著者 : 西永良成
コゼットを思いながら、政府軍との死闘に身を投じるマリユス。バリケードには幼きガヴローシュの姿もあった。そこに吸い寄せられるように現れ再び相まみえることとなったジャン・ヴァルジャンとジャヴェールー。生けるもののごとき巨大なバリケードと下水道の果てにすべての惨めな者たち(ミゼラブル)の運命が交錯し、壮大な物語は完結する。
七月革命後の混迷をきわめるパリ。ジャン・ヴァルジャン父娘の住むプリュメ通りの家での逢瀬を重ね、マリユスはコゼットとの愛を着実に育んでいく一方で、“ABCの友の会”の反政府活動に加わり、仲間とサン・ドニ界隈へ出入りするようになる。恋人たちの運命にテナルディエ夫婦のこどもたち、エポニーヌとガヴローシュが交錯する。バリケードのなか、壮絶な市街戦の結末は…。
王党派の祖父に育てられた青年マリユスだが、皇帝から男爵位を受けた父の真実を知り、深く煩悶したすえに、決然と家を出てしまう。孤高の清貧生活を送っていたある日、ついに運命の人コゼットを見初めることに。いっぽう、皮肉な巡り合せによってジャン・ヴァルジャン父娘の正体を見破ったテナルディエがまたもやふたりを陥れる。一触即発の危機を見守るマリユスだが…。
のちの重要な伏線となるワーテルローの戦い、その重厚な歴史語りをはさみ物語はつづく。ファンチーヌとの約束を果たすべくジャン・ヴァルジャンは脱獄、守銭奴テナルディエ夫婦の狡知からついにコゼットを救いだす。パリへの逃避行とジャヴェールの追跡、ふたりに刻々と迫る警察の完全包囲網、絶体絶命の苦境からの奇跡の脱出劇。
極貧のさなか、たった一片のパンを盗んだがため十九年ものあいだ獄に繋がれねばならなかった主人公ジャン・ヴァルジャン。出獄後の世の厳しさのなか、唯一彼に深い慈悲をほどこす「正しい人」ミリエル司教。改心しマドレーヌ市長に変貌した主人公を執拗に怪しみ追いつづけるジャヴェール警部。ただ一度の「純愛」から悲惨な短い生を終える哀れなファンチーヌ。そして、残された娘コゼット。
翻訳者がみた作家・作品を介した対話。「近代のイメージとモデル」であった小説に賭け、「実存の未知な部分」を探ろうと果敢な挑戦をつづける「反現代的なモダニスト」の半世紀の軌跡。ほとんどの作品を訳したからこそ書きえた「個人的」クンデラ論。
パリの社交界で、金持ちの貴族を相手に奔放な生活を送っていた美貌の高級娼婦マルグリット。純粋でひたむきな青年アルマンに出逢い、その深い愛情に心うたれた彼女は、都会での享楽的な生活を棄て郊外へと向かった。だが、セーヌ左岸の村ブージヴァルの別荘で、二人だけの生活が始まった矢先、アルマンの父親が二人の仲を引き裂くためやってきた。アルマンを心より愛するマルグリットは、苦渋の選択を迫られることになるー。
絵葉書に冗談で書いた文章が、前途有望な青年の人生を狂わせる。十数年後、男は復讐をもくろむが…。愛の悲喜劇を軸にして四人の男女の独白が重層的に綾をなす、クンデラ文学の頂点。作家自らが全面的に手直ししたフランス語決定版からの新訳。一九六七年刊。
ニューヨークに生まれ育ったデイヴィッドの本当の父親はフランス人。だが、母がゆきずりで関係した父についてはほとんどなにも知らない。成長するにつれ、アメリカの俗悪さに心底うんざりしたこの青年は、ヨーロッパ、特にフランス文化への憧れを募らせ、フランスへと旅立つことを決意するのだった。父の、そして敬愛するクロード・モネと印象主義を生み出した国へと。パリに着いたデイヴィッドの旅路はやがて、月刊誌の副編集長を務める冴えない中年男の人生と運命的に交差するーフランスの五大文学賞のひとつ、メディシス賞に輝いた著者の代表作。
党の粛清により、隣の男に貸した帽子を除いて、すべての写真から消滅した男。一枚の写真も持たずに亡命したため、薄れゆく記憶とともに、自分の過去が消えてしまうのではないかと脅える女…。“笑い”と“忘却”というモチーフが、さまざまなエピソードを通して繰り返しバリエーションを奏でながら展開され、共鳴し合いながら、精緻なモザイクのように編み上げられる物語。
知らなかった。祖国を永久に喪失しようとは…「わたしたち、プラハで知り合いになったのでしたね?まだ、わたしのことを憶えていらっしゃる?-もちろん」亡命していた男と女はパリの空港で再会した。まだ若く魅力的な女イレナはパリから、かつてのプレイボーイでもはや初老の獣医ヨゼフはデンマークから、20年ぶりの故郷へ「帰還」する旅だった。そしてそれぞれの故郷に帰っていくふたりを待ち受けていた残酷で哀切極まりない運命とは…。
党の修正により、となりの男に貸した帽子を除いて、すべての写真から消滅した男。一枚の写真も持たずに亡命したため、薄れ行く記憶とともに、自分の過去が消えてしまうのではないかと脅える女…。〈笑い〉と〈忘却〉というモチーフが、さまざまなエピソードを通して繰り返しヴァリエーションを奏でながら展開され、共鳴し合いながら、精緻なモザイクのように構成される物語。