著者 : 池波正太郎
同心・松永弥四郎は、自身の奇妙な性癖を平蔵の息子・辰蔵に知られ、戦々恐々の日々を送る(「夜針の音松」)。「酒もうまい。肴もうまい」と煮売り酒屋で、上機嫌の同心・木村忠吾。さし向いの相手の顔貌は、眉毛と眉毛がつながっていた(「一本眉」)。ほかに「熱海みやげの宝物」「殺しの波紋」「墨つぼの孫八」「春雪」の全六篇を収録。
人のこころの奥底には、おのれでさえわからぬ魔物が棲んでいるものだー。このところ様子がおかしい老密偵・相模の彦十に、何が起こったのか(「むかしなじみ」)。密偵に盗賊、同心たちの過去と現在を縦横に描き、目が離せない。全七篇を収録。
食い気盛んな同心・木村忠吾の大好物は、深川の一本饂飩。柚子や摺胡麻、葱などをあしらった濃目の汁で食べる。ある日、「同席、かまわぬかしら?」と巨体の侍が忠吾に近づいてきた(「男色一本饂飩」)。老盗人の名人芸とは(「穴」)。全七篇を収録。
明治維新の英傑でありながら、新政府に叛旗を翻した男・西郷隆盛。歴史に大きな足跡を残しながらも、さまざまな謎に包まれたその実像を、盟友や家族といった周囲の人々の目を通して浮かび上がらせた傑作短編集。江戸無血開城に至るまでの勝海舟との交流(海音寺潮五郎「西郷隆盛と勝海舟」)、西南戦争にも従軍した息子・菊次郎から見た父の意外な姿と親子の絆(植松三十里「可愛岳越え」)など、五編を収録。
火付盗賊改方の同心・小柳安五郎は、一昨年、妻と子をうしなった。以来、人が変わったように、われから危難に立ち向かっている。そんな小柳が罪人を逃した胸の内とは(「あきれた奴」)。四十をこえた平蔵の剣友・岸井左馬之助が思い悩む(「あきらめきれずに」)ほか、「用心棒」「明神の次郎吉」「流星」「白と黒」の全六篇を収録。
女密偵・おまさと、かつては本格派の盗賊の首領であった大滝の五郎蔵。二人は平蔵の指示で一つ家に住み、盗賊の見張りを続けるが、その顛末はー(「鯉肝のお里」)。平蔵の愛犬となるクマとの出会いを描く名作(「本門寺暮雪」)ほか、「雨引の文五郎」「泥亀」「浅草・鳥越橋」「白い粉」「狐雨」の全七篇に、エッセイ一篇を特別収録。
舟の上で“隠居”を待ちながら、のんびりと交わす老船頭と平蔵のかけ引きの妙味(「大川の隠居」)。密偵としての任務と、かつて愛した男への思いに揺れるおまさ。じっと見守っていた平蔵が動く(「狐火」)。シリーズ屈指の名作二篇ほか、「礼金二百両」「猫じゃらしの女」「剣客」「盗賊人相書」「のっそり医者」の全七篇を収録。
この年二十の平蔵の長男・辰蔵は、剣術の稽古そっち退けで、女あそびに打ち込んでいる。いまは“芋の煮ころがしのような小むすめ”に夢中だ(「隠居金七百両」)。緩急自在の鬼平の魅力ここにあり。ほかに「雨乞い庄右衛門」「はさみ撃ち」「掻掘のおけい」「泥鰌の和助始末」「寒月六間堀」「盗賊婚礼」の全七篇を収録。
「おなつかしゅうござります」二十余年ぶりに平蔵の前に現われ、「密偵になりたい」と申し出たおまさには、平蔵への淡い恋心と語りたがらぬ過去があった(「血闘」)。鬼平の凄絶な剣技に息を呑む本作ほか、「霧の七郎」「五年目の客」「密通」「あばたの新助」「おみね徳次郎」「敵」「夜鷹殺し」の全八篇を収録。
妻を亡くし、隠居の身であった平蔵の従兄・三沢仙右衛門が突如、茶屋女を「嫁にもらいたい」と言い出した。老父の情熱をもてあました長男に頼まれ、平蔵はその女に会いに行く(「山吹屋お勝」)。後年、著者自身が鬼平ベスト5に選んだ本作ほか、「深川・千鳥橋」「乞食坊主」「女賊」「おしゃべり源八」「兇賊」「鈍牛」の全七篇を収録。
