2023年5月発売
全米図書賞にノミネートされ、キム・チョヨプら新世代韓国SFに多大な影響を与え続ける「中短篇の神」(ムン・モカ/作家)が、ついに日本上陸!「どれほど似ているか」韓国SFアワード大賞受賞作(中短篇部門)-衛星の避難民を救う任務を負う宇宙船で、人間の姿で目覚めたAIの「私」。人間とは何か?機械に感情はあるか?繋がりの可能性を追求する決死の旅。「この世でいちばん速い人」韓国SFアワード優秀賞受賞作(中短篇部門)-事故を未然に防ぎ、人々を救ってきた光速の超人“稲妻”の苛立ちと苦悩。SNSが過熱する中、世代間の対立と融和を描く傑作続編「鐘路のログズギャラリー」も収録。ほか、寡作の作家による集大成となる10篇。
『フランケンシュタイン』+『そして誰もいなくなった』…ホラー、ミステリの「優良物件」を名匠が料理!バハ・カリフォルニア沖に浮かぶホースシューアイランド、この島に設立された国際低温工学研究所(ICI)のホッブズ博士は、極秘裏にある実験計画を進めていた。長期間冷凍保存していた体から外科手術によって脳や臓器を取り出して移植し、人間を蘇らそうというのだ。ICIの活動に疑念を抱いたコンピュータ検察局は、捜査員ジャジーンをこの島に送り込む。潜入捜査を開始したジャジーンは、やがて思わぬ事態に直面する。手術によって「彼」が心拍と脈拍を取り戻した翌日から、手術のために集められた医師が一人、また一人と殺されていく!SFミステリ“コンピュータ検察局シリーズ”最終作。本邦初訳。
ハンサムな黒髪の魅惑のボス、ニコの秘書グレースは、地味な服装にノーメイク。私生活をまったく明かさず、周囲と打ち解けることもない。彼に恋心を抱いているが、住む世界が違いすぎた。実らぬ恋をあきらめようと、別の男性とデートをしたものの、いやな思いをさせられ困っていたとき、魔法のようにニコが現れ、助けてくれた。ますます彼への想いは断ち切りがたくなるが、ある日、ニコに同行した出張先で、グレースはプレイボーイの彼の誘惑に屈してベッドを共にしてしまい…。
カストール・クセナキスの豪邸に足を踏み入れたとき、店のレジ係にすぎないグローリーは自分の思いつきを後悔した。悪名高いギリシア富豪が連日主催する派手なパーティに潜り込み、自分の純潔と引き換えに姉の治療費を手に入れようだなんて…。カストールは招待客ではない小柄な女性を琥珀色の目で見つめた。フードつきの真っ赤なコートを肩にはおり、震えている。見るからに無垢なグローリーの話を聞くやいなや、彼は言い放つ。「ある事業のため僕は妻が必要だ。報酬を払うから結婚してくれ」
旅先で盗難に遭い、宿代を稼ぐため仕事に出向いたティファニー。だがそこは、セレブ御用達のいかがわしいクラブだった。間一髪でダーハラ国のセクシーな王子ラフィークに救われ、ひと目で彼の虜になったティファニーは甘く熱い夜を共にするが、翌朝、当座の現金を渡され、冷淡にあしらわれて傷ついた。私を金目当ての娼婦だとでも思っているの?二度と顔も見たくないと立ち去った2カ月後、事態は急変する。妊娠していたのだ。すぐにラフィークとの面会を取りつけるが、彼は訝しげにティファニーを睨みつけ、DNA鑑定を求める一方、驚いたことに、結果を問わずきみと結婚すると宣言して…。
ヴォリャルスはヨーロッパ一富裕と言われる王国。その国のゴージャスな皇太子マックスがジリアンの恋人だ。幸運にも見そめられ、たちまち恋に落ちて7カ月。今夜こそ彼にプロポーズされると、ジリアンは信じていた。ところが、熱いキスとベッドを堪能したあと告げられたのは、夢見ていた求婚の言葉ではなく、すげない別れの言葉だった!「世継ぎを産めない可能性のある女性とは結婚できない」悲嘆に暮れるジリアンを残して、マックスは去っていった。実はこのとき、奇跡的に小さな命を授かっていたとも知らずに。
「提案を受け入れたくなったのだろうが、その件はもう締め切ったよ」大富豪レアンドロのオフィスを訪ねたセリアに、彼は冷たく告げた。3週間前、愛を信じない彼にベッドだけの関係を続けようと提案された。駆け落ちしたレアンドロの婚約者とセリアの兄を二人で捜す間に、互いに惹かれて分かち合った情熱の時はたしかにすばらしかった。でもセリアは自分だけ夢中になることを恐れて彼の提案を断っていた。レアンドロとの関係を続けていれば、リゾートでの休暇や劇場の特等席、最高級の食事、そして何より彼というすてきな恋人が手に入ったのに…。だが今、セリアはそんなことよりはるかに重い現実を告げに来たのだった。「わたしがここに来たのは、妊娠したことをあなたに伝えるためよ」
