著者 : 星野智幸
嫌な気分は何もかもノートにぶちまけて、言葉の部屋に閉じ込めなさい。 尊敬するセミ先生からそう教えられたのは、鬼村樹(イツキ)が小学五年生の時だったーー 「架空日記」を書きはじめた当初は、自分が書きつけたことばの持つ不思議な力に戸惑うばかりの樹だったが、やがて生きにくい現実にぶち当たるたびに、日記に跳び移り、日記のなかで生き延び、カルト化していく現実にあらがう術を身に着けていく。 そう、無力なイツキが、架空日記のなかでは、イッツキーにもなり、ニッキにもなり、イスキにもなり、タスキにもなり、さまざまな生を生き得るのだ。 より一層と酷薄さを増していく現実世界こそを、著者ならではのマジカルな言葉の力を駆使して「架空」に封じ込めようとする、文学的到達点。
書きおろし・単行本未収録作を含む全11編、異色の植物小説集いとうせいこう氏、絶賛?「植物へ植物へ、ヒトが溶けて滲み出す。これは多方向的で悦ばしい『変身』の群」アイビーを体に生やして着飾るうちに植物化した人間たちの幸福な未来を描いた「スキン・プランツ」、蜂起する植物たちと特殊工作員ネオ・ガーデナーが対峙する「始祖ダチュラ」等、11編。ヒトが植物の世界に取り込まれていく虚構に、現代社会への痛烈な批判を込めるーー。■収録作品避暑する木ディア・プルーデンス記憶する密林スキン・プランツぜんまいどおし植物転換手術を受けることを決めた元彼女へ、 思いとどまるよう説得する手紙ひとがたそう始祖ダチュラ踊る松桜源郷喋らんあまりの種ー あとがき■著者プロフィール星野智幸(ほしの・ともゆき)1965年、米ロサンゼルス生まれ。早稲田大学卒。新聞社勤務を経て、1997年、『最後の吐息』が文藝賞を受賞しデビューする。2000年『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、03年『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、11年『俺俺』で大江健三郎賞、15年『夜は終わらない』で読売文学賞、18年『?』で谷崎潤一郎賞を受賞。ほか『植物診断室』『呪文』『未来の記憶は蘭のなかで作られる』『のこった もう、相撲ファンを引退しない』『星野智幸コレクション』『だまされ屋さん』など著書多数。
70歳の夏川秋代は、夫を亡くして公団住宅にひとり暮らし。ある日、「(長女の巴と)家族になろうとしている」と語る若い男が突然やって来た。戸惑う秋代をよそに家に上がり込む謎めいた男。彼は本当に娘の婚約者なのか、それとも新手の詐欺なのかーー。 秋代には実は、長女だけでなく、二人の息子にも男の来訪について相談できない理由があった。アメリカで未婚のまま娘を産んだ長女、男らしさの抑圧に悩み在日韓国人のパートナーとうまくいかない長男、借金を重ねて妻子に出て行かれた次男……こじれた家族の関係は修復できるのか。 現代文学の最前線を走る作家が、家族のあり方や人々のつながり方を問う渾身の長編。
さびれゆく松保商店街に現れた若きカリスマ図領。クレーマーの撃退を手始めに、彼は商店街の生き残りを賭けた改革に着手した。廃業店舗には若い働き手を斡旋し、独自の融資制度を立ち上げ、自警団「未来系」が組織される。人々は、希望あふれる彼の言葉に熱狂したのだが、ある時「未来系」が暴走を始めて…。揺らぐ「正義」と、過激化する暴力。この街を支配しているのは誰なのか?いま、壮絶な闘いが幕を開ける!
