著者 : 江崎俊平
江戸は黒門町の大店伊勢屋の一人娘お新と浜松屋の一人娘お菊は同い年の十八、近所でも評判の仲よしだった。その一人、お新が奇妙な相対死をとげた。心中の相手は以前から身をもちくずして勘当されていた兄の喜三郎であった。そのことは幼なじみのお菊が証言した。伊勢屋の主人は番頭利吉をいずれはお新の婿養子として身代をゆずる気でいたが、お新にきらわれていることを知る利吉にとっては邪魔な二人、いっそ殺して。動機は充分だ。浜松屋の長屋に住む浪人柊左近は、不審の利吉を洗っていったが、その見込みはみごとはずれた。が、毎日、伊勢屋の居間に人知れず送られてくる不気味な黒十字のついた殺人予告状。事件には三十五年前のどす黒い怨念がこめられていた。はたして事件の黒幕は。
関ガ原の合戦で敗れたはずの石田三成が、白髪の老人として生きていた。玄南斎と名のる世捨て人の老人がそれであった。その玄南斎の子飼いの若者に、青十郎と影法師がいた。江戸神田連雀町の軍学者、張孔堂由井正雪と金井半兵衛の両人が玄南斎のもとを訪ねた。しかし、玄南斎には、正雪らの徳川幕府に対する反逆の企てに加わる気はなかった。江戸城内本丸の厳重な警戒網をくぐって天守閣に忍びこんだ影法師は、家康の木像の首を切ってすてた。影法師の行くえを探索する徳川方忍者の頭領は服部半蔵であった。影法師を恋する吉野屋芳左衛門の娘清野は、春日局に望まれて江戸城大奥へと連れ去られた。男子禁制の大奥へ不敵にも忍びこんだ影法師は、次々に中〓@62E4を犯していった…。
可憐な美女おりょうと、その出生の秘密を秘めるお守袋をねらって暗躍する忍者の群れ。その男の名は、片目の重兵衛という。忍者仲間でその名を知らぬ者ないこの男が、平家の落ち武者村といわれる草深い山中の小屋に隠棲する老忍の三左のもとへと訪ねてきた。その真意はいったい何であろうか…。老忍三左の手元で養われているおりょうは相良遠江守の側室美鈴の産んだ娘であったが、江戸の大名屋敷を荒らし回っていた夜あらし組の首領三左は、かつて相良屋敷に忍び込み、側室美鈴を犯していた。その秘密を知るものは…。
天保七年のころ、大江戸の闇の中で暗躍する隠れ切支丹の一味があった。黒神さまと呼ばれる首領の下に黒衣の忍者刺客団が江戸の町を恐怖のどん底に陥れていた。大伝馬町の太物問屋「桔梗屋」の娘お新を初めとしてつぎつぎに大家の娘たちが黒神さまの手によって掠われていた。六人目に狙われたのが水野家の八重であった。江戸へ戻った女賊女狐のお蝶は、黒神さまの秘密を探るため八重の身代わりに立った。お蝶の父親、目明かしの佐平次が黒神さまに殺されたことを知ったお蝶は、仇討ちのため敢然とこの危難に立ち向かった。島原の乱で滅亡した天草四郎の末孫という黒神さま一党の倒幕の隠謀を阻止するため、西郡伊太郎とその剣友の鬼同心茨三十郎とが立ち上がった。
謀反の挙に出て敗死した由井正雪は、死の間隙に庶子雪之介を逃がし、これに1万両の黄金の隠し場所を秘めた絵図面を持たせてやっていた。絵図面は雪之介から娘お万の手に、そのお万が大番頭も務めた水野左衛門尉の側室となって絵図面の秘密を告白したことから、左衛門尉がそれをかつての上司で寺社奉行などの重職をも務めた青山頼母に告げて絵図面を預けたのだが、左衛門尉は頼母によって放たれた刺客によって殺害されてしまったのだ。左衛門尉とお万の間に生まれた早苗・主馬之介の姉弟はいま頼母の手から絵図面をとり戻すべく苦心するが、老獪な青山一党の凶刀が2人の身に迫る。その早苗姉弟を助けるのは春之介と名のる虚無僧であった。-はたして黄金の謎を秘めた絵図面の行方は…!
越後新発田藩士の加納喬四郎は、父代わりだった兄主膳が青柳伊織に斬られて死んだため、藩を逐電した伊織を追って仇討ちの旅に出た。だが、江戸での浪人暮らしをつづけるうちいつしか仇討ちの気持ちを失っていた喬四郎が遭遇した一つの怪事件とは?それは謎の怪人物“将監”にひきいられる黒頭巾の一党を相手にまわす不思議な事件であった。喬四郎が捜す仇敵の青柳伊織は高田玄蕃と名を変え、18歳の娘小夜と深川の長屋で暮らしていたが、将監一党につけねらわれて市之介という侍とともに殺され、小夜も黒頭巾の手で捕われ、石牢の中に入れられてしまった。玄蕃に恩をうけた怪盗速足の小吉が小夜を助け、また喬四郎も小夜のため将監を追った。-将監の正体ははたして何者であったか!