著者 : 木屋進
安政二年の秋、甲州身延山の盆割りのことから、津向の文吉と武井の安五郎との間に喧嘩が起ころうとしたとき、双方無事に丸く収めたのはいま売り出しの親分清水の次郎長であった。しかし、このために次郎長は凶状旅となり、大政・小政らの子分とも別れ、独り旅に発っていった。不運に見舞われた次郎長であった。兄弟分の見付の友蔵一家に草鞋をぬいだ次郎長は、そこで女房お蝶と子分の森の石松とに出会って驚いた。旅先で苦労する親分次郎長の苦境を救うべく、石松はかつて次郎長に恩を受けた保下田の久六を訪ねた。ところが、久六は次郎長召捕りに向かった。遠州森町生まれの片目の快男子森の石松の最期まで、ベテラン木屋進の筆で痛快な物語が展開する。
元禄四年の早春、天下の副将軍水戸黄門とお供の渥美格之進、佐々木助三郎の三人旅は、奥州路へと向かっていた。-おなじみ水戸黄門漫遊記を描く長編快作。奥州宇多郡中村六万石相馬大膳之亮の城下から、伊達領の一万八千石安房守宗良の領内へと老公の旅は続いていく。各地で老公の裁きによって事件は解決する。一ノ関への山中で三万石一ノ関田村右京太夫の家来脇田新三郎と出会い、真影一刀流牧主水之助の娘お梅との伯もとりもってやった。庄内村で出会った百姓吉右衛門の話から、酒井家の重臣田川新五左衛門の悪事をも老公はみごとに裁いてやった。奥州路の旅から江戸へ戻った三人旅は、次には東海道を京へ上ることになった。老公を待つ次なる事件とは…。
江戸の金さんと呼ばれる金四郎は旗本三千石遠山左衛門尉景晋の嫡子と生まれながらも、弟に家督を譲るためにみずからは市井に隠れ住むべく、ふらりと巷へ出現していた。掏摸仲間に夜桜の姐御と呼ばれるお春は23歳の女盛りであった。そのお春と知り合った金さんは、共に浅草諏訪町の米問屋備州屋三左衛門が和蘭陀金貨を小判に吹替えている悪事の摘発に乗り出した。(第1話「夜桜懴悔」)。粋な美女、辰巳屋のお紺の家に居候を決め込んだ金さんは、橋の欄干にたたずむお店者らしい若者を助けてやった。若者は結城屋惣兵衛の手代新之助と名乗った。結城屋の娘お品とわりない仲になった新之助の危機を、金さんは救ってやることになった。(第2話「伝法恋暖簾」)。“金さん捕物帳”全11話。
大江戸の盛り場、金竜山浅草寺ー俗に浅草の観音さまで親しまれる仲見世通りは仁王門近く、年のころは27か8のおっとりと育ちのよさそうな若侍に、お助け屋の粂三が声をかけた。もちろん、その懐中物をねらってのことだったがすっかり魂胆を見透かされて、子分になることになった。若侍は久世喬之介といい、ある事情により浪人していた。その久世喬之介は腰元風の美女に託された書状を目明かしの絵馬徳親分に届けるべく訪ねたが、絵馬徳は何者かの凶刃に倒されていた。そして、喬之介の前には恐るべき黒覆面の怪剣士が出現した。粂三ともども“お助け屋”稼業を始めた久世喬之介の行く手は…。-根岸藩をめぐる騒動に、颯爽たる十万石の“お助け屋”喬之介の破邪顕正の剣の舞。
織田信長が天下を掌握した天正期、伊賀国の忍者の頭領として君臨していたのは藤林長門と百地丹波の2人であった。しかし、この長門と丹波が実は同一という秘密を探り出した人物があった。その男こそ出羽月山の修験者霧法師の倅、旅の忍者霧隠才蔵であった。その才蔵の背後に、百地忍党中で5本の指に数えられる手錬者、伊賀下忍石川文吾(後の五右衛門)の恐るべき殺刀が迫っていた。呼吸をのむ驚天動地の忍者合戦!そして、その隠し砦と、それを取り巻く迷路の秘密を才蔵に奪われた伊賀忍者の報復は、才蔵の新妻淡雪を奪い去ることであった。淡雪のうえに迫る怪しの忍法“夢殿しばり”、-猿飛佐助も登場。大坂城落城に至るまでくりひろげられる壮烈なる戦国忍法絵巻。
東京浅草一帯のテキ屋の大元締笠松源蔵の跡取り鉄平は、テキ屋渡世を嫌うでもなく、といって松源一家の名跡を継ごうともせぬ、時勢に背を向けた一匹狼のインテリやくざだ。背中一面に散らした朱彫りの桜、人呼んで“朱桜”の鉄平の生まれついてのやくざな血は、一切の非道を許せない。やくざ渡世は“仁義”の2文字が守り本尊!定法破れば血で血を洗う、侠気血潮が煮え滾る。