2019年3月22日発売
東北の大震災後、水辺の災害の歴史と土地の記憶を辿る旅を続ける彼は、その締めくくりとすべく、大震災と同じ年に台風12号による記録的な豪雨に襲われた紀伊半島に向かった。バスの車窓から見える土砂災害の傷跡を眺める彼の胸中には、クラシック好きで自死した友・唐谷のことなど、さまざまな思いが去来する。現代日本における私小説の名手が、地誌と人びとの営みを見つめて紡ぐ、人生後半のたしかで静謐な姿。 東北の大震災後、水辺の災害の歴史と土地の記憶を辿る旅を続ける彼は、その締めくくりとすべく、大震災と同じ年に台風12号による記録的な豪雨に襲われた紀伊半島に向かう。天嶮の地、大和は十津川村へと走るバスの車窓から見える土砂災害の傷跡を眺める彼の胸中には、かつてこの道を進んだであろう天誅組の志士たちの、これまで訪れた地や出会った人、クラシック好きで自死した友・唐谷のことなど、さまざまな思いが去来する。バスはいよいよ十津川村へと入っていき、谷瀬の吊り橋前で休憩停車する。ここで途中下車した彼は吊り橋を渡る。風に揺れる橋の上で彼は、電気工だったころのこと、中学生時代のことなどを心のなかで唐谷に語りかけるのだった。 二年後、小説の彼の足取りを辿るように、病の癒えつつある「私」はふたたび谷瀬の吊り橋の上に立っていた。橋を渡りながら、「私」は宿のおかみさんと話をした北海道の新十津川町のことを思い出し、唐谷への友情にひとつの答えをみつける。 現代日本における私小説の名手が、地誌と人びとの営みを見つめて紡ぐ、人生後半のたしかで静謐な姿。
ひとつの時代が終わる。それだけがたしかな時に…。美しく死ねた者、なまじ生き残ってしまった者、己が才覚の扱いに悶える者…。人生のさまざまな姿が異常なまでにクッキリと浮かび上がった魔術的な時空間を描く五篇。
サーカス団の元スター、ホルトと、その子どもミリーとジョーは、生まれたばかりの子象、ダンボの世話係に任命される。ダンボは、大きな耳ゆえバカにされていたが、その耳で空を飛べることがわかってから一躍サーカス団の人気者に。やがて遊戯施設「ドリームランド」の経営者、V.A.ヴァンデヴァーの力で、ドリームランドの大舞台に立つようになる。だがホルトは、きらびやかな舞台とは裏腹に、ダンボと自分たちに闇が迫っていることに気づきー。ディズニー最新実写映画を完全ノベライズ!!
53歳♂バツイチの元芸術家。それでも人生は続くーー“人生100年時代”の極上人間ドラマ! 人が生きてきた時間を封じ込めるーーそれが、肖像彫刻。芸術の道を諦めて、八ヶ岳山麓で職人彫刻家として再出発した正道。しかし彼の作品には、文字通り魂が宿ってしまうのだった。亡き両親、高名な学者、最愛の恋人……周囲の思惑そっちのけで、銅像たちが語り始めたホンネとは。人間の愚かさと愛しさが胸に迫る人生賛歌。
下鴨神社の神職の家に生を受けた鴨長明は、歌に打ち込み、琵琶に耽溺し、出世を望みながらも幾度となく挫折。源平争乱の時代に、大火事、大飢饉、大地震などを目の当たりにした後に五十歳で出家、山奥の一間の庵にこもる。不遇の半生と未曾有の厄災から悟ったこの世の真とは。八〇〇年の時を越え、普遍の価値観を湛える『方丈記』作者の波瀾万丈の生涯。
今日も、誰かがささやく。「あいつがカゲロボらしいよーー」。いつも、誰かに見られている……。最初は他愛のない都市伝説の筈だった。しかし、イジメに遭う中学生、周囲から認知症を疑われる老人、ホスピスに入った患者、殺人を犯そうとする中年女性など、人生の危機に面した彼らの前に、突然現れた「それ」が語ったことは。いま最注目の作家が描いた、救いをめぐる傑作。
クワコーこと桑潟幸一准教授が、たらちね国際大学に転勤して最初の夏休み。低偏差値大学の「受験生応援プログラム」というリクルート大作戦の一環として、ティッシュ配りにあけくれていたクワコーへの、次なる指令は?「ゆるキャラの恐怖」…大学対抗ゆるキャラコンテストに着ぐるみで出場せよ。審査委員長はみうらじゅん、「おそろしき事がおこるぞよ」との脅迫状が届いて…。「地下迷官の幻影」…セミの次はキノコだ!理想の食材を求めるクワコーは、エロナマズ大王に恫喝され、学園に渦巻く権力闘争の暗流に巻き込まれる。文壇のマエストロの脱力系ミステリー!