旅先のギリシアで気品に満ちた男性エリアスと出逢ったベスは、言葉を交わすうちに強く惹かれ合い、めくるめく夜を過ごしたー名字も連絡先も告げず、ただ思い出だけを分かち合って。やがて妊娠に気づいたベスは厳格な両親と対立して実家を出るが、数カ月後、仕事でロンドンにいる間に激痛に襲われ、破水してしまう。搬送先の病院でベスの早産の処置をすることになったのは、なんと、あの忘れえぬ一夜の相手、エリアスだった!再会の衝撃に動揺するベスとは対照的に、彼はいたって冷静だ。生まれてくるのが我が子だと知ったら、彼はなんと言うかしら?しかし、エリアスにもまた、重大な秘密があるのだった…。
大事な社交界デビューを前にして、ハティは恐ろしくてたまらなかった。事故で脚に大怪我をした私は、一生不格好にしか歩けない。世間からは、花嫁としての価値が下がった女、と同情されている。ところが、ボーフォート伯爵ジャスパーだけは違った。ハティの兄の親友は世間では手のつけられない放蕩者として有名だが、とても男らしくて優しく、彼女は幼いころからずっと憧れていた。おどおどと赤面してばかりで、ろくに口をきいたことはなくても。そのジャスパーが私に、ワルツを踊ってほしいと言ってくれた。しかし当日、伯爵が現れることはなく、ハティはみじめな壁の花として踊る男女を見つめるしかなかった…。
今しがた求婚者を得意の剣術で負かしたレディ・ニコラは、次に手合わせを願い出てきた相手に驚いたーファーガス!初めてファーガスと会ったのは、ニコラが11歳のとき。親が決めた許婚である年上の美少年の彼に憧れていたのに、彼は垢抜けない彼女に見向きもせず、幼い恋心を踏みにじったのだった。12年ぶりの再会。いかにも尊大なファーガスはたくましく、輪郭もシャープになり、片耳に耳飾りをして野性味にあふれている。余裕でニコラを負かした彼はしかし、誤って彼女の胸を傷つけてしまう。すると、すかさず彼女を抱き上げてベッドまで運び、宣言した!「傷も含め、何もかもすべて、きみはぼくのものとなる」
高校時代、恋人がバイク事故で他界したヘイゼルは、やがて妊娠に気づき、学校も行かずに娘を産み育ててきた。その娘も18歳になり、この夏大学に入って家を離れたが、今日久々に戻ってくるという。「友達を連れていくわ。特別な人なの」娘がそう連絡してきてから、母として不安でたまらなかった。ベルの音に玄関へ急いだヘイゼルは、40代くらいの男性を見て驚く。「サイラス・ジャーディンです」優雅に手を差し出す相手を前に、ヘイゼルの頭は大混乱した。これが娘の特別な人?こんなに年上の?若い女性を餌食にする吸血鬼のような男かもしれない!にわかに怒りが湧いたー男らしくてたくましい彼に惹かれている自分に。
幼くして家族を失ったジゼルは、引き取って育ててくれた大叔母のため、いい介護施設の費用を稼ぐべく一生懸命に働いている。たとえ好戦的な実業家サウルがクライアントであっても。王族出身の彼は世界が思いどおりになると信じているようで、意のままにならないジゼルを何かと目の敵にした。だがある日、ジゼルは不用意な発言でサウルの怒りを買った際、感情が高ぶった彼に唇を奪われ、思わず情熱的に応えてしまう!その後、サウルから彼の祖国への一時帰国に同行するよう命じられ、ジゼルは気まずいながらも仕事のために現地へ飛んだーサウルを執拗に誘惑する妃をかわす“道具”にされるとも知らず。
39歳になったカメラマン・横道世之介が暮らすのは、東京郊外に建つ下宿「ドーミー吉祥寺の南」。元芸者の祖母が始めた下宿を切り盛りするあけみちゃん、最古参の元芸人の営業マン礼二さん、書店員の大福さん、大学生の谷尻くんらとゆるーっと暮らす毎日に、唐突に知り合いのベテラン教師ムーさんの引きこもりの息子一歩が入居することになって…。
湘南のカフェ店員に一目惚れ、相手をふり向かせたくてサーフィンを始めた「ドーミー吉祥寺の南」の下宿人谷尻くん。その恋を応援する傍らで、最愛の人二千花と過ごした日々を幾度となく反芻する世之介だった。春から夏へ。相変わらずのんびりと季節が移ろうなか、後輩カメラマンのエバと咲子カップルが新しい命を授かり、世之介は「名付け親」に指名される。ところが咲子の容態が一転し…。やがて運命の日がやってくる。
皆が求める“普通”の「私」でいなきゃいけない。どうせ変われないって、私は私を諦めていた。「海いかない?」そんな息苦しい日々から連れ出してくれたのは、成績優秀で、爽やかで、皆から好かれてたくせに失踪した「らしい」と学校に来なくなった君だったー。
知り合いから頼まれて顔も知らない人と待ち合わせをする羽目になった俺(水上)。この人と思ったキザキさんは別の男と去ってゆき、代わりに現れたサカナさんに誘われるままに不思議な居酒屋で飲み明かし、まさに迷宮にはまり込んでゆく、心理的ロードムービーのような作品。ほかに書き下ろし「Maxとき」も収録。第四回ことばと新人賞受賞作。
日本の植民地支配下での幼年時代。何度も支配が入れ替わる朝鮮戦争下のソウルで生き抜いた苦闘の日々。“家族”との葛藤、母親との確執、そして大人の女性へー。