著者 : 津原泰水
十二歳で叔父を殺した。 その罪が、いまになって 現実を、夢を侵蝕してゆく。 亡者たちが〈恐怖〉と〈悪意〉に 分かれ争う羅刹の国の夢を共有する 少女と少年の魂の行方 並ぶ者なき幻視者が 若き日にものした幻の傑作、初単行本化 叔父を殺したことは固く秘しておくべきだった。 自殺するなんてと母が泣き続けるものだから、本当はわたしが崖から突き落としたのだとわかれば、すこしは気が楽になるかと思ったのだ。 震災で妻を失いPTSDに苦しむ叔父との同居に疲弊する家族のために、小学六年生の左右田理恵(そうだりえ)は叔父を殺した。 その四年後、理恵は奇妙な夢を見るようになる。 荒れ果てた灼熱の地で岩蔭と食糧を求める「鬼」の集団。 かれらは二つの勢力に分かたれ争い殺し合うーーその法則を理恵に教えたのは、同じ夢を共有する一人の少年だった。 鬼才の幻視文学の頂点となる幻の傑作、初単行本化。解説=春日武彦・北原尚彦 ■目次 「羅刹国通信」 「続羅刹国報」 「続々羅刹国ーー雨の章ーー」 「続々羅刹国ーー夜の章ーー」 「解説」 春日武彦 「津原国通信」 北原尚彦
四国から東京へ。映画音楽の勉強のため、専門学校に通うことになった修文は、引越し先・風月荘704号室にまつわるある噂を聞く。「出るよ、茲」-久世花音…かつて修文と同じく「音楽」という「夢」を追い続け、ある日、自ら命を絶った3代前の住人の幽霊の話を。“かのん”が影を落とす部屋から始まる、切なく美しい、そして謎に満ちた青春の物語。
「オールタイム・ベストSF」(SFマガジン700号記念企画)国内短篇部門第1位津原泰水の最高傑作短篇を宇野亞喜良が奇跡のヴィジュアル化。Toshiya Kameiによる英訳(初訳)収録。
憧れ。束縛。楽しい思い出。恐怖の記憶。一枚の布が、さまざまなかたちで波風を立てる。九人の人気作家によるスカートモチーフの新作短編集。
富にも人望にも性交能力にも恵まれず、チャイコフスキーを友とし鬱蒼たる公園の管理人として生きる、誰からも羨まれることなき50歳の“わたし”は、ロッカーからまろび出てきた見知らぬ遺体の投棄に失敗し、その冷凍保存に踏み出す。解き放たれた心的外傷が次々に姿を成して管理所を訪れ、恥辱の記憶は踊り、煩悩の連鎖は矮小な舞台を無限の煌めきへと砕き尽くす。著者が20世紀に遺した、文学史上有数に奇妙で、物悲しく、諧謔に満ちた理想宮。
黄昏の東京ー。鞠谷雛子は、周防馨は、電柱の陰の、交差点の向こうの、ふとした廃墟の様相に“死者”を見る。東京の街で“死者”が増殖し始めたのは、CRISISのヴォーカリストにして両性具有と噂された、美しくも妖しいチェシャが自殺してからのこと。“死者”たちが引き起こす恐怖は臨界へと達し、やがて世界はあまりにも絶望的な相貌を見せ始めるー前世紀末、読書界を震撼させた津原泰水の更始作、ついに復刊。
「人間創りに参加してほしい。不気味の谷を越えたい」ヒキコモリ支援センター代表のカウンセラーJJは、パセリ、セージ、ローズマリー、タイムという、年齢性別さまざまな4人の引きこもりを連携させ、あるプロジェクトを始動する。疑心に駆られながらも外界と関わろうとする4人だったが、プロジェクトは予想もしない展開を見せる。果たしてJJの目的は金か、悪意か、それとも?現代最高の小説家による新たな傑作。
出版社勤務の柳楽尚登(27)は、社命で足を運んだ吉祥寺の家族経営の立ち飲み屋が、自分の新しい職場だと知り愕然とする。しかも長男で“ぐるぐる”モチーフを偏愛する写真家・雨野秋彦(28)は、店の無謀なリニューアルを推し進めていた。彼の妹・梓の「上手く行くわけないじゃん」という嘲笑、看板娘・剛さんの「来ないで」という請願、そして三重の養殖場で味わう“本物のエスカルゴ”に、青年の律儀な思考は螺旋形を描く。心の支えは伊勢で出逢ったうどん屋の娘・桜だが、尚登の実家は宿敵、讃岐のうどん屋でー。
