著者 : 田中小実昌
直木賞受賞作「ミミのこと」を含む名短篇集 病気や飢餓をともに乗り越えた戦友・朝日丸と〈ぼく〉。戦後、朝日丸は浪曲師として有名になり、11人の原爆孤児たちを引き取って新聞にも載るがーー。 「浪曲師朝日丸の話」と、耳が不自由で売春を生業としていたミミとの切ない純愛を描いた「ミミのこと」という第81回直木賞受賞作を中心に、夜の生活を拒否し、周囲にまったく気を使わない悪妻に嫌気がさして、かいがいしく世話を焼いてくれる女性との再婚を決意するが、その彼女が作った味噌汁の味に失望する「味噌汁に砂糖」、私小説的要素が強い表題作「香具師の旅」など、軽妙なタッチのなかにノスタルジーと深みを詰め込んだ珠玉の短編集。
濃密な血の呪縛、中上文学の出発点「岬」(芥川賞)。男と女と日常の不穏な揺らめき「髪の環」。不幸の犠牲で成り立つもの「幸福」。流される僕の挫折と成長「僕って何」(芥川賞)。言葉以前の祈りの異言「ポロポロ」。垢の玉と生死の難問「玉、砕ける」。少年を襲う怪異の空間「遠い座敷」。文学は何を書き試み、如何に表現を切り拓いてきたのか。シリーズ第一巻。
「どんなに、おれのまわりを見まわしても、見なれたものばかりだ」。米軍基地の化学研究所に勤める男が、朝起きてから夜寝るまでのことを書き出してみようと思い立つ。家での朝食、通勤風景、米兵たちとのやりとり、時間を盗んで翻訳している小説…何のへんてつもない日常の出来事が一体となって、類例のない小説が誕生した。
ぼくはいきなりジョージという名前にされてしまった。横田基地での奇妙な日々。朝鮮戦争のさなか横田基地に通訳としてつとめはじめたぼくは、不思議にのんびりした奇態な日日を送る。横浜で港外荷役の募集に応じるといきなり仁川の沖合に連れていかれた友人。牛浜の西部劇風のバラック呑み屋や新宿御苑のそばのドヤでの大騒ぎ。現在と過去を交錯させながら、ユーモア溢れるタッチで軽妙に描く自伝的小説。