著者 : 山本周五郎
思想入り乱れる動乱の幕末。許嫁の敵討ちと狙われる志士の私信を元に、人の世の儚さを流麗に綴る表題作「失蝶記」。桜田門外の変を水戸藩藩士の視点から語る異色作「染血桜田門外」、戊辰戦争、甲州勝沼の戦いを背景に描く傑作「米の武士道」など八篇。人心揺れる世に、変わらぬものとは。傑作幕末短篇小説集。
久々に国元から江戸入りした若殿の姿に、家臣の誰もが絶句した。若さまってーこんなに馬鹿だったっけ?かつての賢さはすっかり消え、毎晩のように大宴会、女と見ればすぐに手を出す。それもそのはずこの若殿、側近の裏切りに遭った“本物”の替え玉だったのだ。降って湧いた贅沢な身分に、ますます調子に乗るバカ殿。だが、意外な逆転劇が待ち構えていた!愉快痛快な表題作を含む傑作短篇集。
大和八郎少年、コードネームは“本部X13”。彼に下された指令は、上海郊外の米軍秘密要塞の発見・爆破であった。X13号は三つの特殊兵器を携えて単身川辺の湿原地帯に降り立つ…(表題作)。海軍少年特務員東忠三が、満洲の北方、ケルレン王国の再興に孤軍奮闘する「血史ケルレン城」等、冒険小説・スパイ小説の傑作を八編収録。
根戸川の下流にある浦粕という漁師町を訪れた私は、沖の百万坪と呼ばれる風景が気に入り、このうらぶれた町に住み着く。言葉巧みにボロ舟「青べか」を買わされ、やがて“蒸気河岸の先生”と呼ばれ、親しまれる。貧しく素朴だが、常識外れの狡猾さと愉快さを併せ持つ人々。その豊かな日々を、巧妙な筆致で描く自伝的小説の傑作。
ようこそ、恐怖の部屋へ。怪奇現象はお嫌いですか。古代蒙古の王族の棺を持ち帰った考古学の権威厩川博士だが、木乃伊が夜毎棺から出て、枕元の水差しの水を飲むことに気づいた。博士は恐怖のあまり…(表題作)。かの名探偵ホームズが来日し、財宝をめぐって悪漢たちと壮絶な戦いを繰り広げる「シャーロック・ホームズ」等、痛快探偵小説の内、怪奇性の強い名品珍品13編を精選。
徒士組の子に生まれた阿部小三郎は、幼少期に身分の差ゆえに受けた屈辱に深い憤りを覚え、人間として目覚める。その口惜しさをバネに文武に励み成長した小三郎は、名を三浦主水正と改め、藩中でも異例の抜擢を受ける。藩主・飛騨守昌治が計画した大堰堤工事の責任者として、主水正は様々な妨害にも屈せず完成を目指し邁進する。
突然の堰堤工事の中止。城代家老の交代。三浦主水正の命を狙う刺客。その背後には藩主継承をめぐる陰謀が蠢いていた。だが主水正は艱難に耐え藩政改革を進める。身分で人が差別される不条理を二度と起こさぬためにー。重い荷を背負い長い坂を上り続ける、それが人生。一人の男の孤独で厳しい半生を描く周五郎文学の到達点。
覆面の女性歌手の人気で沸く東都劇場に脅迫状が届いた。彼女を出演中に誘拐するという。支配人の息子榊山宗一は前夜の帝国座での女優誘拐事件をヒントにトリックに挑む(「覆面の歌姫」)。殺人光線の研究所所内親睦の園遊会で起きた惨劇と背後にあった諜報戦を描く表題作。巧妙なトリックと乱麻を断つ名推理が光る探偵小説18編。
貴方と生きると決めた時、私は涙を捨てた。妻が死んだ。久方ぶりにその手を握り、はっとする。酷く荒れていた。金銭で困らせたことはなく、優雅な生活を送っているとばかり思っていたのに、その手は正に働く女の手であった──(「松の花」)。厳しい武家社会の中で家族のために生き抜いた女性たちの、清々しいまでの強靱さと、凜然たる美しさや哀しさが溢れる三十一の名編。
名もなき者の物語を生涯書き続けた山本周五郎。戦国の覇者、織田信長と徳川家康、その家臣たちの物語を通し、見える天下人の姿とは。信長に勧められた縁談を断った家臣の一途な生き様を描く名作「曾我平九郎」、武田の駿河侵攻に家康の先手組として砦を死守した男たちと悲恋を描く「御馬印拝借」など名作八編。
春田龍介、中学二年。学業優秀、推理抜群。無燃料機関の実験当夜、妹が掠われ、機密をも盗まれた。龍介は二つの暗号文を解読し、犯人を追う(「危し!!潜水艦の秘密」)。超爆液の研究所で分析表が盗まれ、次々と所員が殺される。龍介は巧妙な方法で犯人を炙り出す(「黄色毒矢事件」)。若き日の周五郎が旺盛に執筆した血湧き肉躍る少年小説のうち春田龍介ものを七編厳選。
武田信玄は死に際し、自らの亡き殻とともに財宝を諏訪湖に沈めるよう命じた。その石棺の隠し場所を示す五巻の巻物をもって逃げる三人の落武者は、徳川方に討たれる。その巻物をめぐって武田の郷士・高市児次郎は、師僧・閑雪、猟師の子・伝太とともに三つ巴の争奪戦にまき込まれるー。人間の一生は修行だとする周五郎の信念に貫かれた伝奇時代長篇、初文庫化!
