1993年11月25日発売
宮沢明子の70年代前半の録音。たしか“実力派”として大いに売り出しをかけていた頃のものだと思う。彼女の演奏は非常に透明度が高く、ここに聴くショパンのノクターンでも決してムードに溺れることがない。今でも十分に通用する内容のアルバムだ。
このアルバムは入間市民会館のホールで録音したということだが、響きがやや少なめで狭いスタジオで録音したような感じだ。演奏はロマンティックな宮沢明子らしく濃やかで女性的。弱音が美しいが全体に線が細くもう一歩深い音色と大きな音楽づくりが欲しい。
しっかりとしたテクニックと構築性に裏打ちされた自信。それが没個性になりがちな表現に面白さを添える。74年10月、東京での録音である。通常よりやや速めのテンポは良い意味での緊張感を醸しだし、特に(2)(3)の小品を個性的に聴かせる。
タイトルが示すとおり、ここではベーゼンドルファー・インペリアルという楽器の魅力が最大限に生かされるプログラミングがなされている。20年も前の録音だけに宮沢の演奏はまだ円熟の域には達していないが、様式を的確に把握する力はすでに相当のものだ。
タイトルどおり『山の男の歌』(もちろん実際には女性にも親しまれる)ばかり計60曲を集めた3枚シリーズの1枚目。俳優の横内正と山の仲間たち(国立音大ワンゲル部)による歌唱は想像のままにさわやかで、どこか懐かしさのようなものが込み上げる。
このアルバムには一緒に歌えるように歌詞カードが付いている。いかにも山の歌という粗野な感じを重んじているのか、シンプルでちょっと古くさい伴奏。時代をしのばせる変拍子の曲も入っていたりして、全体にとても日本的だ。ヨーデルとはイメージ違うよね。
山を守る女神が嫉妬するからとかで女人禁制の山があったりするもんだから、山登りといえばおおかた男のすることであった。山の歌も独自の文化を築いており、湿っぽいけどバカ明るい歌がセレクトされている。歌詞もエコロジー風なのにどこかウェットで。