こす。BioGen社の研究員ジョッシュは、人を成熟させる遺伝子の研究をしている。一方、ヒトの遺伝子を導入した人語を操るオウムとヒューマンジー(ヒトとチンパンジーの交雑体)が人知れず成長していた。幾多のエピソードから浮かび上がる悪夢の未来図。急逝した巨匠が生前発表した最後の小説。
BioGen社が保存するバーネットの細胞株が汚染され、彼自身も姿を消した。同社の依頼を受けた私立探偵は、バーネットの娘と孫から細胞を採取すべく、二人を追う。オウムのジェラールは鳥かごから逃げ出して冒険を繰りひろげ、学校に通い始めたヒューマンジーのデイヴは騒動を巻き起こす。そして、成熟遺伝子を組み込んだ薬を吸ったジョッシュの兄の体に異変が…事実とフィクションを一体化させ、斬新な構成で描く野心作。