著者 : 柳美里
生まれてすぐに「ひかり公園」に捨てられたニーコ。幸運にもおばあさんに助けられ幸せな日々を送っていました。しかし三度目の春、おばあさんとの別れは突然やってきます。ふたたび公園に戻ったニーコは六匹の子ねこを産みました。そして…。いま、子ねこと、彼らを家族に迎えた人々が奏でる命の物語が幕を開けます。生きることの哀しみと煌めきに充ちた、猫小説の新たな代表作の誕生!
一九三三年、私は「天皇」と同じ日に生まれたー東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのために上野駅に降り立った。そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国を。高度経済成長期の中、その象徴ともいえる「上野」を舞台に、福島県相馬郡(現・南相馬市)出身の一人の男の生涯を通じて描かれる死者への祈り、そして日本の光と闇…。「帰る場所を失くしてしまったすべての人たち」へ柳美里が贈る傑作小説。
誰か私に、生と死の違いを教えて下さいーネットに飛び交う「自殺」「逝きたい」の文字。電車の中、携帯電話を手にその画面を見つめる少女、市原百音・高校一年生。形だけの友人関係、形だけの家族。「死」に魅せられた少女は、21時12分「品川発」の電車に乗り、彼らとの「約束の場所」へ向かうのだが…。居場所のない社会で途方に暮れる少女の、そこにある確かな「生」を描いた傑作。
留守番電話のテープに聞き入る三人の男「声の巣」。決められた役割を忠実に演じる私たち「学校ごっこ」。女の姿をした蛇が私の部屋に住みついて「蛇を踏む」(芥川賞)。家族の頚木から解き放たれたはずなのに「家族シネマ」(芥川賞)。あのとき彼はなぜ人を拝んだのか?「不軽」。足先から滴る水と寝室に現れる兵隊たち「水滴」(芥川賞)。静かに老いゆく妻、友と見た景色「椿堂」。僕が深夜の公園で遭遇した、ある出来事「無情の世界」。現代文学四〇年の試みを眺望するシリーズ第五巻。
東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのため、上野駅に降り立った。そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国をー。構想から十二年、柳美里が福島県に生まれた一人の男の生涯を通じて“日本”を描く、新境地!
蝶の撮影で海外に出かけたきり、10日間も音信不通だった写真家の父が帰ってきた。ひとりで留守番していた12歳の少女・雨は喜びも束の間、右手に火傷を負ってしまう。手当てをしてくれたのは隣室の女性・暁子だった。父との楽しい毎日が戻ったかに見えたが、雨の周りでは奇怪な出来事が次々と起こる。そして、突然現れた実の母親が、雨に衝撃の事実を告げるー。精緻な筆致で家族とは何かを問う幻想ホラー小説。
日本統治下の朝鮮・密陽に生を受け、マラソンでの五輪出場を目指した亡き祖父・李雨哲。そのうしろ姿を追い、路上を駆けることを決意した柳美里。ふたりの息づかいが時空を越えて重なる瞬間、日本と朝鮮半島のあわいに消えた無数の魂が封印を解かれ、歴史の破れ目から白い頁に甦る。偉丈夫の雨哲と美丈夫の弟・雨根。血族をめぐる、ふたつの真実の物語が、いま日本文学を未踏の高みへと押し上げる。
1940年、東京オリンピックは幻と消えた。失意の日々、肌の温みを求める女たちを捨て、雨哲は故郷を去り、一方、娘たちを夢中にする美しい容貌と、兄譲りの健脚に恵まれた弟・雨根は、いつしか左翼運動に深く傾倒した…小説家柳美里が、国・言葉・肉親、すべてを奪われた無名の人々の声に耳をすまし、自身の生につらなる日本と朝鮮半島の百年の歴史を、実存の全てを注ぎ描きあげた傑作。
風俗店が並び立つ横浜黄金町。14歳の少年は、中学を登校拒否してドラッグに浸っている。父親は、自宅の地下に金塊を隠し持つパチンコ店“ベガス”の経営者。別居中の母、知的障害を持つ兄、援助交際に溺れる姉など、家庭崩壊の中、何でも金で解決しようとする父に対し、少年が起した行動とは…。生きることはゲームだと思っていた少年が、信じるという心を取り戻すまでを描く感動的長編。
離婚した妻への未練、やり場のない欲望を抱えながら、マンションの部屋中にタイルを敷き詰める男。金と時間を持て余し、盗聴器に聞き入る老人。タイル貼りの異様な部屋に招かれた女流作家の目の奥で、危険信号が激しく点滅しはじめたー。都会にひそむ狂気と殺意を描きだして絶賛されたホラー純文学の傑作。
「家を建てる」が口癖だった父は、理想の家族を夢みて、本当に家を建ててしまう。しかし、娘たちも、十六年前に家を出た妻もその家には寄りつかなかった。そこで、父はホームレスの一家を家に招き、一緒に暮らし始めるのだが…。第18回野間文芸新人賞、第24回泉鏡花文学賞受賞の表題作のほか、不倫の顛末を通して家族の不在をコミカルに描いた「もやし」を収録。