著者 : 田中倫郎
デュラスが、自らの創造力のなかからつくりあげた「白骨の西洋」-海と空にひらけた、砂と風の町、S・タラ。「海」であり「死」であるこの町を舞台に、「旅人」や妊娠した狂女といった名前のない登場人物が繰り広げる物語は、デュラス文学の極北であると同時に、『ロル・V・シュタインの喪心』『副領事』と同じ背景をもち、その世界の核となるものである。
凍てつくような冬の夜、数千年の重みを背負わされた架空の町シュタットを舞台に、四人の登場人物が直面する、死刑執行という極限のドラマ…。デュラスが寓意と象徴の技法を駆使して、六八年五月革命の衝撃を、離散の民の自立性を保ったまま普遍的な存在にたどりつけるのか、というユダヤ人の悲劇的な問いかけに重ね合わせるように描き出した問題作。
人体の多くの断片が、ほとんどフランス全土にわたって、さまざまな貨車の中から発見された。被害者は極度の肥満体の女性、そしてこれらの断片を運んだ列車は同一地点ーヴィオルヌの陸橋を通過していることが判明した。だが、いまだに頭部のみは発見されていない…。デュラスが実際の事件に取材し、十年の歳月をかけて結実させた「狂気」をめぐる凄絶な物語。
“1980年の夏のことだ。風と雨の夏。グダニスクの夏。泣いていた少年の夏。わたしたちの物語の夏。”デュラスと年若い恋人との間に紡がれる夢。『北の愛人』につづくデュラスの最新作。
スペインへの旅の途上、運命の夏の一夜、人妻マリアは、夫ピエールとその若く謎めいた恋人クレールへの嫉妬に身もだえながら、幼い妻をその手にかけた殺人犯ロドリゴ・パエストラと悲劇的な邂逅を遂げる…。デュラスが、血と悦楽の国スペインを舞台に、それぞれ狂気を秘めた四人の男女の愛のかたちを流麗な筆致で描き切ったフランス文学の秀作、待望の文庫化。
狂人たちが集うホテルの1室を舞台に4人の登場人物が繰り広げる言葉の極限状況。やがて明らかにされる放浪の民の悲劇、18歳の少女の内に秘められた凶暴な野性の目覚め…。「『破壊しに』には10通りの読みかたがある」とデュラス自身が語るように、本書は小説とも戯曲とも映像作品ともつかぬ、一種異様な〓@50FCりに満ちた破壊と無秩序への呼びかけである。
本書は、作家デュラスの真の処女作というべきものであり、のちに『愛人』『北の愛人』とともに、深化・発展させられてゆく仏領インドシナでの自らの少女時代の体験を素材としたデュラス流の「失われし時を求めて」をかたちづくる傑作である。
“愛は、実現の不可能性によって育成されてゆく”登校拒否の天才少年エルネストが体現する神の不在、静かなる絶望…。旧約聖書に触発されたデュラスの最新ロマン。フランスで大ベストセラー。デュラスの最新話題作。
冬の午後にさす一条の斜めの光-。大伽藍にひびく重厚なしらべのように光が胸をふたぐ。孤高の詩人エミリー・ディキンスンをモデルにデュラスがつづる、愛することと書くこと、そしてしのびよる死をめぐる物語。最愛の息子への“遺書”とも思えるデュラスの最新ロマン。
ノルマンディーの海辺。こよなく美しい夏の宵。ホテルのロビーに若い外国人とその恋人が現われる。彼らを偶然見かけて強く惹かれた男がいた…。デュラスが死ぬまで愛していく男に捧げた、ベストセラー『愛人』につづく最新ロマン!