著者 : 柴田元幸
旅先で見つけた一冊の書物。そこには19世紀にスコットランドの村で起きた悲惨な出来事が書かれていた。かつて彼は職を探して、その村を訪れたが、そこで出会った女性との愛とその後の彼女の裏切りは、彼に重くのしかかっていた。書物を読み、自らの魂の奥底に辿り着き、自らの亡霊にめぐり会う。ひとは他者にとって、自分自身にとって、いかに謎に満ちた存在であるかを解き明かす、幻想小説とミステリとゴシック小説の魅力を併せ持つ、著者渾身の一冊。
『ハックルベリー・フィンの冒けん』てゆうホンヤク本をよんでない人はおれのこと知らない、とはかぎらなくて、そのまえに出たいろんなホンヤク本で知ってる人もおおぜいいるらしいんだけど、まあそのへんはどっちでもかまわない。『ハックルベリー・フィンの冒けん』はシバタ・モトユキさんてゆう人がつくった本で、まあだいたいはただしくホンヤクしてあるらしい。おれはニホンごよめないけど、ともだちのクマダカメキチがそういってた。ところどころゴヤクもあるけど、まあだいたいはただしくホンヤクしてあるとカメキチはいう。べつにそれくらいなんでもない。だれだってどこかで、一どや二どはゴヤクするものだから。(本文より) こんな本ですーー あいさつ ハックルベリー・フィンによる紹介 この本について 編訳著者による紹介 I 『ハック・フィン』入門(構成・執筆 柴田元幸) 1. ハック・フィン』基本情報 ハックルベリー・フィンとは/マーク・トウェインとは/『ハックルベリー・フィンの冒けん』の構成/ 同時代の評価/文学的意義、後世への影響 『ハックルベリー・フィンの冒けん』の構成/同時代の評価/文学的意義、後世への影響 2.『ハックルベリー・フィンの冒けん』の英語 標準でない英語のあたたかさ/ハックが「語った」ものーーと同時に「書いた」もの 3. 『ハックルベリー・フィン』第1章徹底読解 対訳+詳注+〔さらにうるさいことを言えば〕 4. ハック英語辞典 adventureからtroubleまで 5. ハック名場面 厳しい自然/のどかな自然/ハックの葛藤/人間相手の冒険/ジムとハックの珍問答/哲学者ジム II 『ハック・フィン』をどう読むか 1. ハックはどう読まれてきたか T・S・エリオット/大江健三郎/トニ・モリスン/平石貴樹 2. 現代アメリカ作家が語る『ハック・フィン』 レアード・ハント/レベッカ・ブラウン/スティーヴ・エリクソン(書き下ろし) 3.『ハックルベリー・フィンの冒けん』書評 横尾忠則/池内紀/谷崎由依 III 『ハック・フィン』から生まれた新たな冒けん 1. ハックの末裔たち トウェイン自身による続篇/J・D・サリンジャー/ソール・ベロー/大江健三郎/ジョン・シーライ/ ラッセル・バンクス/ジョン・クリンチ/ノーマン・ロック/ロバート・クーヴァー/ カート・ヴォネガット 2. ノーマン・メイラー「ハック・フィン、百歳でなお生きて」 3. ジョン・キーン『リヴァーズ』 IV 『冒けん』に入らなかった冒けん 「ジムのユウレイばなし」 「筏のエピソード」 編著者あとがき
平凡なものが奇怪になる瞬間 職人的に精緻な筆致で、名匠が切り拓く新たな地平。蠱惑的な魔法に満ちた7篇を収録した、最新の傑作短篇集。 翻訳者の柴田元幸氏は、「ミルハウザーといえば『驚異』がトレードマークとなってきたが、この短篇集では(中略)驚異性はむしろ抑制され、ごく平凡な日常生活に小さな異物を(あるいは異者を)挿入することで、日常自体に蠱惑的な魔法を息づかせ、と同時に日常自体の奇怪さを浮かび上がらせている」と、本書の魅力を指摘する。 通りすがりの男がいきなり平手打ちを食わせてくる事件が続発する町の動揺を描く「平手打ち」。