著者 : 中上健次
人気絶頂で引退宣言の背景に中上健次が迫る 「春美は普通の子と違います」 浪曲が好きだった北村春美の母は、春美の才能を信じて“うなり”を教え込み、それによくこたえた春美は全国規模のコンクールで優勝。翌年、都はるみとしてデビューすると、「アンコ椿は恋の花」「涙の連絡船」「好きになった人」と毎年のようにヒットを飛ばし、当代随一の歌手に上り詰めた。 ところが、それから20年後、都はるみは「普通のおばさんになりたい」と突然、芸能界からの引退を宣言。その背景には何があったのかーー。 都はるみ本人はもちろん、市川昭介ら関係者への丹念な取材をもとに中上健次が綴った、渾身のノンフィクション小説。
世間を震撼させた猟奇事件に中上健次が迫る 海と山に囲まれた熊野の寒村。そこでひときわ広い土地を所有する池田家の長男・達男は、小さいころから悪行が絶えず、猿の肉を食べたり、神事に使う魚を獲るなどやりたい放題。それでも面と向かって文句を言う者は誰もいなかった。 そんななか、何者かがハマチの養殖場に重油を流して地元に大損害を与える事件が発生。次いでぼや騒ぎまで起きた。だれもが達男の仕業だと考えたがーー。 実際に起きた「熊野一族7人殺害事件」をもとに、中上健次が映画シナリオを書き下ろした話題作と、のちに雑誌連載されたノベライズ版を収録。
敗戦後の昭和20年代、そして高度経済成長と新左翼運動の昭和40年代。世を根底から疑い、これに背を向け、あるいは反逆しようとする「デカダン文学」なるものが、とりわけこの二つの時代を中心に現れ出た。頽廃、厭世、反倫理、アナーキー、およびそこからの反転。昭和期のラディカルな文学的実践十三編を照射し、その背後に秘められた思想的格闘を巨視的に読みなおす 敗戦後の昭和20年代、そして高度経済成長と新左翼運動の昭和40年代。 世を根底から疑い、これに背を向け、あるいは反逆しようとする「デカダン文学」なるものが、とりわけこの二つの時代を中心に現れ出た。 頽廃、厭世、反倫理、アナーキー、およびそこからの反転。 昭和期のラディカルな文学的実践十三編を照射し、その背後に秘められた思想的格闘を巨視的に読みなおす。 〈収録作品〉 葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」 宮嶋資夫「安全弁」 坂口安吾「勉強記」「禅僧」 太宰治「花火」「父」 田中英光「離魂」 織田作之助「影絵」「郷愁」 島尾敏雄「家の中」 三島由紀夫「憂国」 野坂昭如「骨餓身峠死人葛」 中上健次「十九歳の地図」 (計13篇) セメント樽の中の手紙 安全弁 勉強記 禅僧 花火 父 離魂 影絵 郷愁 家の中 憂国 骨餓身峠死人葛 十九歳の地図
中上健次、もう一つの遺作も初単行本化! 「路地」の解体時期に父親(浜村瀧造の朋輩・ヨシ兄)殺しに手を染め、「路地」から逃れた鉄男は、やはり夫・セキグチジュンを殺した女・セキグチマリと出会う。女は鉄男にそれまでと異なった衣装を着せ、ジュンと名付け、ジュンという<物語>を背負わせる。 マリが精神病院の患者同士として知り合った友人で、富豪の”太った女”水島エリは、鉄男を教祖とあがめる新興宗教に加わろうとし、道すがら出会った暴走族の首領の若者も、これまた鉄男の教祖としての雰囲気に惹かれていく。 そして、鉄男、マリ、エリ、暴走族の若者とその妹は、南の地・シンガポールへと向かうのだった……。 中上作品の中でも最もエンターテイメント色の濃い作品で、雑誌「SPA!」に連載中に未完のまま絶筆した。
シンガポールへ飛んだ鉄男の暗躍が始まる! 「路地」の解体時期に父親(浜村瀧造の朋輩・ヨシ兄)殺しに手を染め、「路地」から逃れた鉄男は、水島ジュンを名乗り、シンガポールではリー・ジー・ウォンの偽名で、青年政治家ミスター・ヤンに出会う。 やがて、ミスター・ヤンの母親であるミセス・ヤンの手引きで香港社会を操る黒幕・ミスターパオにも出会うが、彼は英語を流暢に使いこなすプレーボーイで、シンガポール、香港と渡り歩き、中上作品にこれまでなかった新しいキャラクターとして描かれる。 下巻では、鉄男のプレーボーイぶりが物語の読みどころとなっており、シンガポール(第二部 緑の館)、香港(第三部 翡翠の兵隊)とテンポ良く、スリリングかつエロティックな鉄男の暗躍が、読む者を魅了する。 中上作品の中でも最もエンターテイメント色の濃い作品で、雑誌「SPA!」に連載中、第三部の途中で未完のまま絶筆した。
