2009年4月発売
才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり…。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。
江戸。安政二年。紙卸商の跡取り息子・ジスケは、六歳の時に奇怪な巨大猫・鮒丸が逃げて以降、運気が下がり続けていた。周囲の婦女子の目線を奪う眉目秀麗なる男に成長したものの、終には着の身着のままの夜逃げをする羽目に。橋の袂の川原で死を待つばかりと相成ったジスケだったが、千里眼で名を馳せた塵点寺の謎の和尚に寺男として拾われる。救われた命、仏門に捧げよう、と日々の勤めをまじめに続けていたが、鮒丸と再会。ある晩、猫が枕元で告げる。自分は極楽浄土で普賢大菩薩の孫となる妖怪である。ただちに一緒に旅に出ろ、とー。
スランプに陥った作家・真由子は、締め切り直前になっても1行も書けない。そんな彼女に、ある言葉が舞い降りる。「昼寝は欠かせない…」そして、夢に魔女が現れた。時間のトリック、意識のピラミッド、感情の振り子ー7日間の夢の中で行われた、“魔女の授業”は、神々が創造したゲームのルールと攻略法を次々と解き明かしていく。「今この瞬間のありのままの自分を許すこと。どんな感情もどんな自分もあっていい」恋愛、結婚、仕事、人間関係ー様々な場面でゲームを楽しめていない人々に贈る“夢のようでほんとう”のスピリチュアル小説、待望の文庫化。
64年の時を越えてアメリカから届けられた1枚の楽譜「真夏のオリオン」。過酷な時代の秘められたドラマがいま甦る。第2次世界大戦末期。米軍の本土上陸を防ぐため出撃した潜水艦イー77号の若き艦長・倉本孝行。それを追いつめる駆逐艦パーシバルのスチュワート艦長。甚大な損傷を受けたイー77号に残された酸素はあと1時間。「俺たちは死ぬために戦ってるんじゃない。生きるために戦ってるんだ」。倉本と乗組員の知力の限りを尽くした作戦が開始された。『終戦のローレライ』『亡国のイージス』の福井晴敏が4年ぶりにおくるエンターテインメント映画を完全ノベライズ。
紬屋の太吉が、女房お悦の着物を仕立てるために藤屋に出入りするようになった。不幸にしてお悦は亡くなるが、そんな太吉を妹女房お房は慕うようになる。しかし、桂助の養父長右衛門と太吉の父親である貞右衛門との間には、今まで知らされていなかった過去があった。お房の気持ちを知り、ある日貞右衛門に呼び出された長右衛門だが、行方不明になる。貞右衛門もいなくなり、目撃証言が出て長右衛門に殺害容疑がかかる。それは、桂助を次期将軍にしようという岩田屋の陰謀だった! 養父を守るために立ち上がった桂助の苦悩を描く、書き下ろし人気シリーズの第7作!
上ゲ屋、保チ屋、目付…吉原を陰でささえる異能の男たち。妓を遊女に仕立て上げ、年季半ばで磨き直し、合間にあって妓の心を見張り、間夫の芽を絶つ。裏稼業を通して色と欲、恋と情けの吉原を描き切った鮮烈なデビュー作。
夫が単身赴任中の専業主婦。ブサイクな出張ホストと密会を繰り返す彼女の本当の望みとは…(『六日間』)。会社社長と長年、愛人関係を続けている育美。社長の妻を見舞う毎日で見つけたのは…(『愛のくらし』)。48歳の画家・鮎子。今は年下の彼とは別の男との情事に夢中。ただ、すぐ飽きてしまうのが常だった…(『猫をつれて』)。犬の散歩で偶然出会った若い男。怪我をした由未子の生活に入り込むが…(『バッドボーイ』)。定年退職間近の布沙子。愛人関係に区切りをつけ、苦手な後輩とも対決。そして、もう一つ「完璧な退職」のために計画してきたことが…(『パーフェクト・リタイヤ』)。オーバー40の女性たちの心情を鮮やかに描いた傑作短篇集。
周到に張りめぐらされた言葉が、不穏な予感を暴発させるーデビュー以来、日本文学の最先端を疾走し続ける阿部和重の危険な作品世界は、いまや次々に現実となっていく。今だからこそ読みたい初期の傑作6作品。3人のゲームクリエイターによる語り下ろし特別座談会“阿部和重ゲーム化会議”を巻末に収録。
冬の八ヶ岳山麓の別荘で、猪狩家の令嬢・静香が逆さ吊り死体で発見された。凄惨な密室殺人は別荘を恐怖の渦に巻き込み、そして第二の被害者が出てしまう…。一冊の日記帳によって明らかになる猪狩家の悲しく暗い過去。事件解決に挑む青年探偵・信濃譲二は完全犯罪を暴けるのか!?傑作長編推理第二弾。
警察組織からの落伍者たちを飼い殺しにしていると噂される動坂署。思いがけない転任に不貞腐れて署内で寝伯まりする雨森は、たまたま聴取した些細な傷害事件の被害者である女子大生の部屋を訪ねて死体を発見する。開署以来初めて捜査本部が置かれたものの、主導権を奪われた署員たちは秘かに動き出した。