放課後も週末もいつも一緒にいる仲の彼女が決して話したがらず、だからこそ僕は気になって仕方ない「白い手袋」。いつのまにか町に現われ、急速に拡大していく大型店舗の侵食ぶりを描く「The Next Thing」。ある日目覚めると、ベッドに横たわり動かぬ自分を見下ろしていた私は、事態を呑み込めないままさまよいだす。やがて出会ったある女性との奇妙な交流とその行方を描く表題作など、どの作品も筆が冴えわたっている。 本書は、優れた短篇集に授与される《The Story Prize》を受賞している。
うらぶれた路地裏が冒険と発見に満ちていた子供時代を叙情豊かに描くデビュー短篇集。夏になるとどこからか現れる行商人の秘密を知った「パラツキーマン」。高架下の廃屋でたくさんの鳥たちと暮らす風変わりな男との邂逅を描く「血のスープ」。少々ネジが飛んでいるけれど子供たちのいい遊び仲間だった「近所の酔っ払い」。人生の岐路に立った少年二人が夜更けの雪の町をさまよう「長い思い」。映画の恐怖が現実に忍び込んできて逃げ惑う少年を描く「ホラームービー」。不思議な生業を営む叔父との奇妙な日々が胸を打つ結末に行きつく「見習い」など珠玉の11篇に、日本版特別寄稿エッセイを収録。
数多の人々に愛された作家、カート・ヴォネガット。彼がその84年の生涯で著した全短篇を、8つのテーマに分類し、全4巻で隔月刊行する第四巻には、「ふるまい」「リンカーン高校音楽科ヘルムホルツ主任教諭」「未来派」テーマの28篇を収録する。解説:柴田元幸
はじめにーー柴田元幸 The Modern Series of English Literature より 身勝手な巨人……………オスカー・ワイルド(畔柳和代 訳) 追い剝ぎ……………ダンセイニ卿(岸本佐知子 訳) ショーニーン……………レディ・グレゴリー(岸本佐知子 訳) 天邪鬼(あまのじゃく)……………エドガー・アラン・ポー(柴田元幸 訳) マークハイム……………R・L・スティーヴンソン(藤井 光 訳) 月明かりの道……………アンブローズ・ビアス(澤西祐典 訳) 秦皮(とねりこ)の木……………M・R・ジェイムズ(西崎 憲 訳) 張りあう幽霊……………ブランダー・マシューズ(柴田元幸 訳) 劇評家たちあるいはアビー劇場の新作ーー新聞へのちょっとした教訓……………セント・ジョン・G・アーヴィン(都甲幸治 訳) 林檎……………H・G・ウェルズ(大森 望 訳) 不老不死の霊薬……………アーノルド・ベネット(藤井 光 訳) A・V・レイダー……………マックス・ビアボーム(若島 正 訳) スランバブル嬢と閉所恐怖症……………アルジャーノン・ブラックウッド(谷崎由依 訳) 隔たり……………ヴィンセント・オサリヴァン(柴田元幸 訳) 白大隊……………フランシス・ギルクリスト・ウッド(若島 正 訳) ウィチ通りはどこにあった……………ステイシー・オーモニア(柴田元幸 訳) 大都会で……………ベンジャミン・ローゼンブラット(畔柳和代 訳) 残り一周……………E・M・グッドマン(森慎一郎 訳) 特別人員……………ハリソン・ローズ(西崎 憲 訳) ささやかな忠義の行い……………アクメッド・アブダラー(森慎一郎 訳) 芥川龍之介作品より 春の心臓……………ウィリアム・バトラー・イェーツ(芥川龍之介 訳) アリス物語(抄)……………ルイス・キャロル(芥川龍之介・菊池寛 共訳) 馬の脚……………芥川龍之介 おわりにーー澤西祐典 附 芥川龍之介による全巻の序文と収録作品一覧
