著者 : 小松重男
「猫の蚤とりになって無様に暮らせ!」主君の逆鱗に触れた長岡藩士・小林寛之進は、猫の蚤とりー実は“淫売夫”に身を落とす。下賎な生業と考えていた寛之進だが、次第に世に有用な、むしろ崇高な仕事だと確信する。ところが政権が変わり、蚤とり稼業が禁止に。禁令の撤廃を願い出る寛之進だが…。(表題作)江戸の浮き世を懸命に生きた愛すべき人々の物語、全六編。
七歳で旗本小普請組勝家の養子に入った小吉は、学問嫌いの極道者。喧嘩三昧の毎日だ。出世の道を喧嘩で切り開こうと、道場破りに生き甲斐を感じている。業を煮やした父親は、座敷牢に小吉を閉じ込め、許嫁と二人きりにする。そうして麟太郎(海舟)が生まれたー。出世を望むも叶わず、不良御家人として放蕩無頼に生き、麟太郎に自らの夢を託して生涯を終えた小吉を痛快に描く時代長編。
江戸城の桜田門外、日比谷近くに御庭番が住まう桜田御用屋敷があった。十一代将軍・家斉は、御庭番の真五郎に膃肭臍(強壮剤)の買付けを任じた…と見せかけて、ある重大な密命を託していたー。産ませた子女54人、荒淫将軍・家斉が、御庭番を絶妙に操り内憂外患を抑えていく名君ぶりを描く三編のほか、御庭番家筋の初代新潟奉行・川村修就の人情味溢れる活躍を描く三編を収録した。
男子禁制の奥向で、女だけの御殿芝居を上演したお狂言師たち。芝居のみならず、男日照りの奥女中相手にといちはいちもしたという。お狂言師・坂東琴絵は立役専門の二枚目。贔屓筋を悦ばせるため、裏芸の研鑚にも日夜余念がなかった。知られざる奥向の実態を詳らかにする「お狂言師」もの連作5編のほか、間男するのが大好きだった天真爛漫な女を描く表題作など、江戸艶笑小説9編。
鷹取俊太郎は、稀に見る色男。十代将軍・家治の目に留まり、半ば公然となった御庭番の裏役として、初代・陰の御庭番を拝命した。いきなり美女の罠に嵌まりずっこけるのだが、岡っ引の孝次、公事師の彦佐衛門、そして、俊太郎に惚れた清国の美女に助けられ、紙問屋に身をやつし、なんとか密命を果たしていく。身分を明かせぬ苦闘が続くが、騙し騙され、将軍直々の隠密御用が始まった。
八代将軍吉宗が創設し、自らの耳目として諸国の情報収集に当たらせた「御庭番」。川村修就は、出世の遅れた父から御庭番を世襲し、手柄を挙げようと張り切るが、ともすればずっこけがち。しかし、新潟湊の抜荷探索という大命を授かると、薩摩の女密偵を閨房の秘術でたらしこみ、まんまと極秘情報を入手。薩摩の密貿易を摘発し、初代新潟奉行を下知された。御庭番シリーズ登場。
低い扶持にあえいでいても、こころはいつもサムライ。十年のうち九年は百姓暮らし、一年だけ赤錆だらけの槍を担いで日光山警護にあたる八王子槍組千人同心・鷹取俊太郎。後に陰の御庭番・信濃屋芳兵衛となり、将軍の耳目となって活躍した男の元服後の筆下ろしを描く表題作をはじめ、江戸時代の底辺を担って生きた下級武士たちの心意気を無類のユーモアとペーソスで綴る時代短編集。
巷では川柳こと五七五の万句合が大流行。夢中なのは町人ばかりではないらしい。なんと、どこぞの大名の御隠居までが吉原でネタを仕込んで密かに万句合を投稿しているって?おかげで江戸に居続けで、帰国を促す忠義の家臣にも耳をかさず、御家のことをなんとする。武家に職人、公事師、無宿人と、身分を越えて川柳の取り持つ奇妙な縁で結ばれた人々が繰り広げる文庫書下ろし時代長編。
飢饉の奥州から江戸へ出てきた百姓の息子が、奇妙な稼業を転々としながら意外なきっかけで大店の婿養子となる「けつめど」、密偵でありながら潜入先越後新発田藩の善政を知り、あえて将軍の意向に反する復命をして、後に新発田藩主から直々に感謝状を受ける幕府御庭番を描いた「おんみつ侍」。-さまざまな生きざまを艶やかに、そしてせつなくも滑稽に描いた侍シリーズ番外編。
「猫の蚤とりになって暮らせ!」-藩校始まって以来の秀才、剣術の腕前も並み以上、それなのに主君の勘気に触れ、「猫の蚤とり」となって女客めあてに春を売る侍の、奇妙な運命を描く表題作。獄中で一世一代の枕絵に挑む絵師、浮気が露顕して女房に追い出された商家の婿養子、将軍家好物のかれいの煮付けの小骨を抜く侍…。愛すべき江戸の男たちをめぐる6つの物語。