著者 : 倉阪鬼一郎
裕福だが孤独な女性ソニアは、ある日無一文の青年を哀れみから家に招き入れ、食事をふるまった。半月後、彼はソニアの家を再訪するが、自分の描いた絵を購入するよう執拗に求める…不気味な侵入者がやすやすと善意を食い荒らす様を描き、江戸川乱歩によって「奇妙な味」の傑作と絶賛された表題作をはじめ、不意に立ち現れる不安と恐怖を見事な技巧で切り取った13編を収録する。
老中が私欲から企む国替えのせいで、故郷を追われようとしている荘内藩の者たち。物心つく前に親元から攫われたため郷里を知らない鬼市は、彼らに喪失の痛みを重ね、非道な老中への怒りを燃やす。撤回を求めて江戸に来た越訴衆への協力を試みる中、地獄の日々を共にしたあの女が刺客となって現れる!
武士を捨て料理人となった磯貝徳右衛門は、神田横山町の旅籠付き小料理のどか屋の主。時吉と名を替え、おちよとの間にできた息子千吉は十五歳になった。祖父長吉の許で修業をしていた千吉に、縁あって“花板”の仕事が舞いこんだ。品川宿で田楽と蒲焼きの店を地攻めにあって潰された紅葉屋が、上野黒門町で再興できたのだ。跡取りが十歳のため、つなぎの花板の役が来たのだ。
佐久間象山が凶刃に斃れて一年。江戸時代最後の年号「慶応」の世を迎えた夢屋では、象山が考案した料理“象山揚げ”が評判をよんでいた。横浜から仕入れる堅パンを砕いて衣にした揚げ物だ。おたねと誠之助は、福沢諭吉の助言も受けつつ、南蛮渡来の新しい食材を進んで取り入れてゆく。激動の幕末、料理屋を舞台に、江戸の庶民の姿を温かく描く、好評シリーズ第九弾。
旅籠付き小料理のどか屋のあるじ時吉は、十年ほど前、江戸で一番の料理人を決める“味くらべ”に出たことがある。その折に闘った若き女料理人がその後、品川で夫と田楽と蒲焼きの見世“紅葉屋”を出し人気となった。だが夫が病で亡くなり、幼い童と二人、悪辣な地攻め屋に立ち退きを迫られている。縁あって、お上の“黒四組”から秘かに十手を預かっている時吉と息子の千吉は…。
江戸へ荷を運ぶ途中、嵐に遭遇し、行方知れずになっていた主人が無事に戻ってきた。大坂の廻船問屋「浪花屋」が喜びに沸くさなか、大女将のおまつは奇妙な夢を見た。「江戸へ行って人助けをしてこい」と、夢の中で寿老人に告げられたのだ。そこで、今度は自分が江戸へ行くことに。それも出来たばかりの菱垣廻船で。しかし、船は女人禁制なため、男装し、長男の太平とともに乗り込むことに…。
親の顔も知らず、裏伊賀の砦で「人体兵器」として育てられていた鬼市は、決死の思いで抜け忍となり、八丁堀の同心城田新兵衛に拾われる。人の優しさに触れ、大切な人たちを守ろうとする鬼市。だが江戸では「わらべさらい」が横行し、裏伊賀で牙を磨きに磨いた刺客の兄弟がふたたび鬼市を狙う!文庫書下ろし。
多摩川沿いのランニングコースでは、毎年、100キロを走るウルトラマラソンが開催される。真鈴は、母親とともに50キロコースに挑戦することになった。亡くなった父親が果たせなかった10回目のウルトラマラソン完走を、二人合わせて達成するため。そして、10回目の完走者に贈られる、多摩川ブルーの永久ゼッケンを、心の中で手にするためにー
文久二年。娘のおかなはすくすくと育ち、夢屋に流れる平和な時ー。一方で、過激な尊王攘夷派が各地で次々と騒ぎを起こし、動乱の世が訪れようとしていた。おたねの夫・誠之助が師と仰ぐ佐久間象山も蟄居を解かれ、いよいよ歴史の表舞台に返り咲こうとするのだが…。激動する時代を懸命に生き抜く幕末の市井の人々の姿を温かく描く、好評シリーズ第八弾。
忍が牙を抜かれた文政の世。さらった子らを鍛え上げ、人体兵器としてひそかに送り出す裏伊賀の砦で育った若者・鬼市。決死の思いで、餓狼の啼く断崖を滑り下りる。執拗な追っ手から逃れ、めざす江戸にたどり着けるのか?そして鬼市の運命を変える出会いが…。胸躍る時代伝奇、怒涛の開幕!
