著者 : 柴田錬三郎
武士、庶民の区別なく、季節はめぐり、夏の陽光が江戸にふりそそぐ。『御宿かわせみ』より、俳諧師の死の謎を追う「二十六夜待の殺人」(平岩弓枝)。『隅田川御用帳』より、因業な質屋の隠居を改心させた真相に迫る「ひぐらし」(藤原緋沙子)。夏の記憶と武士の生き様を描く「似非侍」(諸田玲子)。『人形佐七捕物帳』より、永代橋崩落に端を発した転落の物語「夢の浮橋」(横溝正史)。因果はめぐる「怪談累ケ淵」(柴田錬三郎)。江戸の夏、5編を厳選。
孤独感と死の影を漂わせた男・黒田修一郎、35歳。会社を倒産させ自殺を決意するが、社長令嬢・陽子を通し実業界の黒幕・相馬雷太を紹介される。「あんたに1億円使わせてみようかの」!-こうして、黒田は池袋に開店する白丸デパートの宣伝部長として腕を振るうことになった。彼が仕掛けた奇抜な戦略とは…!?個性的な男たちとの攻防、多彩な美女を巡る駆け引き。柴錬現代小説幻の傑作。
奇矯ともいえる、突出した性格の武将たちを描いた短編集。野心に満ち、才知に長けた小西行長が持っていた全く別の側面ー「傀儡」。将軍家の剣術指南役にまでなった剣豪は、なぜ、零落の道をたどったのかー「小野次郎右衛門」。稀代の軍師が稲葉城を奪取した策略を描いた「竹中半兵衛」。など七編。ほかに柴錬小説の秘密の一端を見せるエッセイ「五郎正宗、実在せず」を収録。
「知恵伊豆」こと松平伊豆守は将軍・徳川家光に重用されたが、紀伊大納言徳川頼宣はそれに反抗、幕閣と対立していた、また、浪人取締りに不満を抱いた由比正雪も、ひそかに幕政の変革を企てる。折しも、反乱に揺れる隣国の明からは、日本の援軍を求める密使が来日。それを知った正雪は遠大な構想を立てた…。服部と根来の忍者合戦、剣豪同士の立ち会いなど面白さ満載のエンタテインメント長編。
曹操は長江の北岸に大軍を構えた。これに対し、劉備と孫権の連合軍は南岸に兵を配する。圧倒的な魏軍にも孔明は少しも騒がず、一夜に十万本の箭を作り、さらに季節外れの風を呼んだ。呉の名将周瑜はこれに奮起、曹操の軍に火攻めを敢行。火炎地獄となった赤壁を後に曹操は敗走、許都へと落ちる。激戦相次ぎ、魏、呉、蜀の三国が鼎立することとなった。
時は二世紀末。治世衰えて叛逆の黄巾賊が蜂起、中国大陸は混迷の極にあった。ここに敢然と立上がったのが劉備、字は玄徳である。義兄弟の契りを結んだ関羽、張飛を従えて義勇軍を結成し、賊軍を次次に打ち破る。一方、洛陽では曹操が意気天を衝く勢いで名乗りを上げた。董卓もまた賊軍との抗争の中、勢力を拡大して洛陽制圧をと狙う。壮大なスケールで描く柴錬三国志、開幕。
純白の羽二重を着流し、白柄白鞘の剣をたずさえた美剣士、源氏九郎は、関白より倒幕の資金調達を命じられた。そして密かに徳川家康が隠したという埋蔵金を探し始め、火焔剣、水煙剣の秘密にたどりつき、争いの渦中に入る。九郎に挑む幕府の隠密仙藤鬼十郎、剣の鬼夢現天山らを相手に源氏九郎の秘剣・揚羽蝶が縦横に舞う。
蜀はいま、先帝劉備逝き、豪雄関羽・張飛もいない。しかし軍師孔明は魏の政変を好機と、武力を誇る宿敵を叩き討つべく若き劉禅を奉じ立ち上った。迎えるは大軍率いる名将仲達。二人の知能の限りを尽した壮烈な戦いの火ぶたが切られた。中原に夢を馳せた英雄達の栄光と挫折を雄大なスケールで描く。
