2017年5月発売
雨の音、町工場の金属音、窓外を歩く人の足音。無防禦な耳から身内に入り込む音が過去と像を結び、夜半の蜩の声で戦争の恐怖、破壊と解体が噴出する表題作他、男女の濃密なエロスが漂う「除夜」から、空襲に逃げ惑う少年の姿に震災後の今と未来を予感させる「子供の行方」まで。時空の継ぎ目なく現れる心象、全官能で入念に彫琢した文章。齢を重ね、なお革新と深化を続ける古井文学の連作短篇集。
二〇一一年三月一一日、東日本大震災が起きた。余震の続く中、地震の被害は原発の方へも拡がっていく。作家は言葉を失い、そして言葉の力で立ち上がる。戦後の米軍占領期に生まれた混血の孤児たちの人生。隠された暴力と恐怖の記憶。しかし作品は、多くの色彩が交錯し妖しくも美しい…。「世界の終わり」へ向かう現実に引き戻される長篇小説。
演劇を通して世界に立ち向かう永田と、その恋人の沙希。夢を抱いてやってきた東京で、ふたりは出会ったー。『火花』より先に書き始めていた又吉直樹の作家としての原点にして、書かずにはいられなかった、たったひとつの不器用な恋。夢と現実のはざまにもがきながら、かけがえのない大切な誰かを想う、切なくも胸にせまる恋愛小説。
1984年。13歳だった。夏休みが終わる2日前、ぼくたちの人生はここから大きく狂いはじめたんだ。少年時代は儚く、切なく、きらめいている。台湾が舞台の青春小説
江戸末期の京都。北近江の十一面観音に魅せられた青年、烏は、僧になるため京の都にやってきたが、観音像を彫るために仏の道を捨てる。食うために彼が始めたのは、生身の女のあられもない姿を彫り出すことだった…。
かつて鳥だったころのことが忘れられず、母親と別れてケンジントン公園に住むことになった赤ん坊のピーター。葦笛で音楽を奏でたり、公園内の小さい家での一夜の出来事など、妖精たちや少女メイミーとの出会いと悲しい別れを描いたファンタジーの傑作。挿し絵アーサー・ラッカム。
なんて、きれいでおいしいんだろう。江戸の菓子に魅せられた小萩は、遠戚の日本橋の菓子屋で働き始める。二十一屋ー通称「牡丹堂」は家族と職人二人で営む小さな見世だが、菓子の味は折り紙付きだ。不器用だけれど一生懸命な小萩も次第に仕事を覚えていって…。仕事に恋に、ひたむきに生きる少女の一年を描く、切なくて温かい江戸人情小説。シリーズ第一弾!
中原道正・小夜子夫妻は一人娘を殺害した犯人に死刑判決が出た後、離婚した。数年後、今度は小夜子が刺殺されるが、すぐに犯人・町村が出頭する。中原は、死刑を望む小夜子の両親の相談に乗るうち、彼女が犯罪被害者遺族の立場から死刑廃止反対を訴えていたと知る。一方、町村の娘婿である仁科史也は、離婚して町村たちと縁を切るよう母親から迫られていたー。
俳句の価値を主張して国語教師と対立した茜。友人の東子に顛末を話すうち、その悔しさを晴らすため、俳句甲子園出場を目指すことに。ふたりのもとには、鋭い音感の持ち主の理香や、論理的な弁舌に長けた夏樹らの個性的な生徒が集う。そして、大会の日はやって来た!少女たちのひたむきな情熱と、十七音で多彩な表現を創り出す俳句の魅力に満ちた青春エンタテインメント!
茉祐子は火山の麓で百年以上続く温泉旅館を営んできた。三十代半ばだが、年より若く美しい彼女が深い仲になったのは、新聞の支局員、火山の研究者、新任の教師。時が来れば、彼女の元から去って行く男たちばかりだった。旅先のNYで出会った初老の夫婦の言葉に彼女の凍りついていた心が解きほぐされる表題作など男女の深淵を描く傑作揃いの短編集!