あの文豪の生涯と作品を織りまぜて、リシャッフルし、夢見直して、12の妖しい、美しいピースに仕立てた本。それだけで十分すごいが、さらにこの日本語版は、原文の独特のリズムを緻密に再現し、等しく妖美な作品を再創造している。奇跡のような一冊。 ーー柴田元幸 本書を読む者は 必ずや二度三度と 芥川の文学的狂気に侵される。 イギリス暗黒文学の旗手が、芥川龍之介の生涯を恐るべきヴィジョンと魔術的な語りを通じて幻想文学として語り直す。 芥川龍之介。東方と西方の物語と伝承と信仰に魅せられた男。そのなかで静かに渦を巻く不安。それがページから少しずつ滲み出す。 半透明の歯車が帝都を襲った震災の瓦礫の彼方にうごめき、頽廃の上海の川面には死んだ犬が浮き沈み、長崎には切支丹の影が落ち、己が生み出した虚構の分身が動き出し、そして漱石がロンドンでの怪異を語る。河童。ポオ。堀川保吉。ドッペルゲンゲル。鴉。マリア像。歯車。羅生門、藪の中、蜘蛛の糸、西方の人ーーキリスト。私のキリスト。 ジェイ・ルービン訳の芥川作品をピース自身の呪術的な語りとコラージュし/マッシュアップし/リミックスして生み出した幻想と不安のタペストリーを、コーマック・マッカーシーやリチャード・パワーズらを手がけた黒原敏行が芥川自身の文章と精密によりあわせて完成させた日本語版。芥川と幻想ノワールの結合として、原語版以上の衝撃をもって読者を眩惑する。 災厄と文学、狂気と詩情、日本文学と英国文学、現代文学と近代文学、現実と幻覚……すべての境界をおぼろに融かしてゆく文学と翻訳のはなれわざ。
高校二年生の瞬の前に現れたのは、二十歳以上の年の差がありながら、まるで魂を分けあったかのように心が通じる女性、那知だった。那知がかつて諦めた夢を叶えるため、気持ちをひとつにした二人はしだいに強く惹かれあう。だが、それは互いを失うかもしれない怖さを孕んだ日々の始まりでもあったー。運命的な愛に揺れる少年の姿を、繊細な筆致で描いた著者会心のデビュー長編。
12歳になると、みな「ギフト」と呼ばれる力が覚醒する世界。しかし冒険者をめざす少年・ハルはギフトが覚醒せず、仕方なしに冒険者パーティの荷物持ちとして働いていた。そして強力な怪物に襲われた時、はじめてハルのギフトが覚醒する。その力とはー「成長」。ハルはこの世界でただひとり、倒した敵から新たなスキルを奪い、さらにそれをレベルアップできる冒険者となったのだ。覚醒したハルは、ケガしたところを救った獣人の少女・ルナリアとともに、最強ギフトの力で冒険者街道を駆けあがる。「小説家になろう」発、努力で才能をつかんだ少年の無双サーガが、ここから始まる!
もと徴兵忌避者、のちプロレタリア作家として活躍、昭和20年ルソン島で報道従軍中に被爆死した里村欣三。波乱の人生を貫いたその眼差しには「時代」の桎梏を突き抜ける普遍性がある。その風骨、作家的相貌をただ一冊の本で示す42作品を一挙収録!