著者 : 多和田葉子
世界文学を切りひらく著者による、はじめての朝日新聞連載小説の書籍化。ベルリンで一人暮らしをする美砂。隣人Mさんは東プロイセンで生まれ、終戦前にドイツに引きあげてきた。美砂はプルーセン人の来し方を聞きながら、第二次大戦前後のドイツと日本の歴史に引き込まれ、土地からの追放、戦時の死者数、国や民族、境界について考える。ある日、Mさんに誘われて、太極拳学校に行く。ロシア人富豪のアリョーナ、お菓子づくりのベッカー、英語教師のロザリンデと共に、鶴が羽を広げるように右腕を力強く上げる太極拳の技「白鶴亮翅」を習う。美砂はクライストの短篇「ロカルノの女乞食」を翻訳する。このドイツの作家はなぜホームレスの老女に注目したのか。ハムレット、グリム童話、楢山節考、世界の名作を女性の視点から読み直してみると……。
まだ歌える歌がある、人間たちの彼方に。コロナ禍のベルリン。若き研究者のパトリックはカフェで、ツェランを愛読する謎めいた中国系の男性に出会う。“死のフーガ”“糸の太陽たち”“子牛線”…2人は想像力を駆使しながらその詩の世界に接近していく。世界文学の旗手とツェラン研究の第一人者による「注釈付き翻訳小説」。
ヨーロッパで移民として生きるため、自家製の言語“パンスカ”をつくり出したHirukoは、消えてしまった故郷の島国を探して、仲間たちと共に船の旅に出る。一行を乗せた船はコペンハーゲンからバルト海を東へ進むが、沿岸の港町では次々と謎めいた人物が乗り込んできてー。言葉で結びついた仲間たちの時空を超えた出会いと冒険を描く多和田葉子の新たな代表作。
豆のスープをかき混ぜてもの思いに遊ぶ黒い“奇異茶店”。サングラスの表面が湖の碧さで世界を映す眼鏡屋。看板文字の「白薔薇」が導くレジスタンス劇。カント、マルクス、マヤコフスキー。ベルリンを幾筋も走る、偉人の名をもつ通りを、あの人に会うため異邦人のわたしは歩く。多言語の不思議な響きと、歴史の暗がりから届く声に耳を澄ましながら。うつろう景色に夢想を重ね、街を漂う物語。
とつぜん届いた犯人の手紙から、「雲蔓式」に明かされる、わたしの奇妙な過去ー読売文学賞と芸術選奨文科大臣賞を受賞した「雲をつかむ話」。レネの義兄の家を借りるためボルドーへ向かう優奈の、ひと夏の断章ードイツ語で書かれドイツで発表されたのち、自身で日本語小説に転じた「ボルドーの義兄」。各国語に翻訳され、欧米、アジアのみならず、世界中で新作が待望される日本人作家、魅惑の二長篇。
動物由来の細胞からヒトが生まれる世界、藁でできている優しい夫、男女三人で行う「正しいセックス」…。こんなラブストーリー、読んだことない!豪華執筆陣が、奇妙で純粋で狂おしい愛のかたちを綴った11の物語。エッセイストとしても知られる人気翻訳者が編んだ伝説のアンソロジー、待望の日本版!
留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirukoは、ヨーロッパ大陸で生き抜くため、独自の言語“パンスカ”をつくり出した。Hirukoはテレビ番組に出演したことがきっかけで、言語学を研究する青年クヌートと出会う。彼女はクヌートと共に、この世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を捜す旅に出るー。言語を手がかりに人と出会い、言葉のきらめきを発見していく彼女たちの越境譚。
ローマ神話の名を持つ女達と“わたし”のおかしな物語。二十二の断章が織りなす魔術的な言葉の積み重なりが、深い陶酔感へと誘う散文の精華「変身のためのオピウム」。女子高生サヤは喫茶店ドジンで時を超えて旅をつづける英国人イザベラ・バードに出会う。見慣れた風景が反転し、少年少女が非日常へと飛翔する「球形時間」(ドゥマゴ賞)。強靭な知性と創造力で緻密に練り上げられた傑作二篇。
大災厄に見舞われ、外来語も自動車もインターネットもなくなり鎖国状態の日本。老人は百歳を過ぎても健康だが子どもは学校に通う体力もない。義郎は身体が弱い曾孫の無名が心配でならない。無名は「献灯使」として日本から旅立つ運命に。大きな反響を呼んだ表題作など、震災後文学の頂点とも言える全5編を収録。
都市は官能の遊園地、革命の練習舞台、孤独を食べるレストラン、言葉の作業場。世界中から人々が集まるベルリンの街に、経済の運河に流され、さまよい生きる人たちの物語が、かつて戦火に焼かれ国境に分断された土地の記憶が、立ちあがる。「カント通り」「カール・マルクス通り」他、かつて国境に分断され、いまや世界中の人々が行き交うベルリンに実在する10の通りからなる連作長編。
「でもわたしは美しい死体にはなりたくない」-“美しき死”へ少女たちを塗りこめ、観賞用の素材に変えようとするこの世界のあまたの罠から逃れるために、窓の外へと飛びだした“わたし”の行く末はいかにー。ことばの力で生きのびていく少女たちのためのもうひとつの“聖書”。著者の代表作にして性と生と聖をめぐる少女小説の傑作が、あらたに書き下ろされた外伝「声のおとずれ」を伴って、いま蘇る!
印刷機と鯨の音「フィヨルドの鯨」。十代最後の夏が終わる「ティーンエイジ・サマー」。晩年を生きる少女の揺らめき「晩年の子供」。幼なじみが騎兵姿で「夕陽の河岸」。泥道の邂逅、遊郭の記憶「七夕」。文学碑をめぐる解説書簡「十七枚の写真」。あの戦友や慰安婦たちは「セミの追憶」。私とスパイはバスで東へ「光とゼラチンのライプチッヒ」。夢の中の犬の匂い「犬を焼く」。電話の主は海芝浦へ行けという「タイムスリップ・コンビナート」(芥川賞)。現代文学を俯瞰する第四巻。
九時十七分着の夜行列車で中央駅のホームへ降りた、遠い国から来た私。なぜか周囲からかかとを笑われながら、書類結婚をした男の住む十七番地のアパートで、扉に隠れて姿を見せない夫との奇妙な生活が始まる。ドイツで作品を発表していた著者が、群像新人賞を受賞して日本で衝撃的デビューを飾った「かかとを失くして」他二篇。“21世紀の世界文学”の幕開けを告げる、記念碑的作品集。