真田幸村の兄にして、“信濃の獅子”と謳われた真田信之。松代藩に善政を敷いた老雄は、九十歳を超えすでに隠居していたが、当主を譲った息子の突然の死をきっかけに、家督相続に頭を悩ませることに。その内紛に乗じ、“下馬将軍”と呼ばれた老中酒井忠清は隠密を使い陰謀をめぐらすが、信之には藩を守るための秘策があったー。巨編『真田太平記』の後日譚にあたる、爽快なる傑作。
楽器を持った黒人が三名漂着した。牢で騒音をたてる彼らに興味を持った殿さまは、日頃嗜む篳篥の奏法を援用しクラリネットでセッションに加わり、やがて…(「ジャズ大名」)。春の夕刻、井戸端で身体を拭う百姓の女房の裸身を覗き見て、思わず突撃した大名は、減封国替の憂き目に遭うのだが…(「晩春の夕暮れに」)。小名から関白・将軍まで、選び抜かれたバカ殿たちが繰り広げる大狂宴。
木綿問屋のひとり娘おまゆは、背たけは6尺、体重23貫の大女。そんなおまゆが契りを交わしたのは掏摸上がりの年下の男、又吉だった。皆に反対されながらも幸せな所帯を持った2人だが、又吉は再び掏摸に手を染めるようになり…(池波正太郎「市松小僧始末」)。ほか、古今の人気作家が勢揃い!江戸の「秋」をテーマにした大人気時代小説アンソロジー。文庫オリジナル!
江戸情緒の残る戦前の下町に生を享けた池波正太郎にとって、娼婦たちは身近な存在であった。昭和三十年代が舞台の本書は、著者には珍しい現代小説であり、その艶笑譚には彼の温かな人間観が見事に表われている。後に著す「仕掛人・藤枝梅安」などの時代小説群にも大きな関わりのある傑作を、ここに復刊。
本所の蕎麦屋に正月四日、毎年のように来る客。彼の腕にはある彫ものがー。(池波正太郎「正月四日の客」)新川の酒問屋で神棚から出火。火元の注連縄にはこよりに包んだ髪が隠されていた。そこに秘められた母子の悲しい思い出とはー。(宮部みゆき「鬼子母火」)他、松本清張「甲府在番」、南原幹雄「留場の五郎次」、宇江佐真理「出奔」、山本一力「永代橋帰帆」と人気作家がそろい踏み!冬を舞台にした、時代小説アンソロジー。
蕎麦切りの名人だったお園は不貞を疑われ、奉公先を追い出されて…(「蕎麦切おその」)。女太夫が本気で惚れた乞食侍は花火造りに打ち込むが(「火術師」)。想いを寄せる下駄屋の倅は彼女の気持ちにてんで気づいてくれず(「下駄屋おけい」)。日本一の刀鍛冶になるべく全てを捨てた男を待っていた悲劇とは(「名人」)。職人たちの矜持が導く男と女の運命ー。きらり技輝る、落涙小説六編を精選。
物のはずみで起きた決闘で相手を斬殺した片桐宗春は、逆うらみによる敵討ちに狙われていた。己の正当のため討たれまいと逃亡に身を窶す宗春だったが、江戸に潜んで町医者として暮らすうちに触れた人情と心意気、肉親の縁にいつしかその心が変わりゆくー。秘密を抱え生きる男の姿を、円熟の筆が描く傑作長編。
ふた月前の夜、池ノ端仲町の日野屋に賊が押し入り、金を奪って逃げた。あるじ久次郎は奉行所に届け出たが、恋女房のおきぬが犯されたことは隠していた。もう忘れようと夫婦が互いにいたわりあっていた矢先、再び同じ賊が日野屋に押し入る…。火付盗賊改方の頭に就任した長谷川平蔵は、神出鬼没の盗賊団捕縛を命じられ、正念場を迎える。「江戸怪盗記」をはじめ、人の世の哀感を滲ませる、「鬼平」の原点ともいうべき傑作捕物帳。
子供の頃から居眠りばかり、けれども女好きなることこの上なく、国家老になってからも「昼行燈」という、あだ名をもらっていた男。柚子味噌をなめながら晩酎をし、妻女と仲よく暮らし、たまさかには出張にことよせて、あまり上等でない遊女たちと、たわむれ遊ぶことに無上の喜びを感じていた男…大石内蔵助という男の足音。