著者 : 三島由紀夫
敗戦直後の一九四六年に創刊された文芸誌『群像』。七十年余の歩みは、そのまま「戦後文学」の軌跡であり、日本文学の歴史をたどる貴重な記録とも言える。三島由紀夫から川上弘美まで、数多の作品から精選した、けっして古びることのない、五十四の名作短篇を、たっぷりと、じっくりと、お楽しみいただきたい。第一弾は復興から高度成長に至る時期の十八篇を収録。
優雅の化身とあがめられる美貌の御息所と高徳の老僧の恋の物語「志賀寺上人の恋」。死後の霊とのかかわりを描く「死者の書」。妖しいラヴレターが次々と波瀾を巻き起す恐怖小説「人生恐怖図」。金魚と老作家の会話でできた超現実的な小説「蜜のあはれ」。他全31編。
諏訪湖で漁業を営む純朴な青年・田所修一は、下諏訪にできた近代的なカメラ工場と、そこで働く娘たちに憧れを抱いている。素人作家の大島十之助は、小説「愛の疾走」を執筆するために、そんな田所と工場で働く正木美代に恋愛させようと企むが、夫の小説道楽に反対している大島の妻が、策略を田所に打ち明けてしまう。仕掛けられた恋愛の行方は…。劇中劇の巧みさが光る、三島渾身のエンターテインメント小説。1963年初刊作品。
などて天皇は人となりたまいしー天皇に殉じた青年の魂の復権をめざし、天皇制批判の問題作として“イデオロギー小説か、芸術小説か”と騒然たる物議をまきおこした表題作と、「十日の菊」「憂国」を合わせた二・二六事件三部作。エッセイ「二・二六事件と私」を完全復活させた待望久しいオリジナル版文庫。
社長令嬢・絢子の新婚生活は、何不自由のないものに思われた。夫の俊男は知的でスポーツマン、誰もがうらやむ好青年だった。しかし、ふと覗かせる夫の素顔は絢子を不安にさせ、俊男との見合いを勧めたはずの姑・滝川夫人も、何気ない言動で絢子を悩ませ始める。そして、妻には理解しづらい夫と姑の微妙な関係…。親子、嫁姑、夫婦、それぞれの心理から、結婚生活がもたらす確執を描く、三島由紀夫の傑作エンターテインメント。
芸術家志望の若者も、大学の助手も、社長の御曹司も、誰一人夏子を満足させるだけの情熱を持っていなかった。若者たちの退屈さに愛想をつかし、函館の修道院に入ると言い出した夏子。嘆き悲しむ家族を尻目に涼しい顔だったが、函館に向かう列車の中で見知らぬ青年・毅の目に情熱的な輝きを見つけ、一転、彼について行こうと決める。魅力的なわがまま娘が北海道に展開する、奇想天外な冒険物語!文字の読みやすい新装版で登場。
昭和23年。村松恒彦は、勤務先の岸田銀行の創立者の娘である13歳年下の妻・郁子と不自由なく暮らしている。最近、恒彦は学習院時代の同級生、楠と取引が生じ、郁子もまじえての付き合いが始まった。楠は一目見たときから、郁子の美しさに心を奪われる。郁子もまた、楠に惹かれていき、接吻を許す。が、エゴチスト同士の恋は、思いも寄らぬ結末を迎えることに…。著者はじめての長期連載小説。
目覚めたのは病院だった、まだ生きていた。必要とも思えない命、これを売ろうと新聞広告に出したところ…。危険な目にあううちに、ふいに恐怖の念におそわれた。死にたくないー。三島の考える命とは。
職業も年齢も異なる5人の登場人物が繰りひろげるさまざまな出来事をすべて手紙形式で表現した異色小説。恋したりフラレたり、金を借りたり断わられたり、あざけり合ったり、憎み合ったりと、もつれた糸がこんがらかって…。山本容子のオシヤレな挿画を添えて、手紙を書くのが苦手なあなたに贈る枠な文例集。
死の直前に編まれた著者自選の第三短編集。三島文学の中心的なテーマをなしたロマネスクな世界への憧憬と日常世界との関係を、反時代的な主人公によって象徴的に描き、現代における貴種流離や異類の孤立の意味を追求した作品を集める。子供から大人へと成長していく精神の軌跡と、倒錯した性にからむ肉体的嗜虐の世界を描く表題作や『獅子』『三熊野詣』など9編を収める。
世界の崩壊を信じる貿易会社のエリート社員杉本清一郎、私立大学の拳闘の選手深井峻吉、天分ゆたかな童貞の日本画家山形夏雄、美貌の無名俳優舟木収。彼らは美の追究者なるが故にそれぞれにストイシズムを自らに課し、他人の干渉を許さない。-名門の資産家の令嬢である鏡子の家に集まって来る四人の青年たちが描く生の軌跡を、朝鮮戦争後の頽廃した時代相の中に浮き彫りにする。
T大法学部の学生宝部郁雄と、大学前の古本屋の娘木田百子は、家柄の違いを乗り越えてようやく婚約した。一年三カ月後の郁雄の卒業まで結婚を待つというのが、たったひとつの条件だった。二人は晴れて公認の仲になったが、以前の秘かな恋愛の幸福感に比べると、何かしらもの足りなく思われ始めた…。永すぎた婚約期間中の二人の危機を、独特の巧みな逆説とウィットで洒脱に描く。