ついにペシャワール城に魔軍が襲いかかる!クバードらの善戦むなしく、魔将軍イルテリシュ率いる数万の魔物たちの猛攻に城は陥落寸前に。そのときー。一方、客将軍としてミスル国に滞在するヒルメスには、国を乗っ取る千載一遇のチャンスが訪れていた。さらに、王都エクバターナの地底では、蛇王ザッハークの眷属が暗躍する!激動のシリーズ第十二弾。
ミステリー文学資料館は、日本の探偵・推理小説の書籍や雑誌を収集保存し、研究者や一般読者の利用に供するために一九九九年四月に開館した。“遺産”ともいえるその膨大なコレクションより、戦前から人気作家として活躍した大下宇陀児と、トリックに執着し続けた楠田匡介のレアな長編二作を選りすぐり、さらには二人の共作も加えた傑作アンソロジー!!
汐崎藩の御刀番頭・左京之介は、対立している水戸藩江戸家老から、京之介の友である水戸藩御刀番頭・神尾兵部の行方がわからなくなったと告げられる。頼みを受け友の行方と水戸藩から奪われた「九字兼定」を捜す京之介の眼前に謎の集団が立ちはだかる。闇同心、影目付…「九字兼定」を狙う者たちとの壮絶な闘いが始まったー。手に汗握る渾身のシリーズ第七弾。
駆け込み寺「慶光寺」の主・万寿院の知人の娘・お結を、京から連れ帰ってきた「橘屋」の用心棒・塙十四郎。お結は目の前で父親が殺され口が利けなくなっていた。江戸でやっと静かな日々が訪れたころ、突然、お結は命を狙われる。それをきっかけに判明した衝撃の過去とはー。(「さくら道」)表題作をはじめ、ひとの温もりに癒される四編を収録。著者の代表シリーズ第十三弾。
中越・永生藩の山村から、奇妙な男が江戸に送り込まれた。無垢な心を持ち、鷹のように一瞬に獲物に止めを刺す、森で育った忍びの者、西上幻影。北町奉行所の隠密廻り方同心・萬七蔵は相次ぐ豪商の不審死を調べるうち、ある腹黒い商人と永生藩国家老周辺との癒着に気づく。巻き込まれる誇り高い鷹、幼影の運命に、七蔵はどう立ち向かうか。傑作シリーズ第三弾。
“新宿区”の倉庫から、ゴルゴダの丘でイエスを刺した“ロンギヌスの槍”が強奪された。槍の持つ、世界を統べる力を封じられるのは、神を突いたもう一本“無名兵士の槍”のみ。奪還を目指す“区”。一方、美貌の人捜し屋・秋せつらは、槍を追うバチカンの使者・牧ラジアの依頼で、まず「楯」となる、イエスが纏った“聖衣”の捜索を開始。だが、その前にロンギヌスの子孫・フロン一族が現れ、“区”も交えた争奪戦が勃発した!“聖衣”はどこに?二本の槍は誰の手に?神を殺した魔槍は“魔界都市”さえ滅ぼすのか?書下ろし最新刊!
東京湾に浮かぶ新日本瓦斯開発株式会社の天然ガス掘削プラットフォーム“エレファント”。大型台風が迫る夕刻、不審な転落事故が発生し、作業員一名が死亡。暴風域に入る前に単身、現着した警視庁捜査一課殺人班の入間祐希は、事故現場で爆発物の存在を嗅ぎ取る。施設に残った社員11名に事情聴取を進めようとするが、国家のエネルギー政策を担うプロジェクトを円滑に継続させようとする企業側と衝突。嵐が吹き荒れる中、外部との通信がダウン、さらに作業服を着た不法入国者と思われる謎の男が札束を抱えて爆死した。薬物、拳銃、金ー作業員たちの裏の顔が浮かび上がってきた時、ついに爆弾魔の狂気が暴走を始める…。
どんなに調理が難しい食材でも、心をほぐす一品に変えてみせます!失踪した両親を捜すため、持ち込まれた食材で料理を作る“移動調理屋”を始めた佳代。結局、両親には会えなかったが、貴重な出会いと別れを経験。やがて松江のばあちゃんとの出会いが、佳代を変えた。シングルマザーやお年寄りなど、苦労している人たちのために全国に支店を開いてほしいと言われたのだ。金沢の近江町市場前での営業を皮切りに、佐渡島のロングライド大会では“ズッキーニ麺ポモドーロ”、山形の芋煮会では“手打ち冷やしラーメン”などに挑戦しながら、その想いを実現するために、佳代を乗せたキッチンワゴンは今日もゆく!