著者 : 町屋良平
京、青澄、土、しき。高校で4人は出会い、恋に落ちた。身体が発熱し、恋愛のぜんぶを出し尽くしてしまった。あの事件が起こるまではー。あれから15年。歪な力関係の社内恋愛をつづける「京」、娘を家庭に縛り付ける毒親から離れられない「青澄」、貧しい大家族のなかで育った「土」、両親の死から心身に不調をきたし社会との接点を失った「しき」-「あけましておめでとう!久しぶり。みんなどうしてる?」大晦日に送られた京からのメッセージが、どん底のいまを動かしはじめる。
ころす側の論理、ころされる側の論理。元同級生あべくんからのメールにあった文章から着想したシーンをつないで、商業作家はあべくん自身の人生を小説にしようとする。父による母殺傷事件、両親がころしころされていたあべくん…。暴力で愛撫し合い痛みをこらえるようによろこぶ身体たち。物語にかえろうとするから人生はつらく、日常が重すぎてひとをころしたくなる。恋人をころして自分も死んだところで折り返し、物語は無限に再生を繰り返す。小説家があべくんなのかあべくんがかれなのか、やがてふたりの境界は曖昧になり、問い自体が意味を失う。
高校生の毅は詩を書いているが、全く評価されていない。一方、親友のあたるの小説には多くのファンがいて、新人賞の最終候補にも残っている。しかも、あたるは毅が片想いしている女子と付き合っていて、毅は劣等感でいっぱいだった。ある日、小説投稿サイトにあたるの偽アカウントが作られる。「犯人」を突き止めると、それはなんとあたるの作風を模倣したAIだった。あたるの分身のようなAIが書く小説は、やがてオリジナルの面白さを超え始め…。あたると違って、おれに才能はない。だけど友だちのために、最後に、書きたいー芥川賞作家が文学にかける高校生を描くエンタメ青春小説。
おれは音楽の、お前は文学のひかりを浴びて、腐ろう。ゾンビになろう。なんとなく音大を中退した、ぼく。魔法のようなピアノを奏でる同級生。その彼女に、ぼくは恋をしている。才能と絶望と恋と友情をめぐる青春小説!
日常の中にも、一瞬先のカタストロフ。自我の輪郭があやふやなぼくは、愛と生活を取り戻せるのだろうか。交錯する優しい感情。新しい関係の萌芽を描く、パラレル私小説3部作。芥川賞作家の新境地。
ボクサー志望のおれは、友達のハルオから「もう長くない」という彼女・とう子の見舞いへひとりで行ってくれと頼まれる。ジムでは才能あるボクサー・梅生とのスパーを重ねる日々。とう子との距離が縮まる一方で、夫子のいる恋人・夏澄とは徐々にすれ違ってゆくが…。第53回文藝賞受賞の表題作に加え二編の短篇、マキヒロチ氏によるマンガ「青が破れる」、そして尾崎世界観氏との対談を収録。
デビュー戦を初回KOで飾ってから三敗一分。当たったかもしれないパンチ、これをしておけば勝てたかもしれない練習。考えすぎてばかりいる、21歳プロボクサーのぼくは自分の弱さに、その人生に厭きていた。長年のトレーナーにも見捨てられ、現役ボクサーで駆け出しトレーナーの変わり者、ウメキチとの練習の日々が、ぼくを、その心身を、世界を変えていくー。第160回芥川賞受賞作。
特技ナシ、反抗期ナシ、フツーの高校二年生・星崎。「かれ」が夜の公園でひとり動画を流して練習する“テトロドキサイザ2号踊ってみた”。夢もなければ特技もない、クラスの人気も興味ないーそんなある日、河原で暮らす友人・つくもから子どもができたと打ち明けられて…。