制作・出演 : マーラー
ウィーン・フィル初のマーラーの交響曲全集からの分売。遅めのテンポ設定で、作品の叙情的側面を際立たせた穏やかな「巨人」である。表面上は少しも作為的には感じられないが、じっくり聴き込むと、マゼール流のスコア分析が散見され、ニンマリとさせられる。
マゼールがウィーン国立歌劇場の総監督を務めていた頃にウィーン・フィルと録音を進めたマーラーの交響曲全集からの一曲。絶好調時のマゼールの才気あふれるドラマティックな指揮とウィーン・フィルの味わい深い演奏が堪能できる。
バブル期と同期するように到来したマーラー・ブームの最中に録音された音源である。同じウィーン・フィルでもバーンスタインとは感触がずいぶん違う。テンポのメリハリが物足りないものの、スケールは壮大で音色や表現の随所にマゼールらしいアクの強さがある。
VPOの甘口な響きを可能な限り引き締め、辛口に仕上げた演奏。冷静すぎたり、流れがややぎこちない場面もあるが、第1楽章の厳しい響きや第4楽章アダージェットの分析的な美しさは秀逸。全曲にわたって細かくトラック番号が入れられているのも便利。
意外にすっきりした演奏で、マゼールのエグさがあまり感じられない。この曲は結構厄介で、楽器の使い方や編成、構造など、バランスが取れているようないないような。要するに曲自体がエグいのだ。マゼールは、そうしたエグさ(もしかして長所か?)を昇華させた。
音楽がガラリと相貌を変える、その先触れとして仕掛けられた一瞬の響きの変化をのがさない。細部まで動きを見通した怜悧な音の姿と見せて、その変化に耳が止まった瞬間に音の内側の脈絡の中にズブと引き込まれていく。知情巧みに使嗾するギロリのマゼール流。
マゼールという指揮者の本質的な美点が良く出た録音。練達のオーケストラを率いながら、物理的なバトン・テクニックがここまで有効に音楽を導き出せるということを例証してくれるようだ。数多ある同曲録音中でも、リスニングにはスコア必携の秀演。
ここでのマゼールは、いつものエグい瞬間芸みたいなものをあまり繰り出さず、オケ(特に弦楽器)の美しさを徹底的に堪能させてくれる。とはいえ、スコアのありとあらゆる情報を細大漏らさず掘り起こし、マーラーの凝った仕掛けをあばくことも忘れない。
制作・出演
エディット・マティス / カルロ・マリア・ジュリーニ / クリスタ・ルートヴィヒ / フランシスコ・アライサ / フリードリヒ・リュッケルト / ブリギッテ・ファスベンダー / ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 / マーラー制作・出演
クリスティーヌ・ブリューワー / サイモン・ラトル / ソイレ・イソコスキ / トロント児童合唱団 / バーミンガム市交響合唱団 / バーミンガム市交響楽団 / バーミンガム市交響楽団ユース・コーラス / マーラー / ロンドン交響合唱団大言壮語や誇大妄想の代表みたいな曲だけれど、ラトルの手にかかると様相が一変。もちろんこの編成ならではの迫力にも事欠かぬが、それよりこの曲にこんな繊細で美しい場面があったのかと気付かせることの方が多い。これでラトルのマーラー全集が完結。