著者 : 石川達夫
作家自身が見つめ、経験した、ナチスのチェコ侵略、「プラハの春」の挫折、そして「ビロード革命」。それら歴史の大きな出来事についての語りは、しかし奔放に、自在に逸脱し、メランコリーとグロテスクとユーモアがまじりあう中に、 シュールで鮮烈なイメージが立ち上がってくるーー 20世紀後半のチェコ文学を代表する作家、ボフミル・フラバルの傑作短編集。 魔笛 沈める寺院 公開自殺 幾つかのセンテンス 競馬の競走路での三本足の馬 グレイハウンド・ストーリー 「ホワイト・ホース」 十一月の嵐 人間の鎖 ぎりぎり
クンデラ、カフカをはじめ、数々の特筆すべき作家を生んだ中欧は、大国ロシアとドイツに挟まれ、この100年間に最も激しく地図が書き換えられ続けてきた地域にほかならない。多言語・多民族の複雑さと、常に介入され「歴史になれない歴史」をもつ不条理さは、しかし、中欧の詩学に比類なき輝きを与えた。抵抗の時代に中欧文化の本質を見つめた著者が、実存の痛みを結晶させた珠玉のエッセイ。日本語版のための書き下ろしも収録! 訳者序 「想像の共同体」としての中欧 ──トランスナショナリティーとマージナリティー ── まえがき──円卓の中欧 第 I 章 中欧の困難さ──アネクドートと歴史 第 II 章 実存の困難さ──神話とチェコ文学 第 III 章 第一次共和国の困難さと希望──概念と社交生活 第 IV 章 亡命の困難さ──逃走する知識人 第 V 章 文学の困難さ──物語と歴史 あとがき──アルマリウムと、もう少しの言葉 訳者あとがき 人名索引
狂った時代だったけれど、私たちにはジャズがあったーー 圧政下のチェコで歌いあげられた二つの伝説「エメケの伝説」「バスサクソフォン」は、ナチスもソ連も憎悪した音楽・ジャズにのせて、満ち満ちる閉塞感のなかで、生がはかなくもきらめく一瞬をとらえる。 ジャズに憑かれた作者の回顧エッセイ「レッド・ミュージック」併録。 レッド・ミュージック エメケの伝説 バスサクソフォン 訳者あとがき(石川達夫)
20世紀チェコを代表する作家ボフミル・フラバルの代表的作品。 ナチズムとスターリニズムの両方を経験し、過酷な生を生きざるをえないチェコ庶民。その一人、故紙処理係のハニチャは、毎日運びこまれてくる故紙を潰しながら、時折見つかる美しい本を救い出し、そこに書かれた美しい文章を読むことを生きがいとしていたが……カフカ的不条理に満ちた日々を送りながらも、その生活の中に一瞬の奇跡を見出そうとする主人公の姿を、メランコリックに、かつ滑稽に描き出す、フラバルの傑作。