2024年7月11日発売
第67回群像新人文学賞受賞!新たな戦争の時代に現れた圧倒的才能!21歳の現役大学生、衝撃のデビュー作。 先祖の魂が還ってくる盆の中日、幼い少年と少女の前に、78年前に死んだ日本兵の亡霊が現れるーー。時空を超えて紡がれる圧巻の「語り」が、歴史と現在を接続する! 島尾敏雄ほか先人のエコーを随所に響かせながら、沖縄に深く堆積したコトバの地層を掘り返し、数世代にわたる性と暴力の営みを、『フィネガンズ・ウェイク』的な猥雑さで、書きつけた作品。Z世代のパワフルな語部の登場を歓迎する。 ーー 島田雅彦 十四章の構成で沖縄の近現代史を描き切る、しかも連関と連鎖、いわば「ご先祖大集合、ただし無縁者も多い」的な賑わいとともに描き切る、という意図はものになった、と私には感じられた。/この小説はほぼ全篇、ある意味では作者自身のものではない言葉で綴られていて、だからこそ憑依的な文体を自走させている。つまり、欠点は「長所」なのだ、と私は強弁しうる。要するにこの「月ぬ走いや、馬ぬ走い」は小さな巨篇なのだ。 ーー 古川日出男 「読んだものを茫然とさせ、彼のいままでを氷づけにし、そのうえで、読むことをとおしてあたらしい魂を宿らせる、そんな小説でありたい……テクストでの魂込め(まぶいぐみ)とでも呼ぶべきところが、ぼくの目標です。」豊永浩平(受賞のことば) ぼくがここにいて、そしてここはどんな場所で、なによりここでぼくはこうして生きてきた、ってことを歌って欲しいんだ、ほとばしるバースはライク・ア・黄金言葉(くがにくとぅば)、おれらは敗者なんかじゃねえぞ刻まれてんのさこの胸に命こそ宝(ぬちどぅたから)のことばが、月ぬ走いや、馬ぬ走いさ!
「勇兵団」生き残りの声をありのままに綴る。仙台に本拠を置く陸軍第二師団「勇兵団」の一兵卒として南洋に送られた著者は、旧ビルマと中国の国境で、雲南遠征軍を相手に苦戦を強いられている龍陵守備隊を救出する任務に就く。しかし圧倒的な物量の差はいかんともしがたく、上官、同僚が次々と亡くなり、負傷していった。-挙国一致だと。糞食らえだ。尽忠報国だと。糞食らえだ。…気力なし、体力なし、プライドなし、自信なし、希望なし。…私は、もう、なにがどうでもいいような気持になっていたのだ。-その絶望的な戦いをともに経験した勇兵団の生き残りを中心に、丹念に取材を続けてまとめられた一冊。相手は饒舌ではない東北人だが、それだけに一層言葉に重みが感じられる。古山高麗雄の戦争三部作のうち、『断作戦』に続く第二作。
芥川賞候補作3篇を含む珠玉の作品集。-あの、二年前の別れたあと、私は毎日、新聞の社会面をみるたびにびくびくした。女の自殺ばかりが目につき、不安は半年以上もつづいた。…彼女の死、それが、それまでは新しく生きることも死ぬこともゆるされない、ひとつの刑の期限のように思えたのだ。-ある女優の自死をきっかけに、冷たく別れたかつての恋人・小田富子のことをあらためて思い起こす“私”。突然、消息不明だった富子から「会いたい」という手紙がきて…。表題作「演技の果て」のほか、米兵に媚びを売る日本人女性に複雑な思いを抱く日本人少年を描いた「その一年」、乳飲み子を船から海に投げ込んだ女の心理を綴る「海の告発」という芥川賞候補作3作品と、「煙突」「猿」「遠い青空」「頭上の海」といういずれ劣らぬ4篇の短篇からなる作品集。
早慶剣道対抗戦と部員たちの戦争物語。大正14年開始の剣道早慶戦は昭和18年で中断。祖国に命を捧げた部員らと、試練を乗り越え学校剣道を復活に導いた有志らの熱き青春群像。
2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位 扁桃体が小さく“感情”がわからないユンジェ。 怪物と呼ばれた少年が愛によって生まれ変わるまでーー。 日韓累計150万部のベストセラー、待望の文庫化! 扁桃体が小さく、怒りや恐怖を感じることができない16歳の高校生、ユンジェ。祖母から「かわいい怪物」と呼ばれた彼は、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、黙ってその光景を見つめているだけだった。事件によって一人ぼっちになった彼の前に現れたのは、もう一人の“怪物”ゴニ。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていくーー。
中学生の本村結芽は、急死した伯母の部屋で、愛読する児童書の原稿を見つけ舞い上がる。『鍵開け師ユメ』シリーズは、孤独な小学校生活を過ごした結芽にとって、唯一の友達であり、心の拠り所だった。伯母は、その作者イズミ・リラだったのだ。最新作を夢中で読むが、しかし遺稿は未完のまま。どうしても続きが読みたい結芽は、自分で物語の続きを書くことを決意する。第一巻からページを繰り、主人公ユメの魔法の呪文を唱えると、物語の中へ飛び込めた結芽。ファンタジーの世界と現実を行き来できるようになり、自らの冒険を書き記していくが、何かが足りない。物語に息吹を吹き込むには、伯母の、イズミ・リラの人生を知らなければー。現実を生きる自分、ユメとしての自分、伯母を探す自分。結芽の本当の冒険が、はじまった!
コミュニティサイトへの投稿で、住民を混乱に陥れた「春の日パパ」とは誰か?警備員になったユジョンの父のその後は?一人デモをするアン・スンボクの動機とは?極狭い考試院に住み、塾でアルバイトをするアヨンの夢とは?不動産バブル、過剰な教育熱、格差に翻弄される住民たちの喜びと悲しみ。資産価値にこだわる者の果てしない欲望と苦悩。持たざる者の苦労と、未来への希望。架空の町のマンションを舞台にした連作小説。
マサチューセッツ州スタークフィールドで冬を過ごすことになった語り手の「私」は、足をひきずった寡黙な男をたびたび見かけていた。聞くに、イーサン・フロムなるこの土地の男で、かつてひどい「激突」を起こして以来、足が不自由になったのだという。思いがけず「私」はフロムに馬橇で駅まで毎日送迎してもらうことになるが、ある晩、ふたりは帰り道に吹雪に巻き込まれ、フロムは途上にある自宅に「私」を招き入れる。そこで「私」が目にしたものとはー。寒村の孤独、親の介護、挫かれた学業、妻の病…厳冬に生を閉ざされた主人公フロムを襲う苦難、そんな日々に射し込んだささやかな幸福、その果ての悲劇を精緻な技巧で描くアメリカ文学の古典。待望の新訳。