著者 : 木内昇
太平洋戦争直前、故郷の岐阜から上京し、日本女子体育専門学校で槍投げ選手として活躍していた山岡悌子は、肩を壊したのをきっかけに引退し、国民学校の代用教員となった。西東京の小金井で教師生活をはじめた悌子は、幼馴染みで早稲田大学野球部のエース神代清一と結婚するつもりでいたが、恋に破れ、下宿先の家族に見守られながら生徒と向き合っていく。やがて、女性の生き方もままならない戦後の混乱と高度成長期の中、よんどころない事情で家族を持った悌子の行く末は…。血の繋がらない親子を描く、笑いと涙のホームドラマ。
天涯孤独の身で17歳にして単身渡米。帰国後、その力量を買われ、井上馨の官庁集中計画に参加。御一新前の美しい町並みを愛し続けた妻木は欧化一辺倒の都市計画に反発、西欧の新しい技術に学んだ“江戸の再興”を心に誓う。いくつもの難局を乗り越え、国の未来を議論する場としての国会議事堂の建設へと心血を注ぎこんでいくー「いい街にするよ、必ず」。東京を、日本をどう建て直すのか。明治の建築家、妻木頼黄の闘い。
時は日露戦争前夜ー明治の近代化が進む日本で、徳島の貧しき葉煙草農家に生まれた郷司音三郎。爪に火をともすような暮らしを送る一家を助けるため、池田の工場に働きに出た音三郎は、そこで電気を使用した技術に出合い、その目に見えぬ力に魅了され、仕送りするのも忘れ新製品の開発に没頭するようになった。やがて、開発の熱心さを認められ、大阪の工場に誘われた音三郎は、技術者としての大きな一歩を踏み出した!
大阪の工場で技術開発にすべてを捧げた郷司音三郎。これからの世に必要なものは無線機と考え、会社に開発を懇願するが、あと一歩で製品化というところで頓挫してしまう。新たな環境を求め、学歴を詐称して東京の軍の機関に潜り込んだ音三郎だったが、そこで待っていたのは日進月歩の技術革新と、努力だけでは届かない己の無力な姿だった…。戦争の足音が近づく中、満州に渡り軍のために無線開発を進める音三郎の運命は?
開国から四年、幕府は外国局を新設したが、高まる攘夷熱と老獪な欧米列強の開港圧力というかつてない内憂外患を前に、国を開く交渉では幕閣の腰が定まらない。切れ者が登庸された外国奉行も持てる力を発揮できず、薩長の不穏な動きにも翻弄されて…勝海舟、水野忠徳、岩瀬忠震、小栗忠順から、渋沢栄一まで異能の幕臣そろい踏み。お城に上がるや、前例のないお役目に東奔西走する田辺太一の成長を通して、日本の外交の曙を躍動感あふれる文章で、爽やかに描ききった傑作長編!
ここは、「この世」の境が溶け出す場所ーお針子の齣江が、皮肉屋の老婆トメさん、魚屋の少年・浩三らと肩寄せ合う長屋では、押し入れの奥に遊女が現れ、正体不明の「雨降らし」が鈴を鳴らす。秘密を抱えた路地を舞台に繰り広げられる、追憶とはじまりの物語。巻末に堀江敏幸氏と著者の対談を収録。
病弱な若旦那のために特別に注文された布団から、夜な夜な聞こえてくる泣き声の正体(「四布の布団」)、のっぺらぼうの同心のもとに持ち込まれてきた、奇妙な女からの訴え(「あやかし同心」)、「百物語」の場に来た少年には、可愛らしい少女の姿をした神様が憑いていた(「逃げ水」)など、妖怪や怪異を扱った時代小説アンソロジー。平成を代表する豪華女性作家陣の魅力が味わえる珠玉の短編六作を収録。
金なし、地位なし、才能なしーなのに、幸せな男の物語。時は明治39年。業界紙編集長を務める宮本銀平に、母校・一高野球部から突然コーチの依頼が舞い込んだ。万年補欠の俺に何故?と訝しむのもつかの間、後輩を指導するうちに野球熱が再燃し、周囲の渋面と嘲笑をよそに野球狂の作家・押川春浪のティームに所属。そこへ大新聞が「野球害毒論」を唱えだし、銀平たちは憤然と立ち上がるー。明治球児の熱気と人生の喜びを描く痛快作。
幕末の木曽山中。神業と呼ばれるほどの腕を持つ父に憧れ、櫛挽職人を目指す登瀬。しかし女は嫁して子をなし、家を守ることが当たり前の時代、世間は珍妙なものを見るように登瀬の一家と接していた。才がありながら早世した弟、その哀しみを抱えながら、周囲の目に振り回される母親、閉鎖的な土地や家から逃れたい妹、愚直すぎる父親。家族とは、幸せとは…。文学賞3冠の傑作がついに文庫化!
大阪の工場ですべてを技術開発に捧げた音三郎は、製品化という大きなチャンスを手にする。だが、それは無惨にも打ち砕かれてしまう。これだけ努力しているのに、自分はまだ何も成し遂げていない。自分に学があれば違ったのか。日に日に強くなる音三郎の焦り。新たな可能性を求めて東京へ移った彼は、無線機関発の分野でめきめきと頭角をあらわしていく。そんなある日、かつてのライバルの成功を耳にしてしまいー!?
時は明治。徳島の貧しい葉煙草農家に生まれた少年・音三郎の運命を変えたのは、電気との出会いだった。朝から晩まで一家総出で働けども、食べられるのは麦飯だけ。暮らし向きがよくなる兆しはいっこうにない。機械の力を借りれば、この重労働が軽減されるはず。みなの暮らしを楽にしたいー。「電気は必ず世を変える」という確信を胸に、少年は大阪へ渡る決心をする。
帆村荘六、半七、フェリシティ、明智小五郎、鬼平、三毛猫ホームズ、金田一耕助、ミス・マープル…。誰もが大好きな名探偵たちが、現代文学の名手13名の筆によって新たな息を吹き込まれた。古今東西の難事件が解決されるばかりではなく、ミステリーのあらゆる楽しみ方を存分に堪能できるアンソロジー。
昭和二十一年、浅草の劇場・ミリオン座に拾われた万歳芸人の善造、活字好きな戦災孤児の武雄、万年映画青年の復員兵・光秀。年齢も境遇も違う三人と財閥令嬢を自称する風変わりな踊り子のふう子は、共同生活を始める。戦争で木端微塵になった夢や希望を取り戻しながら、戦後を生き抜く人々を描く傑作長編。
神業と称えられる櫛職人の父。家を守ることに心を砕く母。村の外に幸せを求める妹。才を持ちながら早世した弟。そして、櫛に魅入られた長女・登瀬。幕末、木曽山中。父の背を追い、少女は職人を目指す。家族とはなにか。女の幸せはどこにあるのか。一心に歩いた道の先に深く静かな感動が広がる長編時代小説。黒船来航、桜田門外の変、皇女和宮の降嫁…時代の足音を遠くに聞きながら、それぞれの願いを胸に生きた家族の喜びと苦難の歴史。
御一新から10年。武士という身分を失い、根津遊廓の美仙楼で客引きとなった定九郎。自分の行く先が見えず、空虚の中、日々をやり過ごす。苦界に身をおきながら、凛とした佇まいを崩さない人気花魁、小野菊。美仙楼を命がけで守る切れ者の龍造。噺家の弟子という、神出鬼没の謎の男ポン太。変わりゆく時代に翻弄されながらそれぞれの「自由」を追い求める男と女の人間模様。第144回直木賞受賞作品。