著者 : 松本清張
辣腕事業家山内定子が創った八王子郊外の結婚式場「観麗会館」は、その高級感がうけて大変な繁盛ぶりだ。経営をまかされている小心な婿養子善朗はある日、口論から激情して妻定子を殺し、死体を会館の名所である「岩壁」に埋め込んでしまう。門出を祝う式場が奇しくも墓場となり、その上空を不吉なカラスが飛び交い、新たな事件が発生する…。河越の古戦場に埋れた長年の怨念を重ねた、緻密な大型長編推理。黒シリーズの最新作。
美大を卒業したばかりの葉子は、憧れの葛山デザイン研究所に入所する。尊敬する鬼才、葛山の下で精一杯、勉強したかったからだ。が、不可解な葛山の言動から、彼の作品のオリジナリティに疑惑をもつ。真実を知りたいという熱い思いにかられ、葛山の周辺を次々に追及する葉子の前にあらわれた意外な真相とはー。常に斬新でなければならない一流デザイナーの苦悩を、華やかな業界を背景に描いた傑作サスペンスロマン。
都心のビル屋上から発見された男の他殺死体。その日偶然聞いた奇妙な電話、誘いに乗って出かけたラブ・ホテルには女の絞殺死体…。大手建設会社専務味岡に仕掛けた罠の奥で北叟笑む人は誰れ?土木建設業界の談合、フィクサー政界との癒着。
マレーシアの高原カメロン・ハイランドの密林に消えた大富豪。その謎を日本・マレーシアの両警察が追ううちに次々と起こる連続殺人。緊張をはらみつつ、事件は意外な結末へと一気に向かう。1967年に起きたタイ・シルク王「失踪」事件を背景に、雄大な構想でまとめあげられた本格長編推理完結。
7500万円の横領金を資本に、銀座のママに転身したベテラン女子行員、原口元子。店のホステス波子のパトロンである産婦人科病院長楢林に目をつけた元子は、元愛人の婦長を抱きこんで隠し預金を調べあげ、5000万円を出させるのに成功する。次に彼女は、医大専門予備校の理事長橋田を利用するため、その誘いに応じるが…。夜の紳士たちを獲物に、彼女の欲望はさらにひろがってゆく。
元子を恨む波子は楢林と別れ、大物総会屋をパトロンにクラブを開く。政治家秘書の安島を通じ、医大の裏口入学者のリストを手中にした元子は、橋田をおどし、一流クラブ、ルダン買取りの仮契約を結ぶ。しかし橋田、安島らの仕組んだ罠が元子を待ち受ける。安島との一夜での妊娠の不安に怯える元子の前には黒服の男たちが…。夜の世界に生きる女の野望を描くサスペンス長編。
私の殺人犯罪の原因は、川倉甚太郎との金銭貸借ということになっている。-金銭のもつれから友人を殺害した男が刑の確定後に、秘められた動機を語る表題作。女性が失踪し、カメラだけが北海道でみつかった。死体は発見されず、容疑者の新進画家には堅牢なアリバイがある。巧みなトリックを生かした『すずらん』など、多彩な魅力溢れる全10編を収録した傑作短編集。
都内の大学病院に勤務する38歳の医局員・住田友吉が、名古屋のホテルで他殺死体となって発見された。手首を切られ、3リットルもの大量出血によって脱血死したのだった。刑事の大塚らの捜査で、住田が匿名で医学界の腐敗を暴く記事を雑誌に寄稿していたことが明らかになる。そして2ヶ月後、第二の殺人がー。目撃証言相次ぐ「赤い髪の女」とは一体何者か。震撼の医療ミステリー。
昌子は九州旅行で知り合ったエリート官僚の堀沢と結婚したが、平穏で空虚な日々ののちに妹伶子と夫の失踪が起こる。死体で発見された二人は果たして不倫だったのか。若手官僚の死の謎に秘められた国際的陰謀。
作家の伊瀬忠隆は雑誌の依頼を受けて「僻地に伝説をさぐる旅」の連載を始めた。第一回浦島伝説の取材地丹後半島いらい、彼の赴くところ常に不可解な謎や奇怪な事件が絶えない。そして突然の連載打切り。この企画の背後に潜む隠された意図の存在に気づいたとき、伊瀬は既に事件の渦中に巻き込まれていた。古代史、民俗説話と現代の事件を結ぶ雄大な構想から生れた本格的長編推理小説。
前任地での仕事の引継ぎに行って来るといったまま新婚一週間で失踪した夫、鵜原憲一のゆくえを求めて北陸の灰色の空の下を尋ね歩く禎子。ようやく手がかりを掴んだ時、“自殺”として処理されていた夫の姓は曾根であった!夫の陰の生活がわかるにつれ関係者がつぎつぎに殺されてゆく。戦争直後の混乱が尾を引いて生じた悲劇を描いて、名作『点と線』と並び称される著者の代表作。
愛人関係にある横武たつ子の病夫を殺したあげく、邪魔になった彼女をも殺害し、その上、共犯者の婦長寺島トヨを手に掛けた戸谷信一は、さらに、自分の欲望を満たすため、次の犯行を決意する。社会的地位をもちながら、その裏で、次々に女をだまし、関係しては金を取りあげ、殺してゆく戸谷。やがて、彼に訪れる意外な破局は…。冷酷非情な現代人の欲望を描く推理長編。