風呂の撹拌棒を人にあげたがる女、鋸を上手に使う娘、北の湖を下の名前で呼ぶフランス人、そして空気の抜けるような相槌をうつ主人公…。自覚のない(少しだけの)変人たちがうろうろと、しかし優しく動き、語りあう不思議なユートピア。柔らかな題名とは裏腹の実験作でもある、第一回大江健三郎賞受賞作。
ホームレスになってしまった「ボク」は、食料を探していた神社で、小学生の麻由から弁当を手渡される。巧妙な「餌付け」の結果生まれた共犯関係は、運命を加速度的に転落へと向かわせる。見せ掛けの善意に隠された嫉妬・嘲笑・打算が醜くこぼれ落ちるとき、人は自分を守れるのか!?驚愕の心理サスペンス。
「人間じゃないでしょ」と、老女に髪を切られた直後いきなり言い当てられた死神。彼女の「一生のお願い」は一日だけ、若いお客を五人ほど連れてくることだったー「死神対老女」(伊坂幸太郎)。三崎亜記「バスジャック」、北森鴻「鬼無里」、米澤穂信「シャルロットだけはぼくのもの」、芳醇なミステリーの競演集。
けれどーーもうおしまいだ。 「戯言シリーズ」最終章! なんだかんだ言いながらも始まってしまえば我慢できるし、四の五の言っても終わってしまえば耐えられる。しかし人間は中途半端な中庸だけは我慢することができないし、勿論耐えることもできなくて、それなのに人生ときたら最初から最後まで永遠に続く中だるみみたいなものだから、これはもうまったくもってやってられないと言うべきだ。ひとたび口にしたことは、それがどんな荒唐無稽な世迷事であったとしてもひとつ残らず実行してきた誠実な正直者、つまりこのぼくは、10月、数々の人死にを経験する。奪われたものを取り戻すような勢いで、せき止められたものを吐き出すような勢いで、死んで、死んで、みんな死ぬ。それは懐かしい光景であり、愚かしい光景であり、見慣れた風景であり、見飽きた風景だった。結局、終わりとはなんだったのか。結局、始まりとはなんだったのか。戯言遣いはその程度のことにさえ思い至らず、しかしどうしようもない戦いだけはどうしようもなく続き、そして中断などありうるはずもなくーー戯言シリーズ第6弾 第十幕 橙なる種 第十一幕 休養期間 第十二幕 保険と防御 第十三幕 否定の裏切り 第十四幕 無銘 第十五幕 無防備な結末 第十六幕 前夜
矢傷を負った座光寺藤之助を故郷の山河が優しく癒す。家臣たちに幕府存亡の危機を説く藤之助に、老中筆頭堀田正睦より新たな命が下った。豆州下田では亜米利加総領事ハリス相手に交渉が難渋していた。だが彼が暗殺されれば、江戸湾を外国艦隊が埋め尽くす。無敗の剣で国難に挑む第10弾。
巡礼団全滅という惨事は、ヨナにとって信仰を揺るがすほどの大きな出来事だった。しかしヨナは、任務を続行することにし、スカールら騎馬の民に守られながらヤガを目指す。実はスカールも、戦うミロク教徒の出現に危機感を抱いてヤガ潜入を画策しており、それに際してヨナの力を借りる代わりに彼の護衛を申し出たのだった。一方、イシュトヴァーンは、カメロンの苦悩などおかまいなしに、勝手にパロへと出立してしまった。
東京で生活する美しいがごく普通の女性が名もなき人々を標的に狙撃を繰り返す「狙撃者がいる」、アメリカの食堂で働く少年を通し銃を射つ崇高さを描いた「心をこめてカボチャ畑にすわる」、体験主義の作家が夫の鍵から推理を重ねる「彼女のリアリズムが輝く」他、日常に突如表出する不条理な暴力と謎を鮮烈に捉えた全8篇を収録。スタイリッシュでクール、独創性に満ちた片岡ハードボイルドの傑作を精選。
アレックス・トレヴンは、シリコン・ヴァレーの法律事務所で共同経営者の椅子を狙う野心的な弁護士。ある日、画期的なセキュリティー・プログラムを開発した依頼人が殺され、アレックス自身も何者かに襲われる。からくも難を逃れるが、見えざる敵は次々と刺客を送りこんできた。はたして彼らの狙いは何か?プログラムにはいったいどんな秘密が隠されているのか?窮地に陥ったアレックスはたった一人の肉親である特殊部隊員の兄ベンに助けを求める。だが、アレックスとベンの間には過去のある悲劇的な出来事によって、けっして埋められない深い溝が存在していた…。生き方も性格もまったく異なる二人の兄弟が、過去の相克を乗り越えて襲いくる敵に立ち向かう、アドレナリン全開のハードサスペンス。
刑務所から出所したばかりの大男、へら鹿(ムース)マロイは、八年前に別れた恋人ヴェルマを探しに黒人街の酒場にやってきた。しかし、そこで激情に駆られ殺人を犯してしまう。偶然、現場に居合わせた私立探偵フィリップ・マーロウは、行方をくらましたマロイと女を探して紫煙たちこめる夜の酒場をさまよう。狂おしいほど一途な愛を待ち受ける哀しい結末とは?読書界に旋風を巻き起こした『ロング・グッドバイ』につづき、チャンドラーの代表作『さらば愛しき女よ』を村上春樹が新訳した話題作。