著者 : 加賀乙彦
心理療法士の牧子は、失恋の痛みを忘れるために喧騒の東京を離れ、北海道の東の果て、森と湿原と海に囲まれた病院に勤務した。ギャンブル好きの一風変った寛大な堂福院長の開放病棟で、牧子は意欲的に働き、青年漁師の洋々との出会いに生きる喜びを再び全身に感じた。しかし、幸福な愛の時も束の間、海が彼の命を奪う。安らぎを求め強く生きようとする若い二人の純愛を描く長編。
幼い頃からフィギュアスケートに賭けてきた美也子は、いま大学生となって全日本選手権をめざしている。トリプルジャンプのための減量。恋人との葛藤。そして〓@50FCじていく拒食症。少女がであう、身体と精神と感情の揺れをみごとに描いた人間ドラマ。
エリート商社員と夫と有名私立小に通う息子とくらす奈々子。息子のいじめと無関心な夫、隣人とのやりきせない人間関係の中で幸せなはずの家庭に忍び寄る官能の嵐、そして崩壊。繁栄の時代の影を浮き彫りにする異色の長篇。
死刑判決に対する控訴を拒否し、刑の執行を望む村井晋助。監獄医中川らの目から見ると、彼は拘禁ノイローゼによる被害妄想のように思われる。しかし愛人菊江の目にはまた別の姿が…。“死”を欲する彼の真意はどこにあるのか。やがて訪れる主人公の意外な終末。死刑囚と監獄医の葛藤を描いた表題作の他、刑務所を看守の目から描いた「制服」、孤独な死刑囚の独白「夜宴」の2作を収める。
犯罪的な暗い過去を持つ自動車整備工の雪森厚夫(49才)は、病める神経に苦悩している女子大生池端和香子(24才)に愛情を抱きはじめた。1969年1月、彼女はT大生の恋人守屋牧彦の影響で大学紛争に参加、牧彦はT大学を占拠し、機動隊や和香子の父池端教授と戦い敗退した。’69年2月、雪森と和香子は、新幹線爆破事件の容疑者として逮捕された。悪魔的な捏造で引き裂かれる魂を描く。
恐ろしい冤罪に耐える和香子と雪森を救うため、奔走する若き弁護士阿久津純。1969年2月11日の二人のアリバイが立証され、無罪の判決に至るまでに10年近くの年月が流れた。和香子は述懐するー監獄の現実は監視し管理し命令し密告し人間を家畜みたいに取り扱うと。今、和香子は雪森の故郷北海道根室に彼を追う。この土地で二人で生きるために…。人間の魂の救済と愛を描く力作長編。
花の都はパリ大学の精神医学教室に留学した少壮精神科医。そこに待ちうける多事多難、青春喜劇の数々。-個性豊かな留学生仲間との交遊、アラビア王家の血筋をひくスペイン娘との恋。陰鬱な北フランスの冬。そして、盗難、自動車事故。自伝ふうユーモア小説“頭医者シリーズ”3部作完結編。
太平洋戦争前夜、日米開戦回避の特命を帯びて来栖三郎はワシントンに飛んだ。だが、ルーズヴエルト大統領、ハル国務長官を相手に交渉は難航、だましうちのように、真珠湾奇襲攻撃が敢行される。三郎の努力と願いもむなしく、若者たちが殺し合わねばならない戦争へと時代は突入していく。ドキュメンタリー・タッチで描く現代史の悲劇、全3巻。
父三郎と母アリス。そして子供たち、安奈、良、恵理。日米戦争は、幸福な家族に過酷な運命と選択を課した。明朗闊達、スポーツマンでダンス名人の良。誰よりも強く平和を願った三郎の息子良が陸軍の戦闘機乗りになって、母の故国の飛行機を操縦する若者たちと闘われなければならない!大きな戦争が、男も女も、人も国も、激流に巻き込んで突き進む。