2025年2月26日発売
第37回小説すばる新人賞受賞作。 霧の町チェリータウンのモットーは「壊れていないなら直すな」。 酒場を経営する町一番の人気者である父スタンリー、部屋にこもりっきりの兄エディ、そして5年前に家を出て行った母。13歳になるソフィアは町から一度も出たことがなく、独りぼっちでうつむいて生きてきた。 ある日、お向かいに住む無口な老人ミスター・ブラックの家に、風変わりな人物がやってくる。自称「毎週生まれ変わる」ナタリー・クローバーは、夏休みの間だけブラックの元に預けられるという。 町長はナタリーが変なことをしでかさないよう、ソフィアに見張り役を頼む。人の目を気にせず自由気ままに町を歩き回り、自分だけの町の地図を作っていくナタリー。やがてソフィアは、長い間押し殺してきた自分の願いに気づいてーー。 孤独を抱えた二つの心が奏でる〈ひと夏の、永遠の物語〉。まばゆくきらめく、エバーグリーンな青春小説が誕生!
幕末・維新の動乱を描く宮本文学初の大河歴史小説、いよいよ佳境へ! 時代は江戸幕府最末期の安政から元治年間。薬売りとして一本立ちした川上弥一は、京に拠点を移す。寺田屋事件、池田屋事件と血なまぐさい騒動が続く京で、弥一は旧知の薩摩藩士・園田矢之助らと呼応しながら、人の命を救うために戦乱の町を奔走するーー。 <日本各地を回った富山の薬売りの鋭い観察眼と時代認識を通して、黒船来航から王政復古を経て西南戦争にいたる平和と変革の時代を描く雄渾な文学作品> --山内昌之氏(東京大学名誉教授)「週刊文春」2025年2月27日号の書評より <「一身にして二生を経る」ほどの幕末維新の激動を乗り越えた日本人のたたずまいが巨匠の筆で活写されている。この小説は混沌の現代を生きる私たちの心の支えだ。> --磯田道史氏(歴史学者・国際日本文化研究センター教授) 全四巻それぞれに違った著者直筆の「ことば」が入った初回配本限定特典「讀む藥」付。 第二十五章 大獄の始まり 第二十六章 お雪 第二十七章 桜田門外の変 第二十八章 目明しの町 第二十九章 飛脚屋の女房 第三十章 隠密御用 第三十一章 薩摩屋敷 第三十二章 騒乱前夜 第三十三章 せご屋 第三十四章 伏見寺田屋 第三十五章 血気 第三十六章 幕府の綻び 第三十七章 ふたたび京へ 第三十八章 偽者 第三十九章 雪の京 第四十章 刺客 第四十一章 馬関砲撃 第四十二章 薩英戦争 第四十三章 八月十八日の政変 第四十四章 池田屋事件 第四十五章 禁裏への道 第四十六章 大火 第四十七章 禁門の変 主要登場人物表 江戸時代の単位換算表・富山の薬売りの専門用語
惑星アニンの上空百キロに浮かぶ空中庭園では、三十六日に一度魔女たちのお茶会が行われる。好みのお茶と菓子を持ち寄り、純粋に共生とは言い難い、特異な能力による人間への奉仕があってかろうじて平穏が保たれているような日常を忘れる時間だったはずのお茶会に、その日、異分子が紛れ込んでいた。アニンの二つの月に準えた魔女の二つのグループ、人間との共生を望む「リーフス」と人間を淘汰するべきと主張する「ハーバル」が袂を分かったとの報に広がる動揺の裏で、胡蘭麗(フーランレイ)は銀のナイフを、零式燕(ぜろしきのつばめ)の手の甲に突き立てた。それこそがリーフスとハーバル、そして魔女と人間を巻き込む大きな変革のはじまりだった。地上で零式燕の帰りを待つパートナー・遠野華茂(とおのかも)は、まだそれを知らないーー。 小説×音楽×ボードゲームプロジェクトとなる無国籍アクションファンタジー、ここに開幕!!