昭和16年に執筆され、戦後の混乱期の中、未発表のまま保管されていた短篇小説「死處」。77年ぶりに発見された本作を収録した小説集、遂に刊行! 表題作「死處」のほか、伊達家先方隊として山中を進む武士たちとそれを追う女の恋を描く名作「夏草戦記」、戦場で手柄を立てない良人とその本当の姿を知る妻を心の繋がりを哀切深く描いた「石ころ」など、動乱の世に生きた人々の生き様を通し、人の在り方を問う全篇名作時代小説集 昭和16年(1941年)に執筆され、戦後の混乱期の中、未発表のまま保管されていた短篇小説「死處」。77年ぶりに発見された本作を収録した傑作時代人情小説が遂に刊行!合戦に赴くことなく留守役を買って出た家臣の真意とは、表題作にして未発表作「死處」のほか、伊達家先方隊として山中を行軍する武士たちとそれを追う女の恋を描く名作「夏草戦記」、戦場で手柄を立てたことのない良人のその本当の姿を知る妻の心の繋がりを哀切深く描いた「石ころ」など、動乱の戦国に生きた人々の生き様を通し、人の姿、在り方を問う全篇名作時代小説集。 城を守る者 石ころ 夏草戦記 青竹 紅梅月毛 土佐の国柱 熊谷十郎左 死處 編集後記
周五郎が好んで書いた舞台、居酒屋と岡場所は「悲」と「哀」が生れるところである。はぐれ者のつどう居酒屋がかなしみの防波堤になり意外な展開をうむ「深川安楽亭」。岡場所の女の消えそうで消えないかなしみを描く表題作。子を持てない夫婦の行き場のないかなしみ「並木河岸」。悲哀を乗り越えていく男と女の貴い姿を描く九編。
男も女も老いも若きも、様々な「情」を胸に抱き、それに振り回され生きていくー武士の、同輩への友情と許婚への断ち切れぬ愛情との葛藤を描く「落ち梅記」。亭主への、また父の娘に対する「情」の交錯がドラマに複雑さを与える表題作。同場所のシンデレラ物語が迎える残酷な結末「なんの花か薫る」。「情」の万華鏡とも言うべき一冊。
膨大な数の短編から選びに選んだ傑作選第二弾。大火で焼けた家を自力で再建し、孤児たちを引きとり奮闘する大工と娘を描く「ちいさこべ」。将来を誓った男をひたすら待ち続けた女が迎える、無残だがどこか美しい結末「榎物語」。生きるために暗愚を装い続けた若殿の悲劇「若き日の摂津守」。意地を貫いて一層の輝きを放った九編。
一九四二年、太平洋戦争の中に始められた連載「日本婦道記」。戦中・戦後の混乱期を通し、著者が描き続けた日本人の姿、生き方とは。裕福な武家の家に嫁ぐも、自らはつましい生活を送る女。その死によって明らかになる彼女の真意とは。傑作「松の花」や名作「不断草」など、連作三十一篇を網羅した完全版、初の文庫化。