1997年1月22日発売
曲にこれほど作曲者の人柄があらわれるというのも面白い。青島氏の楽しいキャラクターと「マザーグースの歌」(谷川俊太郎)の意味深な詩が見事に融合する。どこぞで聴いた音楽のフレーズがパロディックに登場したりもするが、旋律はいたって親しみやすい。
作曲者石井氏のライナーの言葉にもあるように“男声合唱のみに内在する特殊な美しさ”を、男声合唱団甍は(1)でよく表している。日本的というか日本語の語感が持つ湿った大地みたいなものを感じさせる曲、それをていねいに歌う。(3)も面白い。詩が特に。
合唱ファンの間ではスタンダードとなっている懐かしい曲が入ったこのアルバム。昔の録音をそのままCD化しているが、模範演奏としてはよいものの、鑑賞用にはそろそろ演奏、録音共に一工夫する時期なのではないだろうか。これもかつての名演ではあるが。
女声や児童合唱という素材感も手伝って、清楚なロマンチシズムに溢れた作品集。毒気のまったくない健全な歌だが時々ニヤリとさせるウィットも。一方で(3)に見られる軽い“笑い”もスパイスとなって聴き手をあたたかな気分にさせてくれる。
いずれも合唱関係者には広く知られた名作。関屋晋と松原混声合唱団が独善的にならずに、それぞれの響き、メッセージを素直に、かつ安定感をもって歌い上げている。「川とわ」もさることながら、自然に限りない想いを寄せた佐藤の抒情的小品集が胸をうつ。
高田三郎の代表的な合唱組曲である「水のいのち」と「心の四季」が収められている。日本語の響きが大切にされた、抒情的で美しい音楽が心にしみる。作曲者自身の指揮による、日本のトップ・クラスの合唱団の真摯な歌声もなかなか感動的である。
日本の作曲界の重鎮、高田三郎の混声合唱曲3曲を収録した1枚。高田自身の指揮によるものなので、作品の意図がきちんと反映された演奏と考えていいだろう。作品を密度高く歌い上げて、作曲家独自のシリアスな響きを鮮やかに浮かび上がらせている。
日本の音楽環境で合唱の占める位置は大切だ。とくに大学を中心に普及する男声合唱。彼らの真摯な表現は独自の世界を築いている。多田武彦の、簡潔な語法で深く自己を見つめる音楽も、そうしたアプローチをリードするもの。まさに日本合唱音楽の典型だ。
日本の合唱曲というのは不思議だ。さかんに歌われ続け、歌う人々には愛され続けているのに、純粋に鑑賞されることは少ない。せっかくの名曲なのだから、模範演奏として聴かれるだけでなく、鑑賞に耐えうるような新録音をしてほしいと思うのは私だけ?
野田暉行(40年生まれ)が78,81年に編んだ2曲。蓬莱泰三の内実性あふれる詩に作曲された「青春」、有明の海の神秘を情感豊かに歌い上げた川崎洋作詞の「有明の海」も、田中信昭と東京混声合唱団の純度の高い響きを得て、おそらく最良の姿を現している。
当盤は少しマニアックな曲。しかしすでに“古典”といってよいほどのスタンダード曲ではある。秋山和慶、ピュイグ=ロジェらの強力な支えによって、この作品の深さに迫る。技術的レヴェルは高いが、演奏そのものには、もう少し練り込みがほしかった。
広瀬量平の2つの代表的な合唱曲を収録。77年に作曲された「海鳥の詩」は北の鳥を通して厳しい自然を歌いあげたもの。74年に書かれた「海の詩」では、現代人のおかれた状況に鋭い眼差しを向ける。これらの作品を演奏する人たちの指針となる演奏だ。
湯山昭による女声合唱作品集。いかにも瑞々しい叙情性に、人や自然へのこのうえなく優しい想いやり……これこそ日本人が女声合唱に求めたものかもしれない。湯山もその代表的な作曲家。(3)に込められた青春の燃えるような1ページ。感動的でさえある。
合唱のための新しい作品をこのような形で選集とする仕事は貴重である。すぐれた4人の作曲家の作品が並ぶが、抽象的な器楽作品と違って、言葉の問題、歌うという事とその伝統、声の持つ肉体的リアリティーなどとそれぞれに格闘、苦闘していて興味深い。