<b>母さん、あの大仏をこわしてよ!</b> 母を失くした居場所なき少年は、この世の権威を憎んでいた。その象徴をこわしたとき、男たちが作り上げた正史の余白から、いかなる物語が流れ出るのか。時空を超え、生死の境に降り立つ未踏の日本文学。 未収録短編「ヒグマの静かな海」併録 大仏を例えば「基地」なり「日本人」なり「原発」なりに置き換えれば、同じ構造が現代のそこかしこに存在している。 そして、存在しなかったことにされている生が、心情が、語られることのない物語として、聞こえない声で語り続けられている。 ーー星野智幸「声のかけらの氾濫」より ナラ・レポート ヒグマの静かな海 声のかけらの氾濫 星野智幸
「婚約者が自殺した」との報せを受けた玲緒奈。しかし彼女には、次に殺す予定の別の婚約者がいた。男を惑わし、財産を奪い、殺す。玲緒奈には不思議な掟があった。夜が始まると彼女は言う。「私が夢中になれるようなお話をしてよ」死の直前、男の語る話の内容で命の長さは決まる。命を懸けた究極の物語が始まる。読売文学賞受賞作。
9つの物語を包みこみ、生き地獄のような世界に希望を灯す、かつてない小説体験! 親の介護に追われる男は謎の団体に父親を託し潜入取材を始め、人間がお金となり自らを売買する社会で「ぼく」が見たものとは。真夏の炎天下の公園で、涙が止まらない人で溢れかえる世界で、自分ではない何かになりたいと切望する人々が、自らの物語を語りはじめたときーー。地上に生きるすべてのものに捧ぐ著者渾身作
ディストピアではない。これが現実だ。星野智幸の代表作を4テーマに分類。単行本未収録の作品等とあわせた初の自選作品集〈第3巻〉 私を死に追いやるのは誰か。自死の連鎖の中でもがく「無間道」三部作、植物的な死生観を人間世界に持ち込んだ「アルカロイド・ラヴァーズ」、単行本未収録の短篇四篇を収録。 「自死への境界を見つめ、異類である植物としての生命を幻視する。読み終えれば、緑いろの他者があなたに奇怪な生への呼びかけを始めるだろう。」-いとうせいこう氏(作家) 無間道 アルカロイド・ラヴァーズ 植物転換手術を受けることを決めた元彼女へ、思いとどまるよう説得する手紙 スキン・プランツ 記憶する密林 桜源郷
ディストピアではない。これが現実だ。星野智幸の代表作を4テーマに分類。単行本未収録の作品等とあわせた初の自選作品集〈第4巻〉 私は移民に何を見るのか。私/かれらの境界を突破する「目覚めよと人魚は歌う」「砂の惑星」「チノ」「ハイウェイ・スター」、単行本未収録「人魚の卵」「風の実」等を収録。 「人も価値観も想像力も、越境していく愉悦の書。遠いどこかの何かと、今ここにいる自分を結び付けてくれるのが、星野作品である。」-瀧井朝世氏(ライター) 目覚めよと人魚は歌う 砂の惑星 ノン・インポルタ チノ ハイウェイ・スター エア 紙女 砂の老人 トレド教団 ペーパームーン 雛 人魚の卵 風の実
ディストピアではない。これが現実だ。星野智幸の代表作を4テーマに分類。単行本未収録の作品等とあわせた初の自選作品集〈第1巻〉 私はなぜ権力になびくのか。人々が政治に求める欺瞞と暴力をえぐる「在日ヲロシヤ人の悲劇」、大幅改稿「ファンタジスタ」、短篇三篇の他、単行本未収録「先輩伝説」を収録。 「何度でも読み返されるべき小説。この社会の酷薄さ(リアル)を知るために。星野さんはずっとひとりで、最悪を想像し、現実の醜さを暴き、警鐘を鳴らし続けてる。」-中島京子氏(作家) 在日ヲロシヤ人の悲劇 ファンタジスタ ててなし子クラブ われら猫の子 味蕾の記憶 先輩伝説
ディストピアではない。これが現実だ。星野智幸の代表作を4テーマに分類。単行本未収録の作品等とあわせた初の自選作品集〈第2巻〉 私はいつ集団に呑み込まれたのか。家族依存・国家依存からの脱出口を探る「毒身」二部作、「ロンリー・ハーツ・キラー」の他、単行本未収録「フットボール・ゲリラ」を収録。 「この国を支配する空気をかき乱す、やわらかな思考がここにある。星野智幸の小説とともに生きることが、どれほど幸せなことか、読者は実感するだろう。」-陣野俊史氏(文芸評論家) 毒身温泉 毒身帰属 ロンリー・ハーツ・キラー フットボール・ゲリラ
寂れゆく松保商店街に現れた若きリーダー図領。悪意に満ちたクレーマーの撃退を手始めに、彼は商店街の大改革に着手した。廃業店へ若い働き手を斡旋し、融資制度を立ち上げ、さらには街の自警団「未来系」が組織される。ほのかに希望の光が差しはじめた商店街に、誰もが喜ばずにはいられなかったのだが…。雑誌掲載時より話題沸騰、著者最高傑作!!
