2013年発売
幼馴染みに長年抱いていた恨みが発端の、すぐ解決すると思われた放火事件。夫をアイロンで殴打した主婦が、自分はDVを受けていたと主張。夫の愛人が出産した子供に、虐待の痕を見つけた妻がとった行動とは?左陪席をつとめる新米裁判官・久保珠実は、かつて裁判長にいわれた「裁判は最後まで何が起こるかわからない」の言葉を何度も反芻するー。現代の日本を象徴するかのような三つの事件。悩み議論する裁判員たちをリアルに描く著者迫真のミステリー。
「私の記憶の中にあるホテルを探してくださらない」ある老婦人から依頼された私は、かつて横浜の高台にあり、多くの外国人客を迎えた小さなホテルについて調べはじめる。海が見えるオープン・テラス、年末にバンケットルームで開催される豪華絢爛なダンス・パーティ、評判のシェフが作り出す珍しい料理の数々、世間の目をはばかる客も多かった長期滞在者用のアパートメント。不思議なことに、もと従業員や宿泊客たちが語るホテルにまつわる思い出話には、死と影と奇妙な謎がからみついていたー憂いと頽廃の気配漂う、美しくも恐ろしい連作短編集。
なぜ俺たちは戻ってきてしまうんだ!?半壊したラブホテル。廃墟探索サークルの男女5人を襲うタイムループ。極限状況で剥きだしになるエゴ、渦巻く愛憎。悪夢を脱するため、たったひとりの犠牲の山羊となるのは誰か?驚愕の新感覚ホラー。
史上最高齢・75歳で芥川賞を受賞した「新人女性作家」のデビュー作。蓮實重彦・東大元総長の絶賛を浴び、「早稲田文学新人賞」を受賞した表題作「abさんご」。全文横書き、かつ固有名詞を一切使わないという日本語の限界に挑んだ超実験小説ながら、その文章には、「昭和」の知的な家庭に生まれたひとりの幼な子が成長し、両親を見送るまでの美しくしなやかな物語が隠されています。ひらがなのやまと言葉を多用した文体には、著者の重ねてきた年輪と、深い国文学への造詣が詰まっています。 著者は、昭和34年に早稲田大学教育学部を卒業後、教員・校正者などとして働きながら、半世紀以上ひたむきに「文学」と向き合ってきました。昭和38年には丹羽文雄が選考委員を務める「読売短編小説賞」に入選します。本書には丹羽から「この作者には素質があるようだ」との選評を引き出した“幻のデビュー作”ほか2編も併録します。 しかもその部分は縦書きなので、前からも後ろからも読める「誰も見たことがない」装丁でお送りします。 はたして、著者の「50年かけた小説修行」とはどのようなものだったのでしょうか。その答えは、本書を読んだ読者にしかわかりません。文学の限りない可能性を示す、若々しく成熟した作品をお楽しみください。
映画『その後のふたりーParis Tokyo Paysage』と同じ骨格を持ちながら、映画で描かれる世界の裏側に潜むもう一つの真実を文学化。ふたりの秘密がここに明かされる。
異国の地で城の地下牢に囚われた女。名前も顔も知らないがこの世界のどこかに存在する絶対の敵。いつ終わるとも知れぬ長い裁判。頭の中の機械。精神病療養所のテラスで人形劇めいた場面を演じる人々-孤独な生の断片をつらねたこの短篇集には、傷つき病んだ精神の痛切な叫びがうずまいている。自身の入院体験にもとづく表題作はじめ、出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げる最初の傑作。
いいかげんな性格で悪名高い捜査一課田楽心太は、冴えた捜査勘と共感力では誰にも負けない名刑事だ。巨大リテールカンパニー社長令嬢の誘拐と、建設現場で発見された焼死体。事件の因縁を田楽が解きあかす。
大手総合商社燃料部員の金沢明彦は、ロシア・サハリンの巨大ガス田開発を命じられる。同じ頃、下位商社役員で中近東に名前を轟かす亀岡吾郎は、野望に燃える通産官僚十文字一と結託し、イランの巨大油田開発に日本政府を巻き込む。シンガポールでは、米系投資銀行出身の秋月修二が中国企業に巧妙なエネルギー・デリバティブ取引を仕掛ける。世界を相手に資源開発に挑む男たちを壮大なスケールで描く。
五井商事の金沢明彦が進めるサハリンのLNGプロジェクトは環境保護団体の執拗な攻撃を受け、ロシア政府の介入と金融機関の離反を招く。トーニチ専務の亀岡吾郎は、アメリカの対イラン経済制裁で暗雲ただよう「日の丸油田」を救うため、ユダヤ人ロビイストを利用。秋月修二が中国企業に仕掛けた石油デリバティブ取引は、シンガポール市場を揺るがす巨額損失事件へと発展する。大河経済小説、完結。
脇目もふらず猛烈に働き続けてきた女性経営者が恋にも仕事にも疲れて旅に出た。だが、信頼していた秘書が手配したチケットは行き先違いでーー? 女性と旅と再生をテーマにした、爽やかに泣ける短篇集。
父親の不貞、旦那の浮気、魔が差した主婦……リバーサイドマンションに住む家族のあいだで繰り広げられる情事。愛憎、恐怖、哀しみ……『るり姉』で注目の実力派が様々なフリンのカタチを描く、連作短編集。
敗戦間近の箱根で、ドイツ軍潜水艦長が変死した。違体を発見したのは旅館の女中・安西リツ。事件調査の通訳を任された法城は他殺を疑うが、ドイツ人軍医シュルツェは、自殺であると断言する。不審に思い調べを進めると、そこにはナチス・ドイツの陰謀の影が見え隠れしていた。一方リツは、ドイツ人潜水艦乗組員の若者パウルと急接近し、その後ラジオから流れてきた陽気なジャズの調べに新たな明日を感じるのだが…。傑作長編。
時は平安。命の代償として、命の次に必要なものを失った昌浩。見鬼の才を失い、さらに昌浩のことを忘れた紅蓮の言動に悩み傷つく日々を送っていた。そんな中、出雲で人々が妖に憑かれていく事件が起こりーー!?
寄せては返す波のような欲望に身を任せ、どうしようもない淋しさを封じ込めようとする男と女。安らぎを切望しながら寄るべなくさまよう孤独な魂のありようを、北海道の風景に託して叙情豊かに謳いあげる。
音楽家の忘れ形見と愛弟子の報われぬ恋「蝉丸」。隅田川心中した少女とその父の後日譚「隅田川」。変死した作家の凄絶な愛「定家」。能に材を採り、狂おしく痛切な愛のかたちを浮かび上がらせる現代能楽集。
凶悪な人間兵器「メギド」をもうひとつの人格として持つ根岸達也。九州での闘いを終え、辿りついた北海道で見たものは、国のエネルギー政策転換の陰に蠢く巨大な利権の渦だった。やがてアイヌの聖地を舞台にした陰謀に巻き込まれる達也。そして新しい人格の目覚めが達也を苦しめていく。フラッシュバックする血塗れの殺人現場の幻覚は何を意味するのか?大好評アクションシリーズの第4弾。
中堅化粧品会社・白雪堂に新卒で入社した峰村幸子。看板ラインの「シラツユ」販促キャンペーンチーム担当となった。だが、シラツユの売上は下降線、峰村が先輩の槙さんに相談しながら考えた企画は他のメンバーには理解されない。就職浪人中の彼氏との溝も深まり、さらには情報漏洩疑惑や合併の噂まで聞こえてきて…。眼前にそびえる壁を自然体で乗り越えようとする峰村の姿に頑張る気力が湧いてくる、お仕事小説の白眉。