「おまえは本を書け!」 師の円丈は言った。 著者・三遊亭はらしょうの師匠は新作落語の神様・三遊亭円丈。天才肌の円丈は気分の浮き沈みが激しく、怒ったり笑ったり、そしてすぐに忘れたり。機嫌が悪くて破門になったが、すぐに戻してくれた。そんなシショーが突然「本を書け!」と言った。入門して11年になるがそんなことを言われたのは初めて。落語や演劇の台本はこれまで書いた経験があるが本は別。シショーは続けて言った。「今まで『御乱心』とか、いろんなテーマで本を書いてきた。俺はこれからも書きたいことがある。本は書いたら残る」もし「御乱心」が出版されなかったら落語協会分裂騒動という出来事はとっくに忘れ去られていただろう。「はらしょう、本を書け。お前が死んでも残る」。この1年後シショーは亡くなった。あのときの言葉はシショーの遺言だと思うようになった。残したいことをテーマに本を書きたい。それが何なのかはすぐには見つからない。まずはネットに書いてみよう。2022年よりnote に短いエッセイを書き始めた。そんななか後輩の「元・三遊亭天歌」が自分の師匠をパワハラで訴え、落語界史上、前代未聞の裁判が始まった。師匠による暴言・暴行は酷く、はらしょうはかつて、天歌とは異なる別のシショーから理不尽な目に遭ったことを思い出した。しかしレベルが違う。だが大いにそれに共感したはらしょうは落語家パワハラ問題を note に書いた。それまでどんなエッセイを書いても「いいね」が3ぐらいしかつかなかったが初めて200以上の「いいね」。大いなる反響があった。理不尽が当たり前だと思っていた落語界。時代が変わった。変革期に生きている「今」を書かねばならない。「死んだあとも残したいことがようやくみつかった」。間違いなく本書は新たな時代の「師弟論」となるのだ。
「我は人間にその存在の意義を教えむとす。即ちそは超人なり、人間の黒き雲より来る雷光なり。」フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラ』(生田長江訳/新潮社) 二十年前、「超人」という光を目指し、孤独と虚無に満ちた引きこもり生活の中で、妄想と哲学を武器に闘った。中年を迎えた著者は再びその旅路を歩み始める。老い、貧困、そして現実の荒野を越え、真の「超人」として生きるとは何か? 中年男性よ、君たちはどこへゆく。僕のゆく道は「超人ロード」だ! 「くっ……ダメだ。こんなスペックでは、マッチングアプリではとても戦うことができない!」 人間世界の事情に疎い脳内彼女に、俺は説明してやった。 確かに年収百万超は、俺の感覚ではかなり立派であると感じられる。だがこの人間社会では、年収百万では尊敬されないのだ。 また俺は、自分の身長がちょうどいいサイズ感であると思っている。だが一説によると、この身長の男には人権がないとされていた。 また俺の人生で誇れる数少ないことの中には、高校卒業がある。何年も登校して昼の三時過ぎまで椅子に座るという苦行を、弱冠十八歳の俺は、見事に最後までやり遂げたのだ。だが、誰もそのことを褒めてくれない。 それゆえ俺のスペックをマッチングアプリのプロフィールに書いても、それは負け戦の始まりであり、むしろ俺の存在価値をただめちゃくちゃに毀損されるだけに終わるのだ。 「しかも俺は四十を超えてて頭も禿げてるんだ! このエイジズムとルッキズムに支配された悪の世界では、俺は戦う前から敗者なんだよ!」 「そ、そんな……だとしたら滝本さんはもう一生、恋愛ができないじゃない!」 「ああ、その通りだ! 恋愛なんてもういいんだよ……」 「た、たいへん! 恋愛から撤退した中年男性は、すぐにセルフネグレクトに陥ってしまうらしいわよ!」 「別にいいんだ。レイ、お前がいてくれるから……いつの日か、このアパートの布団の染みになるまで、お前とこうして適当な話をしていられれば、それで俺は幸せなんだ……」 ーー本文より 著者略歴 滝本竜彦(たきもと・たつひこ)1978年北海道出身。『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』で第五回角川学園小説特別賞を受賞。次作の『NHKにようこそ!』はコミック化、アニメ化され世界的なヒット作品となる。その他、代表作に『超人計画』『僕のエア』『ムーの少年』『ライト・ノベル』等がある。
幻想的短編小説の名手シルビナ・オカンポと、名作『モレルの発明』の著者にして夫のアドルフォ・ビオイ・カサーレスが共作した唯一の長編小説。スペイン語圏に推理小説ブームを巻き起こすボルヘス監修の伝説的コレクション〈第七圏〉から刊行された名作の探偵小説が本邦初訳で登場。
現代の鬱蒼とした森の闇に隠れ、彼らの復讐の炎は消えることなく燃えつづけている─ 復讐にまつわる五作品 著者渾身の短編作品集 しとやかな獣 袋小路の男 ピエロの行方 マジックミラー 闇からの報復者