著者 : 中野恵津子
アメリカ人青年ピーターは、鳥や植物を愛す、ちょっと内気な19歳。パリ留学を前に母とふたり、ニューイングランドの小さな町を訪れる。4年前、母と暮らしたその地は、アメリカのよき伝統が残る、緑あふれる土地だった。しかし4年の間に自然は失われ、町はすっかり観光地化していた。母は怒り狂い、よきアメリカを取り戻すべくひとり闘う。そんな母と、アナキストだった父に育てられたピーターは、敬愛するカントの哲学に従い、「人を手段として利用してはならない」を行動原理として異国に旅立ってゆく。時代は北爆開始にはじまるベトナム戦争の拡大期。パリやローマで、ピーターは自身の反米主義に思い悩み、またイタリア系ユダヤ人を父にもつ自分のユダヤ性に常にこだわりながら、母国とヨーロッパの狭間で精神の成長を遂げてゆく。ベストセラー『グループ』をしのぐ名著、待望の新訳決定版。
結婚30周年を祝うパーティが開かれた晩、「それなりに楽しい結婚生活だったわよね」と振り返るポリーンに、「地獄だった」と夫のマイケルはつぶやく。それはいつもの夫婦喧嘩のはずだったのだがーどこにでもいる夫婦の60年間を、円熟味あふれる筆致で巧みに描く。しみじみおかしくてほろ苦い“身につまされる”小説。
舞台は、『灰色の輝ける贈り物』と同じ、スコットランド高地の移民が多く住む、カナダ東端の厳寒の島ケープ・ブレトン。役立たずで力持の金茶色の犬と少年の、猛吹雪の午後の苦い秘密を描く表題作。ただ一度の交わりの記憶を遺して死んだ恋人を胸に、孤島の灯台を黙々と守る一人の女の生涯。白頭鷲の巣近くに住む孤独な「ゲール語民謡最後の歌手」の物語。灰色の大きな犬の伝説を背負った一族の話。人生の美しさと哀しみに満ちた、完璧な宝石のような8篇。
1969年7月、ケネディ家末弟で上院議員のエドワード・ケネディは若い女性秘書を乗せてドライブに出た-。数時間後、クルマは橋から転落、ケネディだけが脱出し、女は水死した。警察への連絡は9時間後。いったい何が起きたのか?“ケネディ家第3の悲劇”を小説化。