著者 : 白石一文
「ほかならぬ人へ」「翼」「火口のふたり」--愛の本質を問い続ける名手が贈る、これが最新型、衝撃の物語(メッセージ) 09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、10年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞し、 数々の話題作を放ってきた白石一文による書き下ろし長編小説! === 人口が爆発的に増え、「代替伴侶法」が施行された近未来。 伴侶を失い精神的に打撃を被った人間に対し、最大10年間という期限つきで、 かつての伴侶と同じ記憶や内面を持った「代替伴侶」が貸与されることとなった。 それは「あり得た夫婦のかたち」を提示すると同時に、愛の持つ本質的な痛みを炙り出すことともなったのだったーー。 「自分が十年後に死んでしまうことなんて、ゆとりを失うことに比べたら何でもなかった。僕にとって何より恐ろしいのは、ゆとりの死であり、そのあと二年間も彼女の存在しない世界で生きなくてはならないということだったんだ。」 === 不妊で悩んでいた隼人とゆとりの夫婦。ある日、ゆとりは隼人に別の男性との間で妊娠したことを告げ、隼人の元を去ってしまう。 失意の隼人は「代替伴侶」の貸与を人権救済委員会に申請し、それ以後隼人はゆとりの記憶を複写された「代替伴侶」と生活を共にする。 ところが、今度は隼人が「代替」のゆとりの許を去ることになる。すると「代替」のゆとりはなんと隼人の「代替伴侶」を申請し、それが委員会に認められてしまう。こうして元の夫婦二人の関係は破綻したが、代わりに「代替」同士が共に仲睦まじく暮らすという皮肉な状況が出来する。そもそも「代替」の二人には、自分たちが「代替」であるという自覚が持てないようにプログラミングされているのだ。 その様子を見ながら生身の隼人とゆとりは、あらためて自らの夫婦のかたちが当初から大きく変質してしまったことを思い知り衝撃を受ける。 「代替」の二人の関係は、あり得た未来の、もうひとつの自分たちの姿なのだ。 そして「代替伴侶」には、始動から10年という期限が設定されていた。まず「代替」のゆとりが死を迎えた瞬間に、生身の隼人はある決意をするーー。
「どんなにかなしいことがあっても、本当にかなしむ必要はない。この世界に悲劇なんてものは存在しないんだから。」89歳までの健康長寿を保証する夢の装置Timerを開発し、失踪したサカモト博士が残したメッセージにはどんな意味があったのか?装着したTimerの消滅日=死を目前に、カヤコは突然、「博士を捜し出し、Timerの秘密が知りたい」と言い出した。その時限設定を解除した者は不老不死になるという噂もある。彼女の真意は不明だが、僕は同行を決めた。年老いて夫婦二人きりになった今、カヤコの死は、僕の死だった。健康長寿を保証する世紀の発明“Timer”。なぜ開発者は消えたのか?装着したTimerの声に導かれ、余命わずかの老夫婦は、禁断の地へ向かう。“死”の果てを描いた異次元の衝撃。人類究極の問いを突破する白石文学の新たな代表作誕生!
野々宮志乃はスーパーの人気商品を盗み、万引きGメンから声をかけられる。咄嗟に志乃は、店の駐輪場にいた箱根勇に、「あなた」と夫のごとく呼びかけた。勇は反射的に夫婦を装い、志乃を助けて…。夫に先立たれた四十代販売員の志乃と、不倫が原因で離婚した五十代会社員の勇。親しげな言葉を交わすようになったふたりは、断ち切れぬ絆を感じる。傷を抱えた大人たちが辿り着いた場所とはー。夕暮れを染める一瞬の不思議な輝きが、ふたりを結び付けて離さない。成熟した男女が行き着くのは、後悔か、希望か。至高の愛を描く恋愛小説。
人は絶対に死ぬ。生き方は選べても、死に方は選べない…のだろうか?介護に疲れて次々と男を買う女、妹の夫との際どい週末のひととき、両親・祖父母が遺した消えない禍根、忘れ得ぬ男との別離と心に刻まれた深い傷跡。そして、死にゆく男が示した奇妙な交換条件…。いくつもの人生が響き合い、絡み合う。そして物語は、衝撃のラストへ。人生と世界の営みの深淵を追い続ける作家が到達した、新たな極点。
スーパー「パリット・ストア」の惣菜部新入社員、銚子太郎は窮地に立たされていた。発注ミスで野菜サラダのパックが100個も届いてしまったのだ。困り果てる太郎だったが、ベテランパート久世さんの「サラダ記念日を絡めたポップをつける」という名案に救われる。それをきっかけに久世さんと仲良くなった太郎は、ある日、屋根から降りられなくなった猫を助けるために、空中を飛行する久世さんを目撃してしまうー。現代最強のストーリーテラーが贈る一気読み小説!
