著者 : 三木たか子
ドクター・グレンフェルの下で働く看護師のユージニア。外科医長の彼とはもう3年も一緒だというのに、いまだにお互い他人行儀でよそよそしい態度のままだ。長身で悠然としていて、誰からも尊敬されるドクターが相手では、ユージニアが緊張してしまうのは無理もなかった。それでもふとした拍子に、こちらを見ている彼と目が合うと、なぜかユージニアの頬はぽっと赤く染まるのだった。そんなある日、彼女はグレンフェルから突然、驚きの指名を受ける。「海外に出張する予定が入ったので、君を連れていくことにした」なぜ私を?思わず湧いた恋の期待をかき消すユージニアだったが…。
二十歳のマリークレールは、傷心旅行でスイスまでやってきた。ホテルに着いたとき、ちょうど出てきた男性とぶつかってしまう。精悍な顔だち、冷たさすら感じるようなグレーの瞳をした彼は、このホテルのオーナー、リー・ハーパーだった。男性とはもう関わらないと心に決めていたのに、苦しいほど胸が高鳴る。それもそのはず、マリークレールがまだ学生だった5年前、リーに車で轢かれかけたときに優しくされ、密かに恋をしたのだった。まさかこんなところで…もう二度と会うこともないと思っていたのに。ところが、リーは彼女を覚えていただけでなく、熱い誘惑を仕掛けてきた。「マリークレール、きみは逆らえはしないんだ。逆らわせはしない」
アンナは少女時代に親を亡くし、ロンドンには身内も親しい友人もいない。22歳になった今、狭いひと間の孤独なフラットに住み、指を噛んでひもじさをごまかす日々に耐えているのは、夢を叶えるため。最近、念願の仕事に就ける大きなチャンスが訪れ、希望に顔を輝かせるアンナだったが、さっそく窮地に陥る。出がけに家主に家賃の催促をされ、仕事の約束時間に遅れそうなのだ。降りたバス停から踵のすり減った靴でなんとか走り続けたが、出会い頭に長身の男性とぶつかり、はじき飛ばされてしまった!アンナの転げたぼろ靴をまじまじと見つめるその実業家レアードこそ、彼女にガラスの靴を履かせてくれる白馬の王子だとは知る由もなく…。
亡くなったばかりの母の形見のアンティークの指輪。その大事な指輪を、ルーシーの兄が何週か前になくしてしまった。華やかなパーティの最中にも、思い出すだけで胸に痛みが走る。いま、そんな彼女に熱い視線を這わせる大富豪ジャドがいた。男の見つめ方はどこかほかの人とは違っている。何かが…。席を立とうとした彼女は、ある女性を見て息をのんだ。その指に鈍く光るのは母の指輪。女性はジャドの連れだった。いてもたってもいられず、指輪を返してほしいと訴えると、ジャドは、この指輪をはめて婚約してくれるなら、と甘く囁いた。
富豪の老人に嫁いだ友人から、エミリーは奇妙な依頼を受けた。老人の後継者に指名されている男性が形だけの妻を探しており、エミリーに、その役目を引き受けてほしいというのだ。結婚は2年間という期限つき、対価は莫大な報酬ーお人よしだが、澄んだ目と心を持つエミリーは見抜いていた。友人はその後継者の若い男性に心を奪われているのだろう。地味な私を彼にあてがっておけば、他に取られることもない、と。借金をしている恩人を救う手立てとしてエミリーは引き受けた。美貌のルークを愛してしまうことになるとは、予想だにせず。
病で倒れた父の負債を肩代わりしてもらうため、18歳のリサは、年上の大富豪ジャレットとの結婚を受け入れた。5年間、彼の幼い娘の面倒をみるという条件付きで。肉体関係は要求しない約束だったのに、当然だろうとばかりにジャレットは、まだ何も知らないリサの体を求めてくる。強引で執拗な愛の行為に夜な夜な翻弄されながらも、その甘さに目覚め、リサはどうしようもなく夫に惹かれていく。それなのに、「愛情は二の次だ。これは欲望の処理にすぎない」平然とそう言い放つ夫に、無垢な心は砕け散って…。
ある日、リサのもとに、義妹から一通の手紙が届く。来月には結婚するので、実家に帰ってきてほしいという。捨てたはずの過去とわだかまりが残る、あの豪奢な屋敷に?18歳の夜ー脳裏を2年前の、冷たい義兄デーンの顔がよぎる。不品行な義妹をかばったせいで、リサはふしだらな娘と蔑まれ、デーンに力ずくで組み伏せられたのだ…心から慕っていたのに。耐えきれないリサは家を出た。二度と帰らないつもりで。義妹の頼みを断る理由を考えていたとき、ふいにドアベルが鳴る。扉を開けると、そこには鋭い嘲笑を浮かべたデーンがいた。
あの事故から、9年ーゲイルに残されたのは痛みだけだった。髪の生え際と両腿、右肩から背中にかけての傷跡。こんな体では誰とも結婚できないと諦めかけていたところに、女嫌いで有名な、名門の大地主アンドルーに求婚される。子供の面倒を見るための肉体関係のない結婚でいいと言われ、鵜呑みにしたゲイルは周囲の反対を押し切って、子供が産めない体だという事実を言えないまま承諾してしまう。そのせいで、どれほど彼を愛したくても愛せない、新たな痛みを生み出すことになろうとも知らずに。
スイスの寄宿学校を卒業したレクサは、2年ぶりに家族が待つロンドン郊外の屋敷に戻ってきた。母を亡くした今となっては、誰とも血のつながりはないが、それでもレクサは心待ちにしていたー義父や義兄たち、何よりひそかに慕っている長兄ジェースとの再会を。実業家として成功したジェースはさらに大人の魅力を増して、彼を前にするとレクサの胸は高鳴り、頬はおのずと赤らんだ。もちろんそのときは知る由もなかった。淡いこの恋が、家族を壊してしまうほど辛い愛の始まりだとは。
大学を休学中のアンジーは独り立ちの必要性に迫られていた。そんな折、あるお屋敷でメイドを探していると聞き、なんとか面接してもらえないかと知人を通じて頼みこんだ。噂では、屋敷の主マーク・アレンはとても気難しい人物らしい。若い女学生ではとても信用を得られないだろうと考え、アンジーは一計を案じた。地味な服に身を包み、髪を引っ詰め、眼鏡をかけて、貫禄ある年配女性に変装したのだ。自信満々で乗りこんだアンジーだったが、結果は予想外だった。知的で気品漂うアレン様に、ひと目で恋してしまったのだ!