なりゆきでオレオレ詐欺をしてしまった俺は、気付いたら別の俺になっていた。上司も俺だし母親も俺、俺ではない俺、俺たち俺俺。俺でありすぎて、もう何が何だかわからない、増殖していく俺に耐えきれず、右往左往する俺同士はやがてー。他人との違いが消えた、100%の単一世界から、同調圧力が充満するストレスフルな現代社会を笑う、戦慄の「俺」小説!大江健三郎賞受賞作。
蜜の雨が降っている、雨は蜜の涙を流してるーある作家が死んだことを新聞で知った真楠は、恋人にあてて手紙を書く。咲き乱れるブーゲンビリア、ベラクルスの熱風、グァバの匂い、ハチドリの愉悦の声。メキシコを舞台に、鮮烈な色・熱・香・音が甘やかに浮かび上がる恍惚と陶酔の世界。短篇「紅茶時代」を併録。第三四回文藝賞受賞作。
首相公選制がしかれた近未来の日本。投票を明日に控え、かつてサッカーのスタープレイヤーだった政治家・長田が圧倒的な支持率で最高権力者になろうとしている。人々はこの清新で危険なにおいのするカリスマに夢中だ。だが、果たしてこの選択は正しいのだろうか?わたしたちはどこへ向かっているのか?忍び寄るファシズムの空気を濃厚に描く、第25回野間文芸新人賞受賞の傑作小説集。
21歳の多喜子は誰にも祝福されない子を産み、全身全霊で慈しむ。罵声を浴びせる両親に背を向け、子を保育園に預けて働きながら1人で育てる決心をする。そしてある男への心身ともに燃え上がる片恋ーー。保育園の育児日誌を随所に挿入する日常に即したリアリズムと、山を疾走する太古の女を幻視する奔放な詩的イメージが谺し合う中に、野性的で自由な女性像が呈示される著者の初期野心作。 太陽に向かう植物のように子を育む女の命の輝き 21歳の多喜子は誰にも祝福されない子を産み、全身全霊で慈しむ。罵声を浴びせる両親に背を向け、子を保育園に預けて働きながら1人で育てる決心をする。そしてある男への心身ともに燃え上がる片恋ーー。保育園の育児日誌を随所に挿入する日常に即したリアリズムと、山を疾走する太古の女を幻視する奔放な詩的イメージが谺し合う中に、野性的で自由な女性像が呈示される著者の初期野心作。 星野智幸 私は、多喜子のような母親を持った晶は幸せである、と思う。なぜなら、今の若い世代が内側に抱えこんでいる空虚さを、多喜子自身がすでに25年以上も前に持っていて、それを乗り越えようと格闘したからである。(略)子どもは、上の世代を見て育つ。親を見て、教師を見て、上司を見て、生き方の選択肢を広げていく。現代に晶がもっとたくさんいたら、と私は夢想する。家族のあり方は何倍も豊かでありえたのではないだろうか。--<「解説」より> 真夏 森 泣き声 道 冬 若葉 山 顔 著者から読者へ