上方の味を江戸に広めたいという大坂の廻船問屋「浪花屋」の主で行方知れずの父の意志を継ぐ、兄妹の次平とおさや、料理人の新吉の三人が切り盛りする料理屋「なには屋」。客が東西の味付けの違いに馴染まず苦戦するが、常連の助言で、軌道にのり始めた。そんな矢先、予想外の話が「なには屋」に舞い込む。悪い噂のある豪商「和泉屋」が、見世を閉め、自分の家の厨に入らないかと言うのだ。
高波で家族すべてを失った扇職人・礼次郎。気落ちからか身に瘍ができ、医者の見立ても芳しいものではなかった。一匹の猫に亡き娘の名前をつけて可愛がっていたが、自らの命も、もう長くはない。夢屋のおかみのおたねは、見世で猫を引き受けることにするが…。厄災が立て続く江戸で、明日を信じ懸命に生きる市井の人々の姿を温かく描く、人気シリーズ第六弾。
江戸の八丁堀に開店した料理屋「なには屋」は、大坂の廻船問題「浪花屋」の出見世。次男の次平と娘のおさや、料理人の新吉が切り盛りしている。しかし、江戸っ子に上方の味付けは受け入れられず、客足は鈍かった。そこで、常連になった南町奉行所の同心たちや知り合いの商人の助けで、新しい献立を創ったり、呼び込みをして、徐々に客を増やしていく。だが、上方嫌いの近所の奴らが…。書下し時代小説。
剣と将棋がめっぽう強い旗本の三男坊・飛川角之進。町娘と一緒になり、「あまから屋」という料理屋を営んでいる。実は彼は将軍の御落胤。そのことを知る美濃前洞藩の重臣たちに頼まれ、病に倒れた藩主の養子となり、家督を継ぐことになった。名を斉俊と改め、領地へ赴き、親藩との諍いを治めつつ、改革を進めるべく尽力する。若さまは、江戸に残した息子と妻と暮らすことができるのか?
疫病コロリ、大火…災厄続きだった安政五年が終わり、夢屋にも笑みが戻り始めていた。そんな折り、おたねに届いた依頼はー。下田に入港した米国軍艦の乗組員の若者が重い病にかかっている。彼のため、故郷の料理を再現してやってくれないかというのだ。異人の扱いに戸惑いながらも、次第に深い情を寄せる夢屋の面々。おたねの献身が胸を打つ好評シリーズ第五弾。
安政四年。好色者で、かつ火事のたび大儲けする材木問屋の主人が殺される。死人は「龍」の字をしたためた小さな紙片を握っていた。怪しいのは番頭の龍蔵、出合茶屋の元締め龍次、商売敵の昇龍屋か?周囲には他にも「龍」がいくらでもいて…(「龍を探せ」)。他全四作、南町奉行所隠密廻り同心・古知屋大五郎が難事件に名推理で挑む本格捕物帖の第一作。
安政の大地震、高波、大火、疫病コロリで傷ついた江戸の町を健脚たちが駈け巡る。益満同心が飛脚問屋江戸屋に持ちかけ、十社巡りが実現した。富ヶ岡八幡宮、神田明神、王子権現…。女飛脚をふくめ五区間、競うは十組。力めし処あし屋で腕をぶす江戸屋の面々だが、思わぬ暗雲がたれこめて!?
上州(群馬)見廻りの任についた関東取締出役(通称「八州廻り」)の藤掛右京は、ひそかに飼育された上州牛のすき焼き鍋の供応を受ける。獣肉を忌み嫌う時代に、この地にひそかに伝わるすき焼き鍋。上州沼田領を治め、また93歳まで生きて長命で知られた真田信之と、隣接する高崎領を治めた井伊直政に由来するのだという。このすき焼き鍋の秘密に気づいた右京は、凶賊捕縛に立ち上がる!書き下ろし。
奥歯の痛みで口中医を訪ねたおたねは、風采の上がらない安斎と名乗る男と出会う。二人の子を亡くして失意のうちに生きる安斎は、夢屋の手伝いに入ることになるのだが…。大地震、大あらしに続き、安政の江戸を襲う「コロリ」と呼ばれる恐ろしい流行り病。たび重なる厄災に立ち向かい、支え合いながら生き抜こうとする人々の姿が胸を打つ、好評シリーズ第四弾。