トレシーは金持ちの伯父一家と、南フランスへやってきた。わがままな従姉の、休暇中の世話係として雇われたのだ。実は伯父たちにはバカンス以上の大事な目的があり、従姉が未来の花婿として狙いを定め熱を上げている大富豪、クリスピン・フォクスの豪華クルーザーの後を追ってきたのだった。生粋の上流階級の男性クリスピンを目の当たりにしたトレシーは、そのゴージャスなオーラに圧倒され、つい従姉に同情した。あのような男性には、とても相手にされないのでは…。予想に反して、クリスピンは度々訪ねてくるようになる。だが彼の目的は着飾った従姉ではなく、世話係のトレシーだった。
両親亡き後、伯母夫婦の豪邸で無給の小間使いのように働き、美しい従姉デラの影のように生きるアビー。そんな彼女の胸に、ただひとつ灯る火があった。それはデラの婚約者バスコ・ダ・カルバリュの存在だ。ある日アビーはデラに頼まれ、バスコに手紙を渡しにいく。都会で贅沢をしたいデラの、農園経営の夢には付き合えないという、バスコへの婚約破棄の最後通告だった。その夜、酔いつぶれたバスコを家に連れて帰ると、淋しさからか、彼はそっとアビーに触れてきて、ふたりは結ばれた。だがそれは、アビーにとって悲しくも辛い恋の始まりだった。
生まれてまもない赤ちゃんを置いて、姉が家を出ていった。両親もすでに亡く、キャロラインは途方に暮れながらも、ただひたすらその子に愛情をそそぎ、育てていた。6カ月後、子どもの父親の従兄弟だという、イタリア人大富豪ドメニコ・ヴィカーリが現れる。子どもの父親は亡くなったとドメニコは言い、キャロラインを母親と勘違いして、その子を引き取るから結婚しよう、と申し出た。真実を言えば、きっとこの子から引き離されるー悩んだ末、キャロラインは姉になりすまし、プロポーズを受け入れた。
恋人に裏切られたロミリーはロンドンを離れ、兄を頼ってスコットランド高地へやってきた。湖畔に立つ兄夫婦の屋敷が、きょうから私の家…。森や湖の美しい眺めが、傷ついた心を慰めてくれた。そんなある日、ロミリーは山頂にそびえる古城の持ち主で、魅力的な年上男性ジェームズ・ゴードンと出会う。兄はジェームズの話を聞くだけで顔をこわばらせたが、その理由はロミリーには見当もつかなかった。だがやがて恐ろしい事実が明らかになる。なんと兄の妻が、かつてジェームズと不倫関係にあったというのだ。既にジェームズを愛していたロミリーは、絶望するが…。
リサは18歳。病気で倒れた父の負債を肩代わりしてもらうため、愛してもいない富豪ジャレットとの結婚を受け入れた。5年間、彼の幼い娘の面倒をみるという条件付きで。本当の意味で妻になることは要求しない、と言いながら、男と女が一緒に暮らすのだから当然だろうとばかりに、ジャレットは若いリサの身体を要求した。強引で執拗な愛の行為に翻弄されながらも、リサはその甘さにめざめ、どうしようもなく夫に惹かれていく。「愛情は二の次だ。これは欲望の処理にすぎない」平然と言い放つ夫の心に、愛などないと知りながら…。
婚約者に裏切られた心の傷を癒すため、マリークレールはスイスに来ていた。ホテルに着いたとき、ちょうど出てきた男性とぶつかってしまう。ホテルのオーナー、リー・ハーパーだ。男性とはもう深くかかわるまいと心に決めていたのに、彼の精悍な顔立ち、グレーの目で見つめられると、息苦しくなるほど胸が高鳴った。白銀の山々に抱かれた美しい町で二人は惹かれあい、結ばれる。「結婚しよう」リーの言葉に、マリークレールは素直に頷いた。嫉妬と誤解に苛まれる結婚生活が待っているとは、露ほども思わず。