中上健次、未完の遺作が初単行本化! 1個3億円のエメラルド3個を携え、ブラジルから来日したオリエントの康の遺児タケオは、新宿で「中本」の一統である“毒味男”や、オリュウノオバの甥っ子である”九階の怪人”と出会う。 “毒味男”の一味は、最初に地上げ屋の斎藤順一郎を焼き殺したが、彼らの周囲をGメンが嗅ぎ回り始めので、一味はと共に紀州・新宮へ舞い戻る。そして、次の標的に土地の実力者・佐倉(この時、130歳近い年齢だが)を選ぶのだが……。 新たな抗争の予感を湛える長編。「千年の愉楽」の続編ともいえる未完作。「週刊ポスト」にて連載中に絶筆した。
中上健次が故郷・紀州に描く“母の物語” 「秋幸もの三部作」よりも以前の時代を描く、秋幸の母・フサの波乱の半生を描いた物語。 海光る3月。私生児としての生い立ちに昏い痛みを覚えながらも、美しく利発な娘に成長したフサは、十五になった春、生まれ育った南紀の町をあとにした。 若々しい肉体の目覚めとともに恋を知り、子を孕み、母となって宿命の地に根をおろすフサ。しかし、貧しくも幸福な日々は、夫・勝一郎の死によって突然に断ち切られた。 子供を抱え、戦時下を生き延びる過酷な暮らしの中で、後に賭博師の龍造と子を為し、秋幸と名付ける。しかし龍造が賭博で刑務所に入っている間、他の二人の女を孕ませていたことを知り、フサは秋幸には龍造を父と呼ばせぬと宣言する……。 中上健次が実母をモデルに、その波瀾の半生を雄大な物語へと昇華させた傑作長編。
紀州・熊野の貧しい路地に、兄や姉とは父が異なる私生児として生まれた土方の秋幸。悪行の噂絶えぬ父・龍造への憎悪とも憧憬ともつかぬ激情が、閉ざされた土地の血の呪縛の中で煮えたぎる。愛と痛みが暴力的に交錯し、圧倒的感動をもたらす戦慄のサーガ。戦後文学史における最重要長編「枯木灘」に、番外編「覇王の七日」を併録。
金色の小鳥が舞い、夏芙蓉の花が咲き乱れる紀州・新宮の路地。歌舞音曲に現を抜かし若死にするという七代にわたり仏の因果を背負った、淫蕩の血に澱む一統・中本。「闘いの性」に生まれついた極道タイチの短く苛烈な生涯が、老産婆オリュウノオバ、アル中のトモノオジにより幻惑的に語られる。人間の生と死、その罪と罰を問うた崇高な世界文学。
濃密な血の呪縛、中上文学の出発点「岬」(芥川賞) 男と女と日常の不穏な揺らめき「髪の環」 不幸の犠牲で成り立つもの「幸福」 流される僕の挫折と成長「僕って何」(芥川賞) 言葉以前の祈りの異音「ポロポロ」 垢の玉と生死の難問「玉、砕ける」 少年を襲う怪異の空間「遠い座敷」 1975〜2014年の名作を5年単位で選りすぐり、 現代小説40年の軌跡を辿る全8巻。 文学は何を書き試み、如何に表現を切り拓いてきたのか。 シリーズ第1巻。
熊野の山々の迫る紀州南端の地を舞台に、高貴で不吉な血の宿命を分つ若者たちー色事師、荒くれ、夜盗、ヤクザらーの生と死を、神話的世界を通して過去・現在・未来に自在にうつし出し、新しい物語文学の誕生と謳われる名作。
「この世界が腹立たしくってしょうがない。人生の真実なんて、たかが知れている。」ジェイコブ、十九歳。肌にひりつくセックスへの衝動。クスリで濁った頭。身体に染みついたジャズのリズム。この感覚だけが、ジェイコブの真実だ。路上にさまよい暮らすうちに膨れあがった愛と憎しみは、次第に殺意へと転化してゆくー。抑圧に咆哮する魂の遍歴、読む者を焼き尽くす鮮烈な青春文学。
重い血の記憶がよどむ南紀の風土のなかで原始的な本性に衝き動かされるままに荒々しい生をいとなむ男の姿を、緊迫感溢れる文体で描く短篇集。若い女との気ままで怠惰な生活をなじられ、衝動的に両親を殺すに至る表題作の他、「荒くれ」「水の家」「路地」「雲山」「荒神」の6篇を収録。
若き中上健次が、根の国・熊野の、闇と光、夢と現、死と生、聖と賎のはざまで漂泊する、若き囚われの魂の行脚を、多層の鮮烈なイメージに捉えようとして懸命に疾走する。“物語”回復という大きなテーマに敢えて挑戦する力業。短篇連作『熊野集』、秀作『枯木灘』に繋ぐ、清新な十五の力篇。
腹違いの弟を殺害した罪により、大阪で服役していた竹原秋幸が、三年ぶりに故郷に帰ってきた。しかし、その紀州・熊野の地にも都市化の波が押し寄せ、彼が生まれ育った「路地」は実父・浜村竜造の暗躍で消滅していたー。父と子の対立と共生を軸に、血の宿命と土地の呪縛が織りなす物語を重層的な文体で描く、著者渾身の力作。『枯木灘』『鳳仙花』に続く紀州神話の最高到達点。
コルトレーンの祈り、アイラーのうねりにも似た魂、そしてドラッグ。いかなるものにも癒されぬ渇きに呻きながら、19歳のジェイコブは、夏の日が撥ねる路上を、夜明けの海辺をさまよう。精緻な構成と力強い文体で、死によってしか完結しない愛と憎しみを描く長編問題作。
『枯木灘』『鳳仙花』等の力強い文学的達成のあと、更に新たな表現の地平を拓こうとする果敢にしてエネルギーに溢れた“挑戦する志”。現代の文学を全身で担おうとする中上健次の奔騰し凝集しつづける表現の“渦”。 ●不死 ●桜川 ●蝶鳥 他