ヒキコモリ支援センター代表のカウンセラー竺原丈吉(JJ)は、いつも度の入ったサングラスを掛けて場当たり的に喋る、実に胡散臭い男だった。あるとき彼はネットを介して顧客たちを連携させ、アゲハ・プロジェクトを始動する。「人間創りに参加してほしい。“不気味の谷”を越えたい」。当惑するヒッキーたちの疑心は、“Jellyfish”を名乗る謎の暗鬼を生み、やがて計画は世間を騒がす事件へと発展していく…。JJの目的は、金か、カウンセリングか、たんなるヒマ漬しか?そして、ジェリーフィッシュの正体とはー。
相も変わらず「豆腐」で結ばれた仲の「おれ」こと猿渡と小説家の「伯爵」。名物を求めてはるばる出向いた先には、なぜかいつもこの世ならぬ不思議な出来事が待ち受ける。火を発する女、カメラに映らない友、運命を知らせる猫。二人の珍道中はどこへ向かうのか。幻想怪奇譚×ミステリ×ユーモアで人気の幽明志怪シリーズの第三弾。新作短篇を加えてついに完結。
百年に一度生まれ、未来を予言するといわれる生き物「くだん」。鬼の面をした怪物が「異形の家族」に見せた世界の真実とは(「五色の舟」)-各メディアでジャンルを超えた絶賛を受け、各種ランキングを席巻した至極の作品集がついに文庫化!津原泰水最高傑作短篇との呼び声が高い「五色の舟」を始め、垂涎の11篇を収録。文庫版オリジナル、著者による自作解題も併録。
レオが、アルコール依存症に陥っていることが発覚した。ギタリストを失った“爛漫”は、新たな形態を取り、存続することに。そのような中、岩倉理が、向田くれないの出生について、語り始めたー。それぞれの音楽を求め、彼らはもがき続ける。そして、真犯人“オープンD”が遂にその全貌を現す。ロックバンドよ、永遠なれ!エンターテインメントに新たな地平を拓く年代記。完結篇。
時は昭和三年ー。名探偵唐草七郎の一番弟子にして閨秀の探偵・岡田明子のもとに舞い込んだ摩訶不思議な依頼。「三姉妹を探して下さい。三人とも左の耳に一粒の琉璃玉が嵌った、白金の耳輪をしています」阿片窟の女傑、女掏摸、男装の麗人、旅芸人一座、変態性慾の男、老刑事、放蕩の貴公子…奇想天外、百花繚乱!幻の探偵小説が奇才の筆でいま蘇る!大発見を語った「尾崎翠フォーラム講演抄録」併録。
口紅を塗られたリカちゃん、髪が伸びる市松人形、伝説の作家が手掛けた昭和30年代のマネキンー素人同然の店主・澪、縫いぐるみの天才・冨永くん、わけあり熟練職人・師村さんーお店は本日も営業中!好評シリーズ第二弾。
ベーシスト板垣史朗は、ライヴに乱入した暴漢の凶刃から岩倉をかばい、全治二ヶ月の傷を負った。ほぼ回復した彼の病室に、元メンバーのレオ、圭吾、鋭夫とくれないが集まる。そこで、マネージャー鵜飼が「ある青年を加入させ、爛漫を再生したい」と提案。史朗と鋭夫は反発する。ロックバンドの復活をめぐる、それぞれの想い。そして、新渡戸利夫殺害事件も新たな貌を見せはじめる。
祖母の形見の零細人形店を継ぐことになったOL澪。押しかけアルバイトの人形マニア、冨永くんと謎の職人、師村さんに助けられ、お店はそこそこの賑わいを見せていた。「諦めてしまっている人形も修理します」という広告に惹かれ、今日も傷ついた人形を抱えたお客がやってきて澪たちは東奔西走することに。チームワーク抜群の3人の活躍が始まる。
頑迷な男を襲う白昼夢。(「夕化粧」)人形作家の恐るべき新作。(「ピカルディの薔薇」)鳥を彩る伝説の真相。(「籠中花」)饒舌に語られる凄絶な食。(「フルーツ白玉」)稲生武太夫伝説への硬質なるオマージュ。(「夢三十夜」)未来を覗ける切符の対価(「甘い風」)猿渡の祖父が見た彼の幻の都。(「新京異聞」)江戸川乱歩、中井英夫の直系が紡ぐ、倦怠と残酷の悲喜劇。
水没都市Q市の沖合に浮かび、シーチューブで本土と繋がれた巨大人工島「アクアポリス」。スーパー・サイエンス・スクールに通うタイチの前に、「J」と名乗る女設計士が現れ、突如「きみは濡女を見たはずだ」と告げる。年齢も国籍も不詳のこの女は、みずからを蘆屋道満の末裔、そしてアクアポリスの守護者であると称したー。愛する街を守るため、少年は立ち上がる決意をする!ジャンルミックスの奇才が放つ衝撃のビルドゥングスロマン。