はじまりは一九六七年のニューヨーク。文学を志す二十歳の青年の人生は、突然の暴力と禁断の愛に翻弄され、思わぬ道のりを辿る。フランスへ、再びアメリカへ、そしてカリブ海の小島へ。章ごとに異なる声で語られる物語は、彼の人生の新たな側面を掘り起こしながら、不可視の領域の存在を読む者に突きつけるー。新境地を拓く長篇小説。
それは1914年のうららかな春、プロイセンで撮られた一枚の写真から時空を超えてはじまったー物語の愉しみ、思索の緻密さの絡み合い。20世紀全体を、アメリカ、戦争と死、陰謀と謎を描ききった、現代アメリカ文学における最重要作家、パワーズの驚異のデビュー作。
匠の技巧が発揮された傑作短篇集 「猫と鼠」猫が鼠を台所で追いかけている。鼠はフロアランプを避けるべく二つに分裂し、猫は壁に激突、アコーディオンのように体がひだひだに折りたたまれ、そこから音楽が流れでる。猫は鼠との追いかけっこ、知恵比べで絶対に勝てないと分かっていながら、鼠を捕まえたい欲求がつのるばかり……鼠が赤いハンカチで猫の体を拭きとり、鼠も自らを拭きとりはじめ……。 アニメ『トムとジェリー』の楽しいドタバタを想起させるが、こうしてミルハウザーの手にかかると、息もつかせぬ速い展開と、細部にわたる滑稽かつ残酷な描写に翻弄されてしまう。とうていありえない状況にもかかわらず、「ミルハウザーの世界」に一気に読者を引き込む描写は、さらに凄みを増している。 ほかにも、周囲から無視しつづけられた少女の体が文字通り消える「屋根裏部屋」、バベルの塔をめぐるパロディ「塔」、森の向こうにある町への憧憬「もうひとつの町」、エジソンの助手による偽の日記「ウェストオレンジの魔術師」など。「オープニング漫画」、「消滅芸」、「ありえない建築」、「異端の歴史」の4部構成で、13篇を収録。
★柴田元幸氏がいちばん訳したかったあの名作、ついに翻訳刊行。 ●オリジナル・イラスト174点収録 ●訳者 柴田元幸氏の作品解題付き(2017年、第6回早稲田大学坪内逍遙大賞受賞) 「トム・ソーヤーの冒けん」てゆう本をよんでない人はおれのこと知らないわけだけど、それはべつにかまわない。あれはマーク・トウェインさんてゆう人がつくった本で、まあだいたいはホントのことが書いてある。ところどころこちょうしたとこもあるけど、だいたいはホントのことが書いてある。べつにそれくらいなんでもない。だれだってどこかで、一どや二どはウソつくものだから。まあポリーおばさんとか未ぼう人とか、それとメアリなんかはべつかもしれないけど。ポリーおばさん、つまりトムのポリーおばさん、あとメアリやダグラス未ぼう人のことも、みんなその本に書いてある。で、その本は、だいたいはホントのことが書いてあるんだ、さっき言ったとおり、ところどころこちょうもあるんだけど。 それで、その本はどんなふうにおわるかってゆうと、こうだ。トムとおれとで、盗ぞくたちが洞くつにかくしたカネを見つけて、おれたちはカネもちになった。それぞれ六千ドルずつ、ぜんぶ金(きん)かで。つみあげたらすごいながめだった。で、サッチャー判じがそいつをあずかって、利しがつくようにしてくれて、おれもトムも、一年じゅう毎日(まいんち)一ドルずつもらえることになった。そんな大金、どうしたらいいかわかんないよな。それで、ダグラス未ぼう人が、おれをむすことしてひきとって、きちんとしつけてやるとか言いだした。だけど、いつもいつも家のなかにいるってのは、しんどいのなんのって、なにしろ未ぼう人ときたら、なにをやるにも、すごくきちんとして上ひんなんだ。それでおれはもうガマンできなくなって、逃げだした。またまえのボロ着を着てサトウだるにもどって、のんびり気ままにくつろいでた。ところが、トム・ソーヤーがおれをさがしにきて、盗ぞく団をはじめるんだ、未ぼう人のところへかえってちゃんとくらしたらおまえも入れてやるぞって言われた。で、おれはかえったわけで。 ーーマーク・トウェイン著/柴田元幸訳『ハックルベリー・フィンの冒けん』より