既婚者の子供を身ごもり、世をはかなむ糸杉綾音。セスナ機事故で九死に一生を得てから、人が変わってしまったスーパーヤオセーの会長・高岡泰成。どこにでもあるようで、特別なそれぞれの人生に見え隠れする「空を飛ぶ人間」の存在。やがて、空を飛ぶ彼らには「私塾で松雪先生の最終講話を受けた」という共通点が浮かび上がってくるー。
男は、どん詰まりの場所にいた。大学生だった娘の交通事故死。自殺未遂の隘路から抜け出せない妻。あれを試すしかないのかー。高校時代、失意のうちに目にした一枚の絵。そのあとに訪れた不可思議な出来事。40年ぶりにその絵の前に立った男は、気が付けば娘の交通事故が起こる直前の三軒茶屋の交差点にいた。
ある日、名香子は夫の良治に連れられ、都立がんセンターに行った。肺がんの診断を受けた良治は、好きな人ができたのでその人と治療をすると一方的に告げ、その場を立ち去った。呆然とする名香子だったが、事態は“蝶の羽ばたき”のように思いもかけぬ方向へと進んでいくのだった。コロナ禍の家族小説。
小説家の前沢倫文が恋人の英理と暮らす新宿区の総戸数千三百戸のタワーマンション、ファウンテンブルータワー新宿で、米露中の要人が立て続けに不可解な死を遂げた。しかも現場には、白い幽霊の目撃情報が…。死の謎を追うため、マンション内を偵察する倫文は、マンションに秘められた驚愕の事実に辿り着く。六千五百五十万年前の再現を狙った壮大な企みの正体とは?
勤めていた出版社の上司、同僚、小説家の父、担当編集者。これまで誰にも明かすことのなかった彼らとの日々を反芻すればするほど、私は自問する。私は、書くために彼らと過ごしていたのか。そして、最愛の女性・ことり。妻と正式に離婚することができていない私は今、ことりと生活している。しかし、ことりの母親の病気がきっかけで、私たちは別居生活を余儀なくされる。そしてある日を境に、私はことりへの猜疑の念に囚われてしまったー。神に魅入られた作家が辿り着いた、究極の高み。
昔の男が住む京都で、美しい恋人はどんな反応をするのだろうか。悪意のサプライズ旅行を企画した29歳出版社勤務の「僕」は、関係を持つ三人の女性の誰とも深く繋がろうとはしない。理屈っぽく嫌味な言動、驚異の記憶力の奥にあるのは、絶望か渇望か。切実な言葉たちが読者の胸を貫いてロングセラーとなった傑作。
順風満帆な会社員人生を送ってきた大手食品メーカー役員の芹澤は、三歳で命を落とした妹を哀しみ、結婚もしていない。ある日、芹澤は元部下の鴫原珠美と再会し、関係を持ってしまう。しかし、その情事は彼女が仕掛けた罠だった。自らの運命を変えた珠美と会い続けようとする芹澤。彼女との時間は、諦観していた彼の人生に色をもたらし始めるー。喪失を知るすべての人に捧げるレクイエム。
異変が始まったのは、三年ほど前のことだった。作家・姫野伸昌は妻・小雪の「死」を境に、酒浸りの生活を送っていた。突如身の周りで起き始めた不可思議な現象は、やがて自身の肉体にも及び始める。ある朝、右足のかかとが透明になっていたーそれからは次々と、身体のあちこちがプラスチック化し、脱落し始める。これはいったい何を意味するのか!?「作家として忌むべき安定」を選択した故の、あるいは小雪の「死」から酒に逃げたことへの痛烈な報復だろうか。そもそも、愛妻・小雪は何故亡くなってしまったのか。過去を探す壮大な旅に出た姫野は、自身の記憶とことごとく食い違う数々の証言に頭を抱える。何が事実なのだろうか。またそもそも、事実を事実たらしめているものとは一体何かー。
国際的に著名な作家だった兄が謎の死を遂げた。古賀純一は兄の遺品の中から随筆原稿を発見する。我が家の歴史を綴ったその文章は、なぜか古賀の記憶とは大きく食い違っていた。奇妙な遺書、差出人不明のメール、新興宗教団体…。兄の死の真相に迫る古賀の前に次々に現れる謎。一族の記憶に導かれるように、物語の舞台は海を越え、イギリスへ。全ての謎が一つの像を結ぶとき、予想だにしない圧巻のラストが立ち現れる!
恋人の家に転がり込んできたのは、とっくの昔に離婚したはずの彼の元妻だった。ひとつの場所にとどまることのできない女の存在が二人の関係を変える(「夜を想う人」)。一度は別れを選び、それぞれが新しい伴侶を見つけ、子供も授かった元夫婦の約束とは(「二人のプール」)。裏切りに満ちたこの世界で、信じられるのは私だけ?平仮で幸福な愛の“嘘”に気づいてしまった男女を繊細な筆致で描く六篇。
友人の生死を決める衝撃的な現場で霧子が出会った黒ずくめの男。彼は修羅場をよそに、消えるようにいなくなってしまった。後日、霧子は男に再会し、徐々に魅かれていく。彼の名は椿林太郎。学習障害児の教育に才能を発揮し、本気で世界を変えようと目論む、抜群に優秀な小学校教師。人は彼のことを「神の子」と呼ぶ。しかし、彼にはある大きな秘密があって…。生への根源的な問いを放つ傑作長編。