著者 : ミラン・クンデラ
絵葉書に冗談で書いた文章が、前途有望な青年の人生を狂わせる。十数年後、男は復讐をもくろむが…。愛の悲喜劇を軸にして四人の男女の独白が重層的に綾をなす、クンデラ文学の頂点。作家自らが全面的に手直ししたフランス語決定版からの新訳。一九六七年刊。
党の粛清により、隣の男に貸した帽子を除いて、すべての写真から消滅した男。一枚の写真も持たずに亡命したため、薄れゆく記憶とともに、自分の過去が消えてしまうのではないかと脅える女…。“笑い”と“忘却”というモチーフが、さまざまなエピソードを通して繰り返しバリエーションを奏でながら展開され、共鳴し合いながら、精緻なモザイクのように編み上げられる物語。
知らなかった。祖国を永久に喪失しようとは…「わたしたち、プラハで知り合いになったのでしたね?まだ、わたしのことを憶えていらっしゃる?-もちろん」亡命していた男と女はパリの空港で再会した。まだ若く魅力的な女イレナはパリから、かつてのプレイボーイでもはや初老の獣医ヨゼフはデンマークから、20年ぶりの故郷へ「帰還」する旅だった。そしてそれぞれの故郷に帰っていくふたりを待ち受けていた残酷で哀切極まりない運命とは…。
ほんの冗談のつもりで始めたことによって、回り中の人間から批判される皮肉屋「誰も笑いはしない」中年男の二人組の女漁りの意外な顛末「永遠の憧れの黄金のリンゴ」年上の女との一度だけの逢瀬と十五年後の巡り合い「年老いた死者は若い死者に場所を譲ること」人生の機微、いたずらな運命、愛の皮肉…。小説のマジシャン、クンデラが、巧妙にそしてエロチックに描き出す、ちょっとユーモラスでちょっと苦い7つの愛の物語。クンデラ文学の精華を集大成した、唯一の短編集。
党の修正により、となりの男に貸した帽子を除いて、すべての写真から消滅した男。一枚の写真も持たずに亡命したため、薄れ行く記憶とともに、自分の過去が消えてしまうのではないかと脅える女…。〈笑い〉と〈忘却〉というモチーフが、さまざまなエピソードを通して繰り返しヴァリエーションを奏でながら展開され、共鳴し合いながら、精緻なモザイクのように構成される物語。
パリのプールサイド。見知らぬ女性、たわむれの手の仕草、多彩な色どりの風船を恋人めがけて投げたかのような。それを目にした「私」の心に、「アニェス」という名前が浮かんだ…。詩、小説論、文明批判、哲学的省察、伝記的記述、異質のテクストが混交する中を、軽やかに駆け抜けていくポリフォニックな物語。存在の不滅、魂の永遠性を巡る、愛の変奏曲。