大勝か、しからずんば大敗か。蜀の孔明と魏の仲達。自国の存亡を賭け雌雄を決する秋がきた。奇策・鬼謀、虚々実々のかけひきの中、幾度の果敢な死闘を繰り返す。孔明亡き後、蜀の命運を托された若き姜維は遂に最後の決戦に挑む。中国大陸が魏・呉・蜀と三分されて幾歳月、中原に戦い散った英雄達の挽歌。
八代将軍吉宗の治世、陰陽易占が隆盛をきわめ、妖怪変化が跳梁するという江戸市中、さらに胆を潰す面妖な事件が次々と起る。天狗か怪盗・闇法師の仕業か?大岡忠相の懐刀、八の字眉に眇目、おまけに獅子鼻の与力石子伴作と、白面の素浪人、蝋燭ざむらいの推理合戦。奇想天外、一味も二味も違う大岡政談。
放蕩無頼の夫に虐げられ、苦難の道を歩み続けた千代は、突然、激しい殺意につき動かされたー。明治維新前の緊迫した世相を背景に、薄幸の美女の生と死を哀切に描いた表題作をはじめ、板垣退介襲撃事件の犯人の動機に迫る「刺客心中」など、幕末、明治を舞台に展開する短篇6篇。
美作国宮本村の牢人の子に生まれ、父の敵平田無二斎に養育された弁之助は、激しい独習を積んで無二斎に勝ち、宮本武蔵と名乗って武者修業の旅に出る。僧・沢庵の草庵に草鞋を脱いだ青年武蔵は、扶桑第一と称される吉岡道場の当主吉岡清十郎に挑戦した。剣聖でもなく、野人でもなく、ただ剣において勝つことのみにその生涯を費やした兵法者。独自の視点から武蔵を造形する長編。
当主清十郎を失い、さらにその弟伝七郎をも斃された吉岡道場は、一門を挙げて一乗寺下り松での決闘を武蔵に申し入れた。七十余人を敵に回して阿修羅と化した武蔵は、一刀一撃に渾身の殺気をこめて、次々に対手を斬り殺し、ついて勝利をおさめた。再び流浪の旅に出る武蔵。そのころ、武蔵の宿敵佐々木小次郎も、おのが剣名を上げるべく、四尺の長剣を背に、京・大坂を闊歩していた。
紀州山中で、仇敵の鎖鎌の名人宍戸梅軒を破った後、江戸に下った武蔵は、細川家家老長岡佐渡から、同家兵法師範となっていた佐々木小次郎との試合を所望され、九州へ赴く。対決はついに実現した。所は豊前長門の海門・船島。しかしその日、刻限を過ぎても武蔵は姿を現わさない。待つこと一刻、遅参に苛立つ小次郎の眼に漸く、沖合の波にもてあそばれる一艘の小舟が映った…。
京に逗留中に眠狂四郎に、京都町奉行から突然呼び出しがかかった。禁裏から高貴の身分の姫宮が失踪し、その事件の裏には大阪商人が一枚かんでいるという。御所が金のために姫を売った?狂四郎は姫を取り戻しに商人の別荘へ赴くのだがー。他に狂四郎の独白体で進行する「悪女仇討」、行商人の回想で綴る「のぞきからくり」など、文庫未収録作品を集めた眠狂四郎最後の円月殺法。
将軍献上宇治の御茶壷行列にやくざの群が斬り込んだ。虹壷をねらい黒八、闇兵衛の伊賀者が、盗っ人が躍り、浪人者、莫連女、妖尼が躍る…。公家、茶壷、刺青、やくざを結ぶ因縁とは?“和麿さま”と瓜二つ、男っぷりの無宿者、血太郎の忍法“流れ雲”が冴えるー破天荒。妙な人物が織りなす忍法復讐譚。