【文学/外国文学小説】ポール・オースターが「簡素で美しい小説」と熱烈に推薦するハントの長編小説。南北戦争時代のインディアナ、愛するひ弱な夫をおいて男に変装して戦場に向かった女性兵士は生き延びられるのか。史実に基づき静かな声で語られる、最優秀アメリカ文学賞受賞作。
男女の複雑怪奇な心理の綾 ミルハウザーが59歳だった2003年に刊行された本書は、匠の技巧を堪能できる、粒ぞろいの中篇集だ。ミルハウザーは、『三つの小さな王国』『魔法の夜』が証明するように、優れた中篇作家でもあるのだ。 売りに出した自宅を女性が客に案内するなかで、思いがけない関係が浮かび上がる「復讐」、官能の快楽に飽いた放蕩児が、英国の貴婦人に心を乱される「ドン・フアンの冒険」、王妃と騎士の不義を疑う王の煩悩、王の忠臣が悲運を物語る表題作を収録。 「木に登る王」では、騎士トリスタンと王妃イゾルデと王の悲劇を傍観しつつ、重要な節目では当事者ともなる王の忠臣トマスの語りが冴える。三角(もしくは四角)関係の当事者・準当事者たるこの三人の心理のさまざまな層が、ミルハウザーならではの律儀な丁寧さでーー意外性を伴ってーー仔細に述べられてゆく。 本書は、「複雑怪奇化した男女関係」というテーマの一貫性が、書物としての統一感を生み出し、三つの中篇作品の累積的な読みごたえにおいて、ミルハウザーのひとつの到達点と言えるだろう。 男女の複雑怪奇な心理の綾、匠の技巧が光る極上の物語!
絵描きの眼に映った、ハリウッドの夢の影で貧しく生きる人々を描いた「いなごの日」。立身出世を目指す少年の身に起る悲劇の数々を描き、アメリカン・ドリームを徹底して暗転した「クール・ミリオン」。グロテスクなブラック・ユーモアを炸裂させて三〇年代のアメリカを駆け抜けて早世したウエスト、その代表的な長編に短編二篇を加えた永久保存版作品集。《村上柴田翻訳堂》シリーズ。
バーと競馬場に入りびたり、ろくに仕事もしない史上最低の私立探偵ニック・ビレーンのもとに、死んだはずの作家セリーヌを探してくれという依頼が来る。早速調査に乗り出すビレーンだが、それを皮切りに、いくつもの奇妙な事件に巻き込まれていく。死神、浮気妻、宇宙人等が入り乱れ、物語は佳境に突入する。伝説的カルト作家の遺作にして怪作探偵小説が復刊。
僕の名はアラム、九歳。世界は想像しうるあらゆるたぐいの壮麗さに満ちていたーー。アルメニア移民の子として生まれたサローヤンが、故郷の小さな町を舞台に描いた代表作を新訳。貧しくもあたたかな大家族に囲まれ、何もかもが冒険だったあの頃。いとこがどこかからか連れてきた馬。穀潰しのおじさんとの遠出。町にやってきたサーカス……。素朴なユーモアで彩られた愛すべき世界。
トム・ソーヤーとハック・フィン、ふたつの冒険を同時収録!ほかにも世界初の指紋捜査小説やコミカルな紀行文など、アメリカ文学の金字塔たる、自由で多才な魅力がたっぷり。
「映画自閉症」の青年ヴィカーは、映画『陽のあたる場所』のモンゴメリー・クリフトとエリザベス・テイラーを、自分のスキンヘッドに刺青している。フィルム編集の才能が買われ、ハリウッドで監督作品を撮ることになるが…。『裁かるゝジャンヌ』、『めまい』、『ロング・グッドバイ』…映画と現実が錯綜する傑作長篇!
過去・現在・未来、時空を超え、“あり得たかもしれない”人生を生き直す女サリーと、サリーに魅せられる男たち。壮大なヴィジョンで描かれる、愛と快楽、自由と隷属を巡る、濃密で